処刑人形と剣
・・・え?
今なんて?
ナナシが・・・処刑人形?
・・・何を言っているんだ?
彼は・・・ただの人間じゃ・・・?
突然のフロウの言葉に思考は止まり、開いた口が塞がらない。
そんなシャルロットを気にも留めず、彼女は続ける。
「まぁ、確かに亜人種やエルフ、オークと人間の交配は実例はあるし・・・実を言うと私も興味はある。そもそも処刑人形だって元を正せば人間だから何も問題は「ちょ、ちょ、ちょちょちょ・・・ちょっと待ってください!え?え?え?どっ、どどどど、どういう事ですか!?」
「ん?どういう事って?・・・あぁ、いやいや。興味があるとは言ったが、私は他種族との交わりはちょっと・・・観察はしてみたいという意味でだね、私自身は「ちっ、ちちち、違がいます!そこじゃないです!」
では何が?と、彼女は困った顔で首をかしげる。
「ほ、他の全部ですよ!?ナ、ナナシさんが処刑人形って・・・。そ、そそ、それに・・・処刑人形が元は人間って・・・」
「あぁ、そっちか。君は気付いていなかったのかい?『乳袋』は気付いていたみたいだから・・・てっきり君も気付いていると勘違いしていたよ。すまないね」
・・・『乳袋』?
え?
誰の事?
暫し考え、理解した。
あぁ、『奪取』の事か。
確かに彼女の胸は・・・いや、今はそんな事はどうでもいい!
いや・・・え?
『奪取』はナナシが処刑人形だという事に気が付いていたのか?
何で?
困惑するシャルロットを横目に、フロウはグラスを置きつつ眼下を歩くナナシに視線を向ける。
その眼は普段の彼に向けるものとは程遠い・・・酷く冷たいものだった。
「彼の異常な耐久性と回復力は明らかに人間離れしすぎだ。幾ら私が治療したとはいえ、この短期間で完全に傷跡を消す事は不可能だしね」
「そ、それだけで・・・ナナシさんが処刑人形だと・・・?」
「ん?い~や違うよ?それだと『乳袋』が気付いた理由にはならない」
確かにそうだ。
だったら何で?
考えを見透かした様に、彼女は薄く笑う。
「私が疑いを持ったのは初めて会った時だよ」
「初めて・・・ですか?」
「あぁ、そうだ。私の家の周りにはかなり高度な魔法結界が張り巡らせれていた。あれを感知できるのは、この世界で5人もいないんじゃないかな?並の魔女・・・いや、上位の魔女でも私の存在には気付けない。そんな結界。だが・・・彼は私に気が付いたばかりか、あろう事かその結界を破壊した。そんな事出来るなんて、魔女か処刑人形くらいだろう?」
再び酒を口に運び、続ける。
「君は処刑人形とは何だと考える?」
唐突な質問に再び思考が止まる。
処刑人形とは何か?
魔女に対抗する兵士・・・じゃないのか?
兵士・・・というか、兵器?
いや・・・でも・・・
ただの恐怖の対象としか見ていなかった存在だったが・・・自分はその殆どを知らない。
黙り込んでいると、質問を変えよう。と、彼女は視線を向ける。
「何故、魔女は女しかいないと思う?」
質問の意味が分からない。
何故と言われても・・・『魔法を使える男がいないから』としか言いようがない。
もしくは『魔女が女しか生まない』・・・からとか?
魔装具を使えば男も使えるが・・・純粋に自分の魔力をコントロールできる男は・・・え?
いや・・・そんな・・・まさか・・・?
一つの仮説が頭を過り、嫌な汗が流れる。
その表情に気が付いた彼女は小さく頷く。
「そう、その通りだ。魔女は女しか生めない訳じゃないし、男も生まれる。それが『処刑人形』だ」
「な、何で・・・」
「魔力のコントロールの問題だろうね。女は魔力の操作技術に長けている。これは生まれ持っての才能と言ってもいい。男にはそれがない。だが、魔力量は男の方が女を遥かに凌駕する。生まれ持っての莫大な魔力量をコントロールできない男は徐々に精神を壊され・・・最後には話す事すらできないお人形ってとこだね」
だから『処刑人形』は言葉を発さないのか。
それにあの歪な動きと表情を隠す仮面。
全てが納得できる・・・が
「で、でも・・・ナ、ナナシさんは・・・喋ってますよ!?感情もありますし・・・」
「そうだね。それじゃあ、もう一つ質問しようか。ちなみに『乳袋』はこれでナナシ君が『処刑人形』だと分かったみたいだ。ナナシ君の持っているあの剣は何だと思う?」
彼の武器?
ガラス細工の様に綺麗な剣だったはず。
あれに何かあるのか?
何故あれで『奪取』は気付いたんだ?
「ヒントだ。彼はあれを四六時中抱いている。赤子がおしゃぶりをするかの如くね」
確かに・・・言われてみれば彼はあれを常に放さない。
寝込んでいる時も彼に握らせていたけど・・・何の意味が?
暫し考え込むが、一向に答えは浮かばない。
「・・・わ、分かりません」
「そうか。それじゃあ、答えだ。あれは魔女達の灰で作られた剣だ」
「・・・え?」
「あの剣は持ち主の魔力を喰らい続ける、いわば『魔剣』と言ったところかな?だからこそ、彼はあれを手放さない。あれを手放したら、徐々に狂っていくだろうからね。『奪取』はあの剣の異質さに気が付いたが・・・油断していたみたいだ。あの剣は魔法をも喰らう。どんなに高度な防御魔法もあの剣の前には無に等しい。そんな感じだね。それに、あの剣は持った者の魔法を―――」
それからもフロウは何かを話し続けているが・・・耳には届かない。
やっとの思いでたった一言絞り出すのが精一杯。
「じゃ、じゃあ・・・何で・・・ナナシさんと・・・旅を・・・?」
怯えた表情のシャルロットとは対照的に・・・フロウは鼻を鳴らし、微笑む。
「決まっている。私を狙った者に会う為だ。理由を聞きたいからね」
「・・・ナ、ナナシさんが・・・もしも・・・て、敵対したら・・・?」
「それも決まっている。その時は―――私は躊躇う事なくナナシ君を殺すよ。降りかかる火の粉を放置するほど・・・私は優しくないからね」
冷たく言い放つ彼女を前に・・・額から汗が零れ落ちる。
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