歴史と魔法のお勉強
「そこで私は言ってやったんだ、『いやいや、モッカラコッシじゃあるまいて!』・・・と」
(何を言ってるか全然分からないのは・・・俺が記憶喪失だからか?)
隣で大声で笑い手を叩くフロウを見て、ナナシは呆れていた。
フロウと旅をして数日・・・幾らか分かった事がある。
1つ、フロウはよく喋る。
1つ、フロウは以外にも礼儀にうるさい。
1つ、フロウは過去の事を話したがらない。
これらの事を踏まえて考え、自分なりに結論を出した。
フロウはきっと良い所の令嬢なのではないか?
性格はアレだが、見た目だけでいけばかなり美しい。
整った顔立ちに、艶のある髪、透き通るような白い肌、見とれてしまうような金色の美しい目。
きっと彼女は幼い頃から厳しい教育を受けており、それに反発して家を飛び出た。
その反動からやたらと話すし下品な事も平然と言う。
だが、叩きこまれた礼儀は捨てることが出来ずにいる。
その話をすれば馬鹿にされそうだし思い出す為、話したくない。
・・・こんなところだろう。
自分の考えが正しいかはさておき、筋は通っているんじゃないか?
自分の推測に納得し頷くが・・・腑に落ちない点が幾つかある。
1つ、何故あの森に1人で住んでいた?
1つ、何百年も森にいたとは?
1つ、そもそも魔女ってなんだ?魔法ってなんだ?
「なぁ、フロウ。魔法って・・・何だ?」
絶えず話し続けていたフロウの口が止まる。
彼女は少し悩んだそぶりを見せ、確認する。
「そうだねぇ・・・。魔法を知るには、先ずは魔女・・・いや、この世界の歴史のお勉強が必要かな。私的には凄くつまらない話だからあんまり気が乗らないけど・・・聞きたいのかい?」
明らかに先ほどまでとは違い不満そうな顔をしているが、何かを思い出すきっかけにはなるかもしれない。
「あぁ、頼む」
しょうがないねぇ。と、フロウは困った顔を見せて話始めた。
エルフが秩序と自然を守り、オークがその身をもって脅威に立ち向かう。
ドワーフが岩を砕き鉄を打ち、人間がそれらを発展させる。
この世界は全ての種族が手を取り合い、歩んできた。
だが・・・この世に平等な事などありはしない。
ただ1つの不平等が全てを狂わせる。
その不平等こそが―――魔法。
魔力と呼ばれる力を使い使用できるそれは、世界の発展に大いに役立っていた。
だが、何故か人間にだけは魔力が宿らなかった。
魔力を犠牲に人間が得たものといえば、その爆発的な繁殖力。
世界の人口の半数以上が人間で溢れかえっていた。
他種族は危惧した。
このままでは世界が人間の物になってしまうのではないかと。
人間は危惧した。
このままでは増えすぎた人間は殺されてしまうのではないかと。
この時は皆、心の中で思うだけ。
言葉には出さない。
しかし、僅かに入った亀裂は確実に大きくなり始めていた。
魔法を諦めきれない人間は必死に研究した。
魔法とは何か。
魔力とは何か。
そして彼等はある事に気が付いた。
魔法を受けて死亡した獣が―――灰になった。
人間はその知識を持ってその灰の研究にとりかかった。
そして1つの事実に辿り着いた。
体に一定以上の魔力が流れると灰化する事に。
魔力を持つ他の種族ならば多少の抵抗はあるだろうが・・・人間には魔力は無い。
ほんの僅かな魔力でも人間には命取りになる。
絶望はした・・・だが、同時に新たな考えが生まれた。
魔力を持つ人間を創ることは出来ないだろうか・・・と。
何年も、何十年も、人間は研究を繰り返し―――ついに成し遂げた。
魔力を持つ人間―――魔女の創造に。
人間は歓喜したが・・・それと同時に、亀裂は急激に広がった。
他種族からしてみれば、それは禁忌。
自然の摂理を捻じ曲げる愚行。
数の多い人間が魔法まで使えるようになると・・・脅威に他ならない。
一方で人間からも少なからず非難の声は上がった。
当然だ。
魔力を持たない人間からしたら脅威でしかないのだから。
魔女は嫌われ、迫害された。
人間にも、他種族にも。
そこまで聞いて、自分の予想がてんで的外れだった事と先の村人の反応に納得がいった。
(そりゃ、あんなこと出来る奴は怖いよな。でも・・・)
フロウは少し寂しそうな表情を浮かべている。
(こいつだって、なりたくて魔女になった訳じゃないんだよな・・・)
ナナシの表情を見て考えを読み取ったのか、フロウは直ぐに笑顔を作る。
「と・・・まぁ、歴史のお勉強はこれくらいでいいかな?次はお待ちかねの魔法のお勉強だ。それとも・・・他のお勉強の方がいいかい?」
「あぁ、魔法で頼む」
つれないなぁ。と、肩をすくめるフロウを見て、先程までの気持ちが消える。
こいの頭の中はどうなっているんだろう?
