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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
3/85

旅の始まり


 突然の閃光に、村に散らばっていた野盗達は何事かと駆け付ける。

 周囲の視線を一身に受けているはずの魔女だが、気にも留めずに青年に尋ねる。

 

 「折角の再会なのに・・・どうかしたのかい?あまりに嬉しくて声が出ないとか?」

 「いや・・・その・・・呼んどいてなんだが・・・何で裸なんだ?」

 「え?私は寝る時は裸だって言ったじゃないか?今何時だと思っているんだい?良い子はとっくに寝ている時間じゃないか。あ・・・もしかして、君は悪い子かい?」

 

 いや・・・覚えてはいるし、多分悪い子ではない。

 困惑する青年を横目に、魔女は周囲を見回し尋ねる。


 「それにしても・・・ここは何処だい?私はてっきり、豪華な部屋に呼ばれると思ったが・・・まさかの野外だとは。しかも、随分とギャラリーも多いじゃないか。君はそういう特殊な癖があるのかい?」


 こいつは何の話をしているんだ?

 言っている意味は分からないが、これはチャンスだ。


 「魔女さん、頼む・・・ここの村の人達を助けてやってくれ!」

 「・・・はぁ?」


 先程まで頬に手を当て、照れた表情を浮かべていた魔女は固まった。


 「助ける?」

 「ああ!」

 「誰が?」

 「君が!」

 「誰を?」

 「村の人達を!」

 「何から?」

 「野盗達から!」

 「何故?」

 「何故って・・・人を助けるのに理由いらないだろ!?」


 迷うことなく答える青年を見て、魔女はポカンと口を開けている。

 直ぐに我に返り、眉をハの字にして呟き始める。


 「えぇ・・・え?えぇ・・・。こんなはずじゃなかったんだが・・・野盗?えぇ・・・」


 何やら思惑と違ったのか、魔女は本当に困り果てている。

 チラリと青年に視線を送る。

 

 「・・・本当にそれだけなのかい?野盗?」

 「ああ!それだけだ!」


 キッパリと断言する青年。

 少しの沈黙が過ぎ・・・突然、魔女は笑いだす。

 村中に響き渡るのではないかと言わんばかりの笑い声をあげ、自分の腿や手を叩き、目には涙を浮かべているではないか。

 ヒーヒーと苦しそうに呼吸をし、涙を拭うと魔女は声を振り絞る。


 「なっ・・・なるほ、ひひっ!なるほどねぇ・・・き、君は・・・ふふっ、良い子じゃないか。良い子にはちゃんとご褒美をあげなきゃね」

 

 助かった・・・のか?

 よく分からないが魔女が味方をしてくれるなら、村人は助かる。

 安堵感に気を緩めていると・・・


 「それじゃあ、君。服を脱ぎたまえ」

 「・・・何?」

 「服だよ、服。どんな相手でも対話をするときに全裸は失礼だろ?全く・・・君は記憶と一緒に常識まで無くしてしまったのかい?」


 魔女はやれやれと呆れたように肩をすくめる。

 さっきまで全裸だっただろうが。

 口から出そうな言葉をぐっと飲み込み、痛む身体を起こして服を渡す。


 「うーん・・・臭くはないけど、あまりいい匂いはしないね。それにちょっと汚れてる。まぁ、無いよりはマシかな」


 ブツブツと文句を言う魔女を見ながら、彼女の家を思い出す。

 こいつ・・・自分がどんな家に住んでいたのか忘れたのか?

 急にこの魔女に頼った事が不安になる。


 「・・・よし。さてさて、準備は出来た。しかし、ここまで黙って見てるだけとはね。野盗という割には彼等は良い子なのかい?」


 確かにそうだ。

 魔女が現れてから暫く経つが、野盗達は何もしてこない。

 いや、野盗だけじゃない。

 村人達も誰一人として口を開いていない。

 目の前に急に全裸の女性が現れ、訳の分からないことを口にすれば誰だって混乱する。

 青年はそう予想していたが、実際は違う。

 恐怖・畏怖・動揺・困惑・絶望。

 ありとあらゆる負の感情が彼女に対して向けられている。

 ここでようやく・・・村人と野盗が声を出す。

 

 さっきあの人・・・魔女って。

 本当に魔女なのか・・・?

