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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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歪な魔構式


 目の前の魔構式はこれまで見た物とは違い、異質だった。

 形は歪み、(ことわり)も所々重なり合って形の判別すら難しい。

 不規則に動くそれを見ていると、不安な気持ちになる。

 呆然と見つめていると、腕に違和感を覚える。

 何だ?と、視線を送ると、そこにはフロウがいた。

 見た事も無い真剣な眼差しで、彼女は何かを呟きながら魔構式を食い入るように見つめている。


 「・・・なぁ、フロウ?」

 「どうかしたのかい?・・・あぁ、もしかして私の豊満な胸が腕に当たって興奮させてしまったかな?すまないね」

 「いや、何も当たってない・・・何で鼻にドングリ入れてるんだ?」


 真剣な眼差しで鼻にドングリを入れている魔女を見て、心底疑問に思った。

 こいつは何をやっているんだ?と。


 「いや、さっき約束してしまったからね。『君が魔構式を出したら鼻からドングリを食べてもいい』と。私は約束は守るタイプだ。・・・だが1つ問題があってね」

 「・・・何?」

 「私の鼻には残念ながら歯が無いんだ。つまりドングリを食べることは出来ない。かと言って君との約束を破るというのも私の信条に「食わなくてもいいよ。今のお前、すっごい不細工だぞ?」


 チラリとナナシに視線を送ると、勢い良く鼻からドングリを吹き飛ばす。


 「どうだい?これで可愛くなっただろう?」

 「可愛いかどうかはさておき、普段に戻ったな」

 「じゃあ可愛いじゃないか。ありがとう」


 それだけ言うと、彼女は再び魔構式に視線を移す。


 「君が式を出しただけでも驚きなのに、よもやこんなにも不安定な物を出すとはね。いや・・・君というか、その剣に式があったのか?だが・・・こんな式は見た事が無い」


 唇に手を当て、考える事数分。

 小さく息を吐きフロウはナナシの腕を掴む。

 今度は何だ?と、戸惑っていると指を立てるように指示をされる。


 「君は集中していたまえ。私が動かす。初めての共同作業というやつだ」


 初めて会った時の様な妖艶な笑みと彼女の髪からする甘い匂いに少しドキリとしたが、心を落ち着ける。

 苦労しながらも動かした指の後を光が追い、最後に軽く触れると・・・魔構式は光の粒となり剣に宿る。

 突然の出来事に驚愕していると、フロウは聞こえない程の小さな声で呟く。

 

 「ふむ・・・やはりそうなるか。しかし何故・・・」


 何かを考えているフロウだったが、ナナシは気になっていた事を尋ねる。 


 「あの・・・これはどうすればいいんだ?剣を振るとか?」

 「さて、それは私にも分からないよ。いいじゃないか、光る剣。夜中の散歩には最適な道具だ」

 「は?え?・・・何?」

 

 思わず聞き返すと、フロウは両手を上げる。


 「前にも言ったが、私は魔装品や武器の類には疎いんだよ。頼りの式は意味不明だし・・・正直、お手上げ状態と言ってもいい。だが、少なくとも君が式を出せることは分かった。それが君自身によるものか、その剣によるものかは別としてだがね」

 

 ふぅん。と、剣を見つめていると彼女は続ける。

 

 「だがまぁ、その式は安易には出さない方がいいと思うね。それだけ珍しい物だ、知的好奇心の塊の様な魔女や人間に見られたらタダではすまないだろう。それに、式を出すという事は魔力を消費している。君が出していた場合、どんな影響があるか・・・」


 そこまで言いかけて、2人は目を合わせる。

 きっと考えている事は同じだろう。


 「俺の記憶が無いのは・・・これが原因か?」

 「無いとも言い切れない・・・と、言うのが正しいね。だが、次の目標は決まった。ドワーフか・・・気が乗らないが、エルフの所に行くのが一番早いだろう」

 

 何故?と尋ねると、彼女はあからさまに嫌な顔をする。


 「エルフは好きじゃないんだ・・・けど、奴らは長寿で博識だからね。こんな特殊な式を持っている人間がいたとしたら知っていてもおかしくはない。仮に知らなくても、過去にいたかどうかや、何故魔女でもない人間が式を出せるのか、過去にもいたかどうかは分かるかもしれない。ドワーフに関して言えば、その剣を打ったのは恐らく彼等だ。その剣に式を入れたのならば、どういった意味があるのか分かるかもしれない」


 なるほどな。と、頷きながら考える。

 自分の素性か、剣の秘密・・・

 どちらを優先的に知りたいのかと言うと・・・答えは決まっている。


 「エルフってどの辺りに住んでるんだ?」

 「はぁ・・・やっぱりそうくるよね。少し待っててくれたまえ・・・」


 多少の予想はしていたとはいえ、フロウは本気で嫌がっている様だった。 

 大抵の事は笑い飛ばす彼女がここまで嫌がるエルフと一体どんな種族なんだ?

 多少の興味を持ちつつ、剣に目を向ける。


 (光が消えている?持続時間は大体3分位か?・・・散歩にも活かせそうにないな)

 「よし!こんなとこだろう!ナナシ君!見たまえ!」

 

 声の方向に視線を移すと、フロウは自慢気な顔でこちらを見ていた。

 疑問に思いつつも彼女の指さす方に視線を送り、首をかしげる。


 「何だこの・・・ミミズが這ったような跡は?ミミズでもいたか?」

 「おいおい、何を言っているんだい?これは世界の地図じゃないか。しっかりしたまえ」


 え?これが?

 地面に描かれている奇妙な物を凝視していると、彼女は説明を始める。


 「今の私達の現在地は・・・多分この辺だろう。エルフ達は・・・そう、きっとこの辺りにいる。だからこの道をこう行って、そこからこう行けば着くはずだ」

 「地図もさっぱりだが、『多分』とか『きっと』とか・・・本当に分かってるのか?それとも適当に言ってるのか?」


 疑いの眼差しを向けると、フロウは自分の胸を笑いながら叩く。


 「大丈夫、大丈夫!心配はいらないさ!私はこう見えても道に迷ったことが無い。いずれ多分きっと必ず目的地に着けるさ!ささっ!行こう行こう!」

 

 素早く足元の地図らしき物を消すと、彼女は歩き始める。

 心配しかないが、ついて行く他は無い。

 不安を抱きながらも、ナナシもその後に続いて行く。


 「お前・・・絵描くの下手なんだな」

 「下手じゃないさ、少し他人に理解され辛いだけだよ」

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

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