踊るべき場所
「さてと・・・食事も済んだ事だし、そろそろ行こうか」
「行くって・・・どこに?」
思わずフロウに尋ねるが、返事は無い。
彼女はパルシィに視線を移し、申し訳なさそうな顔をする。
「すまない、パルシィ君。私達はこれから少し野暮用で港まで行かねばならなくなった。ここの支払いはナナシ君に任せてくれたまえ。もう少し一緒に街を回り、踊る為の最適な場所を探したかったのだが・・・申し訳ない」
「い、いいえ・・・気にしないでください。それよりも、何で港に?」
「ん?簡単な事さ。5日後に『奪取』はこの街から一番近い港を襲うだろうからね。剣の魔女も多分そこにいるだろうし、戦場と戦力の把握はしておきたいからね。一番近い港には2日はかかるとして・・・残された時間は3日程度しかない。あまり悠長に構えている時間も無いのさ」
「何で港が襲われるって分かるんだよ?」
支払いの件について文句を言おうとしたが、それを飲み込み尋ねる。
魔女との会話でそんな話はしていなかったじゃないか。
その質問にも返答は無く・・・彼女は無言で荷物から1枚の紙を取り出す。
その紙は?と、尋ねる。
「・・・タレッセ君の書き置きだ。彼女が王都で話した内容が書かれていたよ。日時は分からないが、攻めるとしたら近場の港になると書かれている。その理由もね。読んでおきたまえ」
「タレッセの・・・」
紙を受け取り、目を通す。
そこに書かれているものは確かにタレッセの文字。
彼女の顔が脳裏に蘇る。
「私達の身を案じて、他の港に行くことを勧めてくれているよ。それに、態々この大陸を出た後の経路まで書いてくれている」
つい数日前の出来事だが、フロウは遥か昔を懐かしむ様に目じりを下げる。
読み進め、最後の一文に・・・目が止まる。
『旅が無事に終わったらいつでも来なさい。村の皆で歓迎するわ』
村での日々が走馬灯の様に駆け巡り、無意識に紙を握る手に力が入る。
2人のやり取りを見ていたパルシィが気まずそうに尋ねる。
「あの・・・タレッセさん?って?それに・・・先程ナナシさんが『タレッセと村の人を殺した』と言いかけた様に聞こえましたし、フロウちゃんも『何故村を襲わせた』って言ってましたけど・・・それってどういう・・・?」
しまった。と、フロウに視線を送ると・・・彼女も、やってしまった。と、いう表情を浮かべている。
パルシィにはタレッセの村の事は話していない。
他人に話す内容でも無ければ、心優しいパルシィをわざわざ悲しませる必要も無い。
フロウの提案でそう決めていたが・・・迂闊だった。
どうする?と、目で訴えかけると・・・彼女は少し考え、観念したように息を吐き出す。
「まずは謝罪をするよ。すまなかった、パルシィ君。君に隠し事をするつもりは無かったんだ。ただ、あまりいい気分になる話でもないからね。これを聞いたら、君は悲しい気持ちになると思うが・・・それでも聞きたいのかい?」
「・・・はい!私はフロウちゃんとナナシさんの・・・友人ですから!」
「・・・そうだね。それじゃあ―――」
フロウはあの村での出来事を話した。
淡々と話す彼女だったが、その声はどこか陰を感じる。
聞いているだけでも苦痛を感じるのに・・・話している彼女はどれほどの苦痛を感じているかなど想像もしたくない。
一通りの話を終え、フロウは紅茶を口に運ぶ。
「・・・これが、あの村での出来事だよ。この国を守るだとか帝国が嫌いだとかではなく、あの村を守る為に私とナナシ君は戦うつもりだ。それが、タレッセ君との約束だからね」
「そんな・・・事が・・・」
パルシィは動揺していたが・・・無理もない。
本当に・・・話してよかったのだろうか?
例え彼女が聞きたがっていたとはいえ、話すべきでは無かったのではないか?
フロウの決断を非難はしない。
非難されるべきは、決断を下さなかった自分だ。
思い返せば常にそうだ。
自分は彼女におんぶにだっこ・・・
何一つ・・・自分で決断していないのではないか?
「私も」
え?と、我に返る。
視線の先のパルシィは何かを決意した表情で再び口を開く。
「私も一緒に行きます!」
「・・・本気かい?」
フロウの言葉に強く頷く彼女を見て・・・思わず立ち上がる。
「だ、駄目だ!危険すぎる!俺達は戦争に参加しようとしてるんだぞ!?」
「はい、知ってます。だけど・・・このまま平和を愛する人が傷つくのは見たくありません!」
「だけど「それに、私は言いましたよね?『争いを忘れて、皆が笑顔になれる様に踊りに来た』と。私の踊る場所は・・・決まっています!」
本気で言っているのか?
まさか戦場で踊る気か?
そんな馬鹿な事・・・止めないと。
「・・・わかった。君の意志を尊重しよう。パルシィ君・・・君は本当にいい子だね」
「おい!フロウ!お前「ナナシ君」
言葉を遮られて視線を移す。
「パルシィ君が自分の意志で決めた事だ。我々がそれを止める事など、無粋だとは思わないかい?」
「だけど「まぁ、積もる話もあるだろうが時間が無い。話は移動しながら聞くから・・・支払いをよろしくね」
それだけを言い残し、2人は店を後にする。
取り残されたナナシは唖然としながらも・・・小銭入れに手を伸ばした。
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