 何でこんな所にいるんだよ!?

 逃げるぞ!殺される!!

 魔女が嫌だからこの村に住んでるのに・・・。

 

 彼女に向けられる言葉に応援や称賛は無い。

 しかし、そんな事はどこ吹く風。

 魔女はコホン。と、咳ばらいをして目の前の野盗達に語り掛ける。


 「あ~君達。えっと、その・・・なんだ。あ~・・・止めなさい!」


 意味不明な言葉に全員が固まった。

 流石にこれはマズイ。

 

 「おい!今の何だ!?さっきまでの饒舌はどこいったんだ!?」

 「しょ、しょうがないじゃないか!久々に人前で話すんだぞ!?私だって緊張くらいするさ!」

 「って言うか何で説得しようとしてるんだよ!?早くあいつらを倒してくれよ!!」

 「おいおい、発情期の獣だって相手にお伺いくらいたてるものだぞ?相手との対話も無しにそんな強引に・・・あ、やっぱり君はそういった特殊な癖が・・・?」


 ギャーギャーと言い合う2人を見て、野盗のリーダーは大きく笑う。


 「こんなマヌケな女が魔女?そんな訳あるかよ!」

 「で、でも・・・あいつ・・・魔構式(まこうしき)から・・・」

 「見間違いだ!多分あいつは亜人種か何かの類だ!どの道なんだろうが・・・こうすれば関係ぇねぇ!!」


 野党のリーダーが手を翳すと、魔構式と呼ばれる淡い光の円が出現する。

 先程の物によく似てはいるが、円内の絵や文字が違う。

 それをなぞる様に手を動かすと、光が一層強くなる。

 瞬間―――光の円が光弾になり、魔女に向かって凄まじい速度で進んでいく。

 爆発音と土煙が舞う中、野盗のリーダーは高笑いを上げる。


 「どうだ!?思い知ったか!!」


 周囲が騒めき、高笑いを続ける中・・・土煙が徐々に晴れ―――笑いが止まる。


 「初めて会う女性に対して些か強引が過ぎるね。まぁ、私は強引なのも嫌いではないが・・・」


 光弾が直撃したはずの魔女は無傷。

 確かに当たったはず・・・

 野党のリーダーは叫びながら再び光弾を放つ。

 何発も、何発も・・・

 肩で息をする彼だったが、再び土煙が晴れると・・・絶望した。


 「お~・・・随分と元気がいいね。やはり男の子はそうでなくちゃいけないね」

 笑顔で関心する魔女だったが―――空気が一変する。


 「だが、生き残るチャンスを逃した君は・・・たわけ者だ」


 瞬間―――魔女の目の前に魔構式が出現する。

 だが、それは先程の物とは比べ物にならないくらいの文字や絵が敷き詰められていた。

 滑る様に魔女がなぞり、指先で軽く弾く。

 一瞬だった。

 円が光線に変わり、野盗のリーダーを飲み込む。

 村人や野盗達が視線を向けるが、その場にあるのは足首のみ。

 静寂が周囲を包む。


 「む・・・力の加減が難しいな。やりすぎたかな?・・・まぁ、いいか。あぁ、君達はもう帰ってかまわないよ。死にたいのなら別だがね。それとそこの君は剣を置いていくように。これに懲りたら―――」


 バツが悪そうに話す魔女の言葉など誰が聞いているのだろうか。

 野盗達は悲鳴を上げて散り散りにその場を後にする。

 唖然とする青年だったが、目の前に剣を置かれて我に返る。


 「ほら、君のだ。あまり無茶はするもんじゃないぞ?命は1つ、大切に。だ」


 クスクスと笑う魔女に―――恐怖した。

 出会った時や先程まで話していた人物と・・・本当に同じか?

