ポートラルトの戦い②
(また同じ攻撃?魔力はかなり込められてるけど、何度やっても・・・)
即座に防御魔法を展開する・・・が、『剣』の魔女の一撃は軍艦ではなく海面を薙ぎ払う。
何だ?
手元でも狂ったのか?
その一撃で全ての軍艦は大きく体勢を崩し、勢いよく波が巻き上がる。
船を沈める気か?
流石にこの程度で沈むはずが―――っ!?
意味不明の行動に『奪取』の魔女は眉を顰めたが・・・驚愕した。
一瞬のうちに海面は凍り付き、氷の大地が辺り一面を支配する。
衝撃で体勢を崩した軍艦からは次々に叫び声や動揺が響き渡る。
慌ただしい周囲の声をものともせず、『奪取』は考える。
この範囲を凍結させたのは・・・どっちの魔女だ?
『剣』は先程まで自分の目の前にいた。
出来るとは到底思えない。
『不老』か?
いや・・・彼女はまだこちらから離れている。
いくらなんでもこの範囲は流石に無理がある。
3人目の魔女がいるのか?
そんな情報は・・・
状況の整理を続けたいが、周囲の雑音が耳障りだ。
「落ち着きなさい。まだ死んだわけでもないでしょう?作戦変更よ。町を焼け野原に変えてもいいわ。ありったけの砲弾を撃ち込みなさい」
「い、いえ・・・そ、それが・・・多くの船が体勢を崩し、主砲・副砲共に狙いが・・・」
それが狙いか。
中々考えたじゃないか。
「だったら―――」
言いかけた言葉を飲み込み、氷の大地を見る。
そこに映るは右翼側から気勢を上げて突っ込んでくる敵の兵士達。
数は凡そ100といったところか?
ここで打って出てくるか。
少々の誤算はあったが、それならば都合がいい。
未だに動揺する兵達に向け、向き直る。
「何ぼさっとしてるのよ?早く行きなさい。奴らを皆殺しにするの・・・わかるわね?」
「し、しかし・・・敵には魔女が―――」
その言葉を言いきる前に・・・兵士の頭は吹き飛び、地面に崩れ灰となる。
「だから何?私は行きなさいと言ったのよ?・・・もう一度聞きたい?」
この場にいては殺される。
死を理解した周囲の兵士達はすぐに指示を出し、全ての船から兵士達が一斉に氷の大地を走り出す。
「そうよ、それでいいの。最初から素直に―――ん?」
満足気な表情でその光景を眺めていた『奪取』は何かに気が付き・・・口元を歪め、氷の大地に飛び降りる。
優雅に降り立ち顔を上げた先には・・・憎たらしい顔の魔女。
「やぁやぁ、『乳袋』。5日ぶりくらいかな?相も変わらず破廉恥な恰好をしているね。寒くないかい?顔も見たくなかったけど、1つ思い出したことがあってね。是非君に聞かせたいと思って、態々来てしまったよ」
「丁度良かったわ。私も貴方に色々と聞きたい事がったの。お喋りしましょう」
「おや?聞きたい事があるのかい?もちろんさ。私はお話しするのが大好きだからね。何でも聞いてくれたまえ。ただ、『どちらの胸が大きいか』という質問は止めておきたまえ。流石の私も君に勝てるとは思っていない」
ケラケラと笑う彼女に愛想笑いを浮かべながら尋ねる。
「貴方のちっぽけな量の魔力はここからどんどん離れて行くのに、何故貴方はここにいるのかしら?しかも、目の前の貴方からはそのちっぽけな魔力すらも感知できないのだけれど?」
「え?そうなのかい?不思議な事もあるものだね。私はずっと中央にいたんだけどね」
わざとらしく驚き、考える魔女を観察し・・・気が付く。
前に会った時・・・あんな指輪付けていたか?
その視線を感じたのか、フロウは満面の笑みで指輪を見せびらかす。
「ん?これが気になるのかい?目の付け所がいいね。これは私の友人から借り受けた物だが・・・どうだい?似合っているだろう?左手の薬指に着ければ悪い虫が寄ってこない呪い付きだ」
「・・・ふふっ、やはり貴方は面白いわね」
「お褒めに預かり光栄だよ。・・・しかしまぁ、よくよく考えたら伴侶もいない私がこれをつける必要は無いのかもしれないね。むしろ、付けてしまえば私の未来の伴侶は永遠に現れないかもしれないか」
彼女が指輪を外した瞬間、全てを理解した。
そういう事か。
指輪を外した瞬間、目の前の魔女からちっぽけだが魔力を感知できる。
あの指輪は魔力隠蔽。
つまり、ここから離れて行くあの魔力は奴の言う友人。
亜人種か何かだろうが・・・こんな貴重な指輪を持っているとは何者だ?
「・・・それで?」
「ん?それでとは?」
「何か私に言いたい事があって来たのでしょう?何かしら?」
平静を装い尋ねると、彼女は悩んだふりをしてわざとらしいリアクションをとる。
「あぁ、そうそう!危なく忘れる所だったよ。でもその前に1ついいかな?」
「どうぞ」
「悪い事は言わない、今ならまだ間に合うよ。このまま撤退してはくれないだろうか。この国の人達から自由を奪わないでくれ」
「・・・はぁ?」
驚き・・・というよりは呆れた。
この期に及んで話し合いで解決できるとでも?
ここまで来て軍を退けと?
あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いを堪えきれずに小刻みに身体を震わせる。
フロウは困った顔でそれを見つめ続ける。
ひとしきり笑い終え、目じりの涙を拭う。
「無理よ。今更何言っているの?ここの奴等は皆殺しか奴隷。国は帝国に吸収。これは決定事項よ。さぁ、早く思い出した事を言って」
「・・・残念だが、仕方ないね。実はね、君の娘さんと会った事を思い出したんだ。彼女の向かった先も知っているから・・・もしよかったら案内してあげようか?」
瞬間―――『奪取』は薄く笑う。
「・・・いえ、結構よ。それよりも、先に貴方を向かわせてあげるわ」
自分よりも圧倒的に強大な魔力の魔女を前に・・・フロウも薄い笑いを浮かべる。
「今日の私は強いよ?何せ・・・この前の勝負下着を履いているからね」
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