拳が一番
明らかに酔っているであろう男は覚束ない足取りでパルシィに向けて歩き続ける。
不快感を露わにするライとルイは男と彼女の前に立ち塞がる。
「おい・・・何だよその言い方。ここは亜人種歓迎の店だ。別にいたっていいだろ?」
「そうよ、そうよ!店からしたらあんたみたいな酔っ払いの方が迷惑なのよ!今日は閉店!さぁ、帰った帰った!!」
「おいおい・・・何だよお前ら。こんなクソみてぇなボロ屋に金落してやってんだぞ?亜人種なんて人間でも魔獣でもない化け物だろうが。そんな奴等が人間様と同じ場所にいるだけで反吐が出るだろ?」
・・・何だと?
その言葉を聞き流せるほど自分は寛容ではない。
目の前の男に怒りが湧きがる。
しかし、男はこちらの気持ちなど知る由もなくパルシィを舐め回す様に見る。
「・・・あぁ、もしかしてあれか?見せ物として買ったのか?だとしたら納得だ。それくらいしか役に立たねぇからな。それにしても・・・かなりの上玉だな、幾らしたんだ?何なら今晩貸してくれよ?金なら出してやるからよ」
「妹の言葉が聞こえなかったのか?今日は閉店だ。・・・出て行け」
一触即発の状況の中、ライの加勢に入ろうと剣を握りしめる・・・が、その手をフロウが掴む。
彼女は―――笑っていた。
「・・・何だよ?放せよ」
「っふふふ。ナ、ナナシ君・・・彼は中々・・・っひひ・・・ユ、ユニークだと思わないかい?」
「・・・はぁ?」
「だ、だって・・・そうだろう?ひひっ!この世界も大地も・・・誰のものでも無いだろうに・・・。いや、違うか。正確にはこの大地は全ての生命の物だ。確かに種族別の領土はあるが・・・そんなものはただのエゴだと思わないかい?全ての種族が手を取り合えば、どこの誰がどんな場所にいてもいいだろうに。更には自分達を人間様と呼んでいる・・・くふっ!ここまで驕ったたわけ者を見たのは久しくてね。笑わずには・・・いられないよ」
何が面白いんだよ・・・
笑い続ける彼女を余所に立ち上がろうとする・・・が、握り締められている手に力が込められ、再び彼女に視線を向ける。
彼女の顔からは笑みが消えていた。
「・・・ナナシ君。君はいつからそんなに好戦的になったんだい?私は君をそんな子に育てた覚えは無いよ?」
「友達が・・・パルシィが馬鹿にされてお前は何ともないのかよ?俺は「本当にそうかい?」
・・・はぁ?
本当にそうかって・・・何がだ?
それ以外の理由なんて他に無いだろう?
「確かに彼の思想や言動は決して褒められるものでは無い。正直、私もカチンときている」
「だったら「だが、それは命を奪う程の事なのかい?」
「それは・・・」
「君は『剣』から受け取った力を試してみたいだけじゃないのかい?」
「そんな事・・・!」
『そんな事は無い』『パルシィを馬鹿にされて黙ってなんていられない』『ライが危ない』
言いたい事は多々ある・・・が、それ以上言葉は続かない。
パルシィを馬鹿にした事を許せないのは本心だ。
断言できる。
だが・・・シャルロットから貰った力を試したいと心のどこかで思っていた事も否定はできない。
「私はね、命を奪う前には必ず降伏や撤退する時間と余裕を与えるようにはしている。例えどんな悪であっても命は1つだ。いきなり奪うような真似は決してしない。剣を抜いたら後は命のやり取りしかなくなる。君はそれでもいいのかい?」
確かに彼女はそうだった。
盗賊達の時も彼女は話し合いで解決しようとはしていた。
言っている事は理解出来る。
理解できる・・・けど、納得は出来ない。
不意に握られている手の力が抜ける。
「分かっているよ。納得はしなくてもいい。これはあくまで私のルールだ。君の道は君が決めたまえ。君は心根の優しい子だ。今もパルシィ君の為に怒ってあげている。だがね、ナナシ君。もしここで刃傷沙汰なんて起こしたら、ライ君達やパルシィ君にも迷惑が掛かると思わないかい?力には責任が伴う。どう扱うかで周りの者を幸福にも不幸にもしてしまうんだ。それでも刃を振るうというならば止はしないが・・・その前に一考してくれたまえ」
優しく微笑む彼女を前に・・・剣から手を放す。
「君は本当に・・・いい子だね」
満足気に彼女が微笑んだ時―――ライが男に殴りかかった。
男も即座に反撃をし、2人は掴み合いの殴り合いを始める。
ルイの悲鳴が響き渡り、呆然としているとフロウの声。
「おぉ!・・・ん?ナナシ君!何を呆けているのかね!!早くライ君を助けねばなるまい!」
「・・・え?だって、お前が・・・」
「え?いや、私が言ったのは刃傷沙汰の話だよ?拳は別腹さ。うんうん、男の子はこうでなくちゃいけないよ?白黒つけるには拳が一番さ。さぁさぁ、早くライ君の加勢に行きたまえ!私の分も彼を殴って来ておくれ!あぁ、くれぐれも命を奪わないようにね」
何だよこいつ・・・言ってることが滅茶苦茶じゃないか。
それにお前は来ないのかよ・・・
だが、今は一先ず置いておこう。
ライの加勢に入るべく駆け出す・・・が、パルシィが勢いよく立ち上がり―――踊り始めた。
・・・え?
いきなり何やってるんだ?
困惑していたが、彼女の優雅な舞に先ほどのまでの気持ちは消え・・・ただその姿に見惚れていた。
ナナシだけではない。
フロウもルイも・・・殴り合っていたはずのライと男すらも、彼女の舞を見つめ続ける。
先程までの騒音は消え―――店内を静寂が支配した。
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