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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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覚悟と責任


 王都を出てから2日目の夜。

 ふと目が覚め、起き上がる。

 呆けた頭で周囲を見回し、気が付いた。


 (・・・フロウ?どこに行ったんだ?) 


 穏やかな表情で眠っているパルシィの隣に彼女の姿は無い。

 まぁ、自由奔放な彼女の事だ。

 気にしてもしょうがないか。

 再び横になり目を閉じるが・・・すぐに起き上がる。

 溜息を吐き出し、1枚の布を拾い上げ・・・森の中を歩き出す。




 月と星が見守る中―――フロウの水辺にある岩に座っていた。

 魔構式を展開し、それを眺める彼女に表情は無い。

 無心でそれを眺めているが、不意に笑みを零す。


 「どうしたんだい?明日も早いよ?朝には港について、剣の魔女を探さねばならないからね。眠れないのかい?それとも・・・夜這いのお誘いかな?」

 「そんな訳あるかよ」

 

 魔構式を消し、妖艶な表情を浮かべる彼女に布を投げつける。

 連れないねぇ。と、彼女は少し移動し、隣に座るように促す。

 それに従い腰を降ろし・・・暫し、無言の時間が流れる。

 水の流れる音と虫の鳴き声が静かに響く中、フロウが軽く笑う。


 「せっかく訪ねてきたのに無言とはね。まぁ、私はこの時間が好きだから構わないが。でもね?どうせ来るのなら、私が買った下着を持ってきてくれてもよかったのではないのかい?君だって興味があるだろう?」

 「無いな」


 荷物漁って下着持って来いって?・・・出来るかよ。

 悪戯っぽく笑う彼女に呆れた様に溜息を吐く。


 「君の言いたい事は分かっているよ?何故、パルシィ君の同行を許可したのか・・・だろ?」

 

 頷くと、彼女はこちらに視線を向ける。

 

 「先にも言ったが、彼女の意思を尊重したまでだよ」

 「けど・・・」

 「仮に私達が駄目と言っても、彼女は1人でも行くと思わないかい?その方が色々と面倒になると思うよ?だったら、共に行動した方がいい・・・違うかい?」


 確かに・・・彼女の言う通りだ。

 彼女がいきなり現れたところで、戦いの邪魔にしかならないだろう。

 下手をしたら、そのまま拘束される可能性だってある。

 だが、自分達と一緒ならどうだ?

 少なくとも、タレッセは剣の魔女にフロウの事は話しているはず。

 いきなり拘束されるという事は無い・・・はず。

 フロウなりにちゃんと考えてたんだな。と、感心する。


 「ただね?こうは言っても・・・余り気乗りがしないんだ」

 「何でだ?」

 「純粋で心の優しい彼女を戦場に連れて行くのだよ?彼女の踊るべき場所は、もう少し優しい場所がいいとは思わないかい?」

 「・・・そうだな」

 

 本当にこいつは・・・他人の事を気に掛ける。

 彼女の思いを聞き無言になると、彼女は珍しく真剣な表情になる。


 「ナナシ君、君も同じだよ?」

 「同じ?」

 「あぁ、そうさ。私はね、君にも戦場には出てほしくないんだ。君がタレッセ君の事で『奪取』に怒りを覚えているのは十分に理解しているつもりだ。しかし、今から向かうのは戦場だ。奪取以外も君に襲い掛かるだろう。そうなった時、君はその怒りで他者を殺めるつもりかい?命を奪う覚悟と命を背負う責任は・・・出来ているのかい?」


 その眼差しに・・・息を飲む。

 金色の瞳が自分の心を見透かしているような感覚。

 この瞳を前に嘘など付けるはずも無い。

 命を奪う覚悟と・・・命を背負う責任・・・

 そんな事・・・考えたことも無かった。

 当然だ。

 命を奪った事など無い。

 過去の事は覚えてないが・・・過去もそうであって欲しいと心から願う。

 確かに、最初の村での野盗やアレグリアに対して剣を振りかざした。

 だが、それはただの怒りだ。

 村の人達を殺した奴等への・・・怒り。

 それ以上の感情もそれ以下の感情も無い。

 しかし、今回は違う。

 侵略をしようとはしているが、誰かが殺された訳ではない。

 その命を・・・奪えるのか?

 自問自答を繰り返し俯くナナシから視線を外し、フロウは空を見上げる。


 「どっちも・・・出来てない」

 「・・・だろうね。だったら「でも・・・でも!ただ平和に暮らしている人達が襲われるのを、黙って見てるなんて出来ねぇよ!!覚悟も・・・責任も・・・わかんねぇけど・・・でも!」

 「・・・質問への答えとしたら、悪いが10点もあげられないね」

 「・・・俺は「だが、それでいいんだ」


 は?と、顔を上げると―――フロウは柔らかく微笑んでいた。


 「ただそこで暮らす人達を守る為に戦う・・・それでいいじゃないか。口先だけで覚悟だの責任だののたまうたわけ者達よりも、立派だよ。君は君の信念を貫いて戦いたまえ。た・だ・し、死ぬのは駄目だよ?君が死んだら、私は悲しくなってしまう」


 彼女の微笑みに恥ずかしさを覚え、話題を変える。


 「そ、そう言えば!お前、何でこの剣が俺にとってのおしゃぶり何て言ったんだよ!?もう少し別の言い方あるだろ!?何だよ、おしゃぶりって!?」

 「え?だって、いつも持っているじゃないか。寝る時も持っているんだよ?それに、それを手放した時の君の顔ときたら・・・っく、ふふっ・・・」


 その表情を思い出し、彼女は腹を押さえて小刻みに震えだす。

 そんなに笑うほどの顔してたのか・・・?

 僅かにショックを受け、立ち上がる。


 「・・・もう寝る」

 「あ、あぁ・・・おやすみ・・・。ひひっ・・・お、おしゃぶりを・・・は、はなさ・・・ないようにね・・・っく、ふふ・・・」


 先程までとは別の気恥ずかしさを覚え、そそくさとその場を後にする。

 ナナシが去り、水場に静寂が訪れると同時に・・・フロウは再び魔構式を展開する。

 その顔に先ほどの笑みは無く・・・虚ろな瞳で目の前の魔構式を見つめ続ける。

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