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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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ポートラルトの戦い④


 「・・・勝負下着?」

 

 何を言っているんだ・・・こいつは?

 理解できずに呆けていると、フロウは大きく頷く。


 「あぁ、そうとも。君だって見ただろう?ほら、あの料理屋での事さ。・・・実物を見せた方が早いかな?」

 「ふふっ、結構よ。大丈夫、ちゃんと覚えているわ」


 裾を捲り上げようとする彼女を制止する。

 

 「おぉ!流石だね。いい記憶力だ。どこが気に入っているか聞きたいかい?教えててあげよう。まず私はこの―――」


 自分の下着の良さを目を輝かせながら語る魔女に口元が綻ぶ。

 

 「中々素敵じゃない。でも知ってる?勝負下着は男と女が一晩を共にする時に着けるものよ?戦いには全く関係ないんじゃない?」

 「え?そうなのかい?・・・参ったね。私には一晩を共にする異性は・・・いるにはいるが、ナナシ君かぁ・・・。うーん・・・彼の性癖は少々特殊なんだよなぁ。いくら私が魅力的でも・・・」

 「ふふっ・・・だったら私が良い男を紹介してあげるわ」


 ブツブツと独り言を呟くが、その言葉に顔を上げる。


 「おや、これはこれは・・・懐かしの処刑人形じゃないか。それも5体も。随分と豪勢に歓迎してくれるみたいだが・・・いいのかい?さっきも言ったが、今日の私は強いよ?」

 「かもね。・・・いきなさい」


 『奪取』の号令と共に処刑人形は動き出す。

 次々と襲い掛かる処刑人形達の攻撃をフロウは躱し続ける。

 いや・・・正確には躱す事しかできなかった。

 反撃を試み魔構式を展開するが、即座に次の攻撃が襲い掛かる。

 防戦一方の彼女を見つつ、考える。


 (身のこなしは中々、構築速度もかなりのものね。相手が5体の処刑人形じゃ無ければ、圧倒しているレベルと見ていいわね。それにしても・・・)


 僅かに目を細め、彼女の魔構式をじっくりと見る。

 

 (・・・何なの?あの魔構式。殆ど意味が分からないなんて・・・あの女、一体どれだけの知識量を持ってるの?)


 『奪取』が困惑するのも無理も無い。

 自身の魔構式と比べ・・・いや、今まで数多の魔女の魔構式を見てきたが、これ程までに複雑で理解しがたいものは無かった。

 ちっぽけな魔力で広範囲の海を凍結させる魔力操作、膨大な知識量、処刑人形相手にも怯まない精神力。

 この女やはり・・・

 疑惑が確信へ変わる。

 

 (残りの処刑人形は5体で魔獣が2体。進軍が止まっているという事は、どうやら向こう側に『剣』がいるみたいね。処刑人形3体と・・・魔獣も向かわせるとするか。残りの2体はここから離れて行くあの亜人種がいいわね。陽動作戦はわかったけど、戻ってくる気配が無い。まさか、ただにげているだけじゃないでしょう?何か策でも・・・ん?)


 ここで違和感を覚える。

 しかし、それが何なのかは明確には分からない。

 何だ・・・この違和感。

 残りの処刑人形と魔獣に指示を出し、防戦一方のフロウを凝視する。

 攻撃を躱し、魔構式を展開するが・・・やはり途中で中断、回避に移る。

 先程と同じ動き・・・だが、何かが違う。

 魔構式か?・・・違う。

 理は同じだったはず。

 魔力量?・・・これも違う。

 回避に専念している彼女の魔力は殆ど減ってはいない。

 反応速度?・・・いや違うな。

 全ての攻撃を避けてはいるが、余裕がある感じではない。

 じゃあ・・・何だ?

 考えていると、右翼側から魔力を感知すると共に地面を揺らすほどの叫び声が響き渡る。

 向こう側が接敵したか。

 だとすれば、向こうの亜人種もそろそろ・・・!

 ここで違和感の正体に気が付いた。

 それは・・・フロウの指。

 一番最初に見ていた時は全ての指を開いていたはず。

 だが、今はどうだ?

 4本の指を折り曲げるその姿は、まるで何かを数えているかの様にも見える。

 一体何を・・・?

 意図が分からず困惑する目の前で・・・彼女が攻撃を回避すると共に、最後の指が折り曲げられる。

 

 「さて・・・私の番だ」


 瞬間―――フロウが動き出す。

 飛びかかる2体の処刑人形の攻撃を躱すと同時に、凄まじい速度で魔構式を構築。

 2体の処刑人形を囲う様に氷の大地がせり上がり、拘束。

 側面から襲い掛かる処刑人形の攻撃を躱しつつ、顔面に魔力を当て怯ませる。

 上空から襲い掛かる2体の処刑人形の攻撃を躱し、再び魔構式を構築。

 着地した場所には穴が開き、下半身が沈んだ瞬間、再び氷の大地を生成。

 フロウの視線の先には上半身だけでもがく2体、その少し後方でふらつく1体、氷壁の中に拘束されている2体、そして・・・『奪取』の魔女。

 全ての標的を直線上に捉え、魔構式を展開すると共に折り曲げていた指を伸ばす。

 彼女の目の前には6つの魔構式。

 

 (ちょっと・・・冗談でしょ!?)


 マズイ。

 瞬間的に判断した『奪取』は即座に防御魔法を構築するが・・・


 「残念。私の方が速いよ」


 弾き出された魔力は魔構式を通過する度に強大になり、前方の敵全てを飲み込んでいく。

 削られた氷片が舞い上がる中、フロウは小さく息を吐き出す。


 「へぇ・・・あれを防ぐとはね。『乳袋』、中々やるじゃないか」

 「・・・お褒めに預かり光栄だわ。それから・・・私は『奪取』よ」


 そうだったかい?と、フロウは不敵に笑う。

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