 だが・・・彼女のおかげで村人の被害が最小限で留まり、自分が助かったことも事実。

 今は彼女に感謝をしよう。

 青年は立ち上がり、村人に視線を向ける。

 その表情から読み取れるものは恐怖だけ。

 当然だ。

 自分は何も出来なかったとはいえ、魔女を呼び出したのは自分だ。

 別に感謝して欲しいわけではない。

 だが、魔女に向けるその視線に僅かに心が曇る。

 小さく息を吐き、村人達に1礼してから魔女に向き直る。

 

 「助けてくれてありがとう。俺は行くから、気を付けて帰ってくれよ」

 「・・・ん?え?ちょちょちょ、ちょっと待ちたまえ!」

 「どうした?」

 

 歩きかけたが、振り返ると魔女はワタワタと手を動かし焦っていた。


 「どうした?じゃないだろ!?君は私を置いていくつもりなのかい!?」

 「え?・・・あぁ、家まで送ろうか?」

 「え?いいのかい?・・・じゃなくて!私に会いたかったんだろう!?そうだろう!?」

 「あぁ・・・まぁ、助かったよ」


 何が言いたいんだ?と、困惑する青年に、業を煮やした魔女は尋ねる。


 「ええっと・・・君はこれからどうするんだい?」

 「そうだな・・・取りあえず色々歩き回ろうかと思ってる」

 「誰と?」

 「は?えっと・・・1人で」

 「何故?」

 「何故って・・・」


 ここでやっと魔女の言いたいことが分かった。


 「・・・一緒に来るか?」

 「来るかって・・・こ、今度は私をどこに連れて行こうというのだね!?そして何をしようと言うのかね!?いかがわしい場所だろう!?私は絶対に「元気でな」


 青年が歩き出そうとするが、再び魔女が前に回り込む。


 「あぁ!!嘘嘘!!魔女ジョーク!魔女冗談!魔女ユニーク!!行く行く!一緒に行くよ!!」

 「分かった!分かったから引っ付くな!!」


 その言葉を聞き、魔女は上機嫌になり締まりのない笑みを浮かべる。

 本当にこいつはさっきまでと同じ奴か?

 余りの違いに信じられなくなり、チラリと野盗のリーダーだった物に視線を向ける。


 (・・・砂?いや、灰・・・か?)


 そこにあったはずの残骸は無くなっており、代わりに灰の様なものが風に流されている。

 一体何が?

 疑問に思い近づこうとした時、魔女の声がする。


 「それじゃあ、呼び方はどうしようか?何か要望はあるかい?」

 「呼び方?」

 「そうだろ?これから一緒に旅をするんだ、いつまでも『君』じゃ失礼じゃないか」

 「・・・変なのじゃなかったら何でもいいぞ」

 

 そうだな・・・。と、魔女は少しの間考え込み、口を開く。


 「それじゃあ、名無しだから『ナナシ』君にしようか」

 「いや・・・忘れてるだけで名前はあると思うぞ」

 「じゃあその時は『ナアリ』君に改名しようか」

 「その時は普通に名前で呼んでくれよ」

 「あっはっは!それもそうだね」


 ケラケラと笑う魔女を見ながら、随分と安直な付け方だが・・・無いよりはマシか。と、僅かに笑う。


 「あぁ、私の事は好きなように「『フロウ』でいいだろ?」


 不老の魔女だから『フロウ』

 これまた安直だが・・・仕返しだ。

 きっと彼女は『おいおい、もう少しいい呼び方を』などと言うだろう。

 ナナシはそう予想していたが、違った。


 「『フロウ』・・・か。良い呼び名だ。うん、気に入ったよ!ありがとう、ナナシ君」


 予想に反し、屈託のない笑みを見せるフロウに少しドキリとした。

 悟られまいと軽く咳ばらいをして頬を掻いていると、フロウは手を差し出す。


 「これからよろしく頼むよ、ナナシ君」

 「あぁ・・・よろしくな、フロウ」

 

 ナナシがその手を掴むと、フロウは微笑む。

 

 「今度はちゃんと掴んでくれたね」

 「・・・まぁな」

 

 ナナシとフロウ・・・2人の旅が今始まる。


 「そういえば・・・フロウ、服返せよ」

 「おいおい、ナナシ君。君は私に全裸になれと言うのかい?まぁ、それもやぶさかではないが・・・」

 「・・・もういいよ」

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