魔女のお茶会
華やかに彩られた部屋の中、巨大なテーブルを囲む様に12の椅子が並べられている。
5つは空席。
残りの席には7つの人影。
ある者はその時を黙して待ち、ある者は他の者と楽し気に会話し、ある者はテーブルの上に用意された菓子を口に運ぶ。
各々が自由に時を満喫するが、扉が開きその視線が一斉に向けられる。
そこにいるのは1人の少女。
金色の髪を靡かせ、優雅に歩き・・・1礼。
「御機嫌いかがかしら?皆さん?」
漆黒の瞳でその場にいる全員に視線を配り、笑みを浮かべる。
各々が返事を返すと、少女は満足気な表情を浮かべ席に着く。
先程までの騒がしい雰囲気は鳴りを潜め、全員が少女の言葉を待つ。
「まだ来てない人もいるみたいだけど・・・時間ね。お茶会を始めましょうか」
返事を返すと同時に、1人が問う。
これは何の為のお茶会だ?
紅茶をすすり、香りと味を堪能しつつ少女は答える。
「報告よ。多分皆さん知っているとは思うけど、『奪取』が死んだわ」
反応はそれぞれ。
だから何だ。と、溜息を吐く者。
驚きのあまり硬直する者。
気にも留めずに菓子を頬張り続ける者。
そんな事を報告する為にわざわざ呼んだのか?
先程の人物が再び尋ねる。
「いいえ?確かにあの子は強かったけど、死んだ事は不思議じゃないでしょう?油断、慢心、驕り・・・敗因何て星の数ほどあるもの」
だろうな。と、数人が鼻を鳴らす。
だが・・・だとしたら何故自分達を呼んだのだ?
少女は紅茶をすすり、菓子を一口。
「問題は『奪取』を殺した奴よ。誰だか分かる?」
紅茶か菓子が気に入ったのか、それとも別の何かか・・・少女は楽し気に尋ねる。
当然魔女だろうが・・・心当たりが無い。
少女が言う通りの敗因なら候補が多すぎる。
暫し無言の時間が過ぎ、少女は口角を上げる。
「正解は・・・『星月』」
瞬間―――その場の空気が一変する。
「まぁ、正確には『星月』と行動を共にしている『処刑人形』なんだけどね」
その言葉か届いているのかいないのか・・・反応はそれぞれ。
『星月』の名に不快感を表す者。
『星月』の名に怒りを表す者。
『星月』の名に驚愕する者。
『星月』の名に瞬きを繰り返す者。
『星月』の名に笑みを零す者。
『星月』の名よりも『処刑人形』に興味を示す者。
ただ目の前の菓子を頬張り続ける者。
1人が尋ねる。
どうやって殺したの?
「答えは簡単よ。その『処刑人形』が持っている剣・・・あれは『魔喰らいの剣』。『灰の時代』で死んだ魔女達の灰を打って作られた物。持ち主の魔力を吸い続け、魔力も魔法も問答無用で断ち切る事の出来る『魔剣』。あれを前にしたら、私達でも為す術なんて無いわ」
ざわめきが起こる中、少女は続ける。
「それに、あの剣は触れた者の魔力を吸収すると共に魔法・・・いえ、正確には知識も吸収する。生きて、渇望しているのよ。死して尚・・・知識を追い求め、探求している。今は恐らく、『星月』の魔法と『奪取』の魔法を吸収しているんじゃないかしら?」
暫しの沈黙が流れ、数名が尋ねる。
その『処刑人形』は何者だ?
貴方は随分・・・その剣について詳しいのね?
何故『星月』の魔法までも吸収されていると?
その質問一つ一つに答えを返していると、先程まで菓子を食べていた人物が尋ねる。
『星月』ってそんなに凄いの?
・・・はぁ?
失笑と溜息が部屋中に広がる。
無理も無い。
魔女であれば誰だって知っている。
『星月』の実力や恐ろしさは。
それを知らないとは・・・無知と言う言葉では済まないぞ?
キョロキョロと周りを見渡す彼女に少女は薄く笑う。
「もちろん凄いわ。貴方はここでは一番若いから知らないのも無理も無いかしら?ここにいる他の皆は実際に彼女と同じ時代を生きてきたから誰よりも彼女の事を知っているもの。ねぇ?何が凄いか分かる?」
魔法?
魔力量?
知識?
戦術?
戦闘センス?
悩みに悩んで幾つか答えを出すが・・・全て外れ。
いや、正確には外れではない。
確かに魔力量以外は並の魔女以上だ。
だがそれ以上に彼女には他の魔女を圧倒するものがある。
「ふふっ、時間切れ。正解を教えるわね。『星月』の最も恐ろしいところは―――その継戦能力。彼女は夜・・・正確には、『星』と『月』が上空にある限り魔力が減る事がないの。いえ、それどころか永久に魔力が上がり続けるわ。戦時中、これ程恐ろしい力は無いでしょ?幾ら魔力が多くても、所詮は有限。いつかは底をつく。でも彼女は無限。夜間限定だけど、彼女は戦い続ける事が出来る。それが彼女の・・・『星月』の力」
目を輝かせ頷く女性とは対照的に、幾人は苦い記憶からか明らかに不機嫌な表情に変わる。
それで・・・『星月』と『処刑人形』を殺せばいいのか?
その質問に少女は首を振る。
「いいえ、その逆。暫くは手を出さない様にしましょう。手を出されたら別だけど・・・ね」
納得がいかずに反論しようとするが、少女の漆黒の眼に口を噤む。
沈黙が流れ、少女は満足気に頷き笑みを浮かべる。
「今回のお茶会はここでお開きにしましょうか。来てない人には私から連絡しておくわ。それじゃあ、また次のお茶会で」
各々が席を立ち、数分もしない内に部屋の中には少女1人。
静まり返った部屋で紅茶を口に運び―――笑みを浮かべる。
「ふふっ、早く会いたいわ・・・お姉さま」
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