しかし、せっかくの機会だ。
せめて何かを思い出さねば。
ナナシは軽く息を吐き、話を聞く。
フロウの目の前に、前に見た魔構式と言われる光の円が現れる。
「これは魔法構築式。魔構式だったり魔法陣だったり呼び方は人それぞれだけど、私は面倒だから式と呼んでいる。これが魔法の素になるものだね」
「素?」
「そうだね。まぁ、これに関しては説明よりも見た方が早い。見ていたまえ」
そう言うと、フロウは目の前の魔構式に向かって指を滑らせると、指の後を光が続く。
最後に優しく触れると、魔構式は光弾となり近くの木に直撃する。
これは野盗のリーダーが使ってたやつか?
感心しているナナシの足元にフロウは石を投げる。
「ナナシ君、その石を思い切り私に向けて投げてみてくれ」
「え?いいのか?」
「あぁ、構わないさ。まぁ、君の大好きな私に石を投げるのは抵抗があるとは思」
話終わる前にナナシは全力で石を投げる。
再び魔構式を出し、指を滑らせる。
先程とは違う動き。
最後に触れると、魔構式は壁になりフロウの前方に展開し石を阻む。
「おぉ・・・凄いな」
「とまぁ、こんな感じさ。最初に魔力を使って式を出す、その次に使いたい魔法の理に沿って魔力を流し、最後にもう一度魔力を流す。・・・というか君、思い切り投げろとは言ったけど多少は躊躇ってくれてもいいのだよ?」
「理?その絵とか文字みたいなやつか?」
無視して話を進めるナナシに、そうだよ。と、少しムスッとしながら答える。
「魔法とは知識。如何なる強力な魔法もその意味を理解していなければ、まともに扱うことは出来ない。逆を言えば、理解さえすれば何でもできるって事だね。まぁ、他にも色々と魔法についてはあるけど・・・面倒だからこれくらいにしようか。続きはまた今度にしよう」
石を投げられて拗ねたのか、本当に飽きたのか・・・フロウは大きな欠伸をして身体を伸ばしている。
そんな彼女を横目にナナシは考えていた。
「だったらあの野盗の奴も魔女なのか?」
「・・・はぁ?何でだい?」
「あいつも魔構式を出してただろ?」
その質問に少し考え、フロウは答える。
「あれは魔装品と呼ばれる物だよ。多分、指輪か何かがそうだったんじゃないかな?」
「魔装品?」
また知らない単語に首をかしげる。
「簡単に言えば魔構式を組み込んだ装飾品と思えばいいさ。私がまだ森に入る前に何度か見た程度だが、結構流通しているみたいだね。・・・それにしても、男が魔女って・・・ふふっ、あははっ!それじゃあ『魔女』じゃなくて『魔男』じゃないか!いひっ、いひひっ!」
何が面白いのか、フロウは腹を抱えて笑っている。
こいつの笑いのツボはよく分からないなと思いながらも、ナナシの頭には引っかかている事があった。
(魔構式か・・・俺は前にあれを見た事がある気が・・・)
先の村や先ほどのフロウの物では無い。
もっとずっと昔・・・覚えていないが確かに記憶がある。
「最後に一ついいか?」
「ふっふふふ・・・あ~・・・な、何だい?私は優しい魔女だからね、何でも答えてあげるよ?」
先程とは打って変わって、上機嫌になったフロウは未だに笑いを堪えている。
「魔構式ってどうやって出してるんだ?」
「出し方かい?ん~、説明が難しいね。いつも感覚で出してるからなぁ。こう・・・せいっ!とか、はあっ!みたいな感じと言えばいいのかな」
なんだその抽象的な表現は・・・
だが、試しては見るか・・・。と、剣を握りしめ集中する。
そんなナナシを見て、フロウは肩をすくめる。
「いやいや・・・ナナシ君。それは無理だよ。さっきも言ったが『魔力が使える女』だから魔女、『魔法とは知識』だよ?記憶を失くした男の君には使える要素がどこにも無いよ。仮にもしも万が一、君が魔構式を出せたら私は鼻からドングリを食べても「うお・・・出た」
へ?と、フロウが視線を送ると―――そこには確かに魔構式が出現していた。
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