ポートラルトの戦い③
「盾兵は前に出ろ!!陣形を組め!!魔装品を持っている部隊は後方に下がり援護しろよ!!来るぞ!!」
指揮官の号令の下、兵士達は次々に動き出す。
その中にはナナシとドロワの姿もあった。
2人も指示に従い位置取りを始めるが・・・聞こえてくる雄叫びに動きが止まる。
視線を向けた先には―――帝国の兵士達。
隊列も陣形も関係なく、凄まじい形相で走ってくるのが見える。
怒り・・・いや違う。
あれは恐怖か?
何で数で優っているあいつらがビビッて・・・
意味が分からないが、それどころではない。
あまりの勢いにドロワの・・・いや、こちらの兵士全員の動きが途端に鈍る。
無理も無い。
これまでの戦いは殆どタレッセが1人で防いでいたと聞いている。
兵士達が直接戦闘をした事などほぼ無いだろう。
本職の兵士が尻込みするくらいだ・・・ドロワ達義勇兵が戸惑うのも当然だ。
かくいう自分だって・・・膝が震えている。
当初の勢いはどこへらや・・・激しく動揺し、最早陣形を組む事すらままならないナナシ達と決死の覚悟で突撃を仕掛ける帝国兵士達との距離は50mもない。
接敵かと思われた瞬間―――互いの間に凄まじい衝撃が走る。
突然の出来事にその場にいる全員の動きが止まる。
氷片が舞い上がり、周囲を見回す帝国兵達の前に・・・『剣』が降り立つ。
「シャル!?」
「ド、ドロワ・・・大丈夫?少しだけ・・・待っててね」
彼女の話し方は出会った頃の様になっていたが・・・その眼はまるで違う。
決意を固めた・・・そんな眼だ。
「・・・わ、私は『剣』の魔女。シャ、シャルロットと呼ばれております。帝国の皆さんに・・・け、警告します。私達は・・・無用な戦いをしたくはありません。ですが・・・降伏もできません。私達がここで降伏してしまったら・・・これまでこの国を守ってきた人達の死が無駄になってしまいます。だから・・・お願いです。退いてください。このまま退いてくれたら・・・絶対に追撃はしません。お願いです」
魔女の言葉に兵士達は動揺する。
生きて帰れるのなら・・・
だが・・・ここで退いても『奪取』の魔女様に・・・
この魔女だったら俺達でも・・・
どうする・・・?
そのざわめきを断つかの如く、シャルロットは剣を地面に突き立てる。
「・・・そ、それでも戦いを望む方がいるのであれば・・・その線を越えてきてください。お、お相手・・・致します・・・!」
暫しの睨み合いが続く。
帝国の兵士どころか、味方の兵士達も困惑の色を隠せないが・・・これでいい。
戦わずに済むのならば、それが一番に決まっている。
誰だって死にたくは無いだろう?
頼む・・・退いてくれ!
その願いが通じたのか・・・帝国の兵士達は1人、また1人と数歩ずつ後退を始める。
やった!これで―――
後退していた兵士達の動きが止まり、代わりに3人の兵士が向かって来る。
・・・いや、待て。
向かって来るあいつらは・・・何だ?
本当に兵士か?
やたらと動きがカクカクしてるし・・・仮面をしているせいか表情が読み取れない。
一体なんだ?と、眉を顰めていると、シャルロットの声がする。
先程までも声は震えていたが・・・今の声はその比ではない。
明らかな恐怖と絶望を孕んでいた。
「う・・・そ・・・。な、何で・・・?しょ・・・処刑・・・人形が・・・?」
『処刑人形』・・・前にフロウから聞いた事があるぞ。
確か・・・『魔法に対する絶大な抵抗力』を持ってる奴らの事だったはず。
『奪取』が連れてきたのか?
魔女が・・・魔女殺しを・・・連れてきたのか?
呆然とするナナシを余所に、先に動いたのは『剣』の魔女。
魔構式を構築し、剣に魔力を宿し・・・処刑人形達を纏めて薙ぎ払う。
その一撃で周囲の兵士達はよろめき、転倒し、悲鳴を上げる。
荒い息で前方を睨み付ける『剣』だったが・・・その顔色は徐々に青ざめていく。
無傷。
3体の処刑人形は僅かに体勢は崩したものの、すぐに立て直し・・・『剣』向かって走り出す。
恐怖に押しつぶされそうな心を奮い立たせ、『剣』も応戦に移る。
激しい攻防を繰り広げるが、多勢に無勢。
徐々に『剣』が押され始めると・・・周囲の空気が変わる。
先程まで逃げ腰だった帝国の兵士達は立ち上がり、各所で叫び声が上がる。
魔女がいないなら・・・勝てるぞ!!
一気に押しつぶせ!!
進め!!進め!!
士気が高まった帝国兵達は次々に走り出す。
ナナシ達もすぐに迎撃態勢をとり、叫び声を上げる。
怯むな!!迎え撃て!!
魔女様達がいなくても・・・俺達の国を守るんだ!!
行くぞ!!
自らを鼓舞し立ち向かおうとするが、帝国兵達の後方に見える影を見て・・・思わず声を漏らす。
高速で迫りくる巨大な獣の姿。
あれは・・・『魔獣』か!?
何であんなものまで連れてきてるんだ・・・!?
帝国は本当に俺達を皆殺しにする気だ!!
2体もいるぞ!?
どうするんだ!?
動揺する一行と帝国兵が接敵する瞬間・・・上空から飛来した物体が地面に着弾。
激しい爆発音が鳴り響く。
怯む帝国兵達を前に・・・ドロワが叫ぶ。
「後方からの援護射撃だよ!!皆戦おう!!私達の国を守るって決めたじゃない!!」
その言葉に兵士達は覚悟を決め、走り出し―――両軍が激突する。
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