奪取の魔女
「娘・・・ねぇ。いや、生憎と分からないね。年頃の娘さんなら、その辺で買い物でもしてるのではないのかい?」
運ばれてきた料理を手に取り、フロウは興味なさげに答える。
そうかもね。と、奪取の魔女は薄く笑う。
傍から見れば穏やかなやり取りだが、嫌な汗が流れる。
魔女・・・娘・・・
思い当たる節は一つしかない。
自分達がここまで会ってきた魔女は2人。
タレッセとアレグリア。
しかし、タレッセは無い。
母親の事など聞いてはいないし、そもそもこの女は帝国から来たと言っていた。
降伏勧告・娘・魔女・髪の色・そして・・・笑みの裏にある異常な雰囲気。
探しているのはアレグリアで間違いない。
あの魔女の・・・母親?
あの村での出来事が蘇ると同時に、唖然とした。
アレグリアの母親だとしたら・・・若すぎないか?
タレッセと同年代にしか見えない魔女を見つめていると、視線に気が付いたのか・・・妖艶な笑みを浮かべる。
「あら?そんなに見つめてどうしたの?」
「い、いや・・・何でも・・・」
辛うじて声を出し、フロウに視線を送る・・・が
何やってんだよ・・・あいつ・・・
視線の先の彼女は下着をしまい、今度はボロボロのぬいぐるみを手に取って遊んでいた。
状況が分かってないのか?
彼女の奇行に動揺しならがらも視線を魔女に戻す。
その顔には未だに笑みが張り付いていたが・・・明らかにその眼光は変わっていた。
何かを探る様なその瞳を前に、ゴクリと唾を飲み込む。
「ところで・・・よく私が魔女と分かったね。魔力はかなり抑えていたはずだったんだけど?」
「えぇ、そうでしょうね。おかげで探し出すのに苦労したわ」
「わざわざ探し出すほど私に会いたかったのかい?私は別に会いたくは無かったけど」
「あら?どうして?」
柔らかな笑みを浮かべる魔女に、フロウはあからさまに嫌そうな顔を見せる。
「そんなに下品な服を着て何を言ってるんだい?これ見よがしに胸をさらけ出しちゃって・・・あ~やだやだ」
確かに、彼女の服装はかなりきわどい物だが・・・完全に妬みじゃないのか?
それに、パルシィの時のあのテンションはどうしたんだよ・・・
笑いを零す魔女に、彼女は拗ねた表情で尋ねる。
「それで?結局、何の用なんだい?本当は娘の事じゃないんだろう?」
「えぇ、そうよ。あんな馬鹿な子、正直どうでもいいわ」
「随分な言い方だね。娘さんが聞いたら悲しむと思うよ?」
そうかもね。と、魔女は再び笑う。
「それで、本題なのだけれど・・・率直に言うわ。貴方、私の下で働いてみない?」
「はぁ?」
怪訝そうな顔をするフロウに、魔女は説明を始める。
先程の降伏勧告は無駄に終わり、5日後この島に対する攻撃を開始する事。
娘が行方不明の為、今回は自らが指揮をとる事。
「でも、流石に魔女を2人も相手にするのは面倒じゃない?だから・・・ね?私の下に付けば、そうね・・・この島の一画をを貴方に与えるとかどうかしら?それだけじゃないわ。金も名誉も男も・・・貴方が望むなら、好きなだけ与えてもいい。どう?悪い条件じゃないんじゃない?」
「分からない事が幾つかあるから、質問いいかい?」
どうぞ。と、笑みを浮かべる奪取の魔女から視線を外さずに、紅茶を口に運ぶ。
「1つ目。私の事を買いかぶりすぎじゃないのかい?知っての通り、私の魔力は非常に少ない。正直、君の1分にも満たない。そんな私を仲間に引き入れるメリットはどこにも無いと思うけど?」
「魔力量は少なくても、それを補うものが貴方にはあるじゃない?さっきも言ったけど、本当に探すのに苦労したのよ?魔力を限りなく感知されないレベルで維持し続けるなんて・・・並の魔女じゃできないでしょ?それに、魔力を隠したタイミングもそう。私の魔力を察知した瞬間、貴方はすぐに消して離れて行ったじゃない。瞬時の判断力と精密な操作技術・・・それが貴方にはあるんだもの、魔力量なんて大した問題じゃないでしょ?」
言葉は発さなかったが、フロウの考えは目を見れば分かる。
よく観察してるじゃないか。
そんな目だ。
だが、何故フロウが足早にあの場を去ったのかがやっと理解できた。
彼女は気付いていたんだ。
帝国の魔女が来ている事に。
だが・・・どうしてそれを言わなかった?
「2つ目。何故この島にそこまで拘るんだい?確かに、過去に帝国の領土ではあったみたいだが・・・これまでは放置してたのではないのかい?理由が分からない」
「そうねぇ・・・理由は、これよ」
そう言って彼女が手にした物は・・・
「花?」
目をパチクリさせるパルシィとは対照的にフロウは目を細める。
「そう、この花よ。名前は・・・何だっけ?忘れちゃったわ。『タベット』?『カッシリ』?まぁ、どうでもいいわ。この花がね、帝国の・・・いや、世界中の貴族の中で大変人気があるの。ここまで言ったら、意味わかるわよね?」
「資金源の確保って事だね」
「その通りよ。話が早くて助かるわ」
奪取の魔女はクスクスと薄く笑う。
そんな彼女に・・・いや、その場にいる全員に聞こえない小さな声でフロウは呟く。
「・・・たわけ者が」
彼女の目には・・・僅かに怒りが滲んでいた。
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