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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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不老の魔女


 不老?魔女?

 目の前の少女は何を言っているんだ?

 差し出された手を握ることなく困惑する。

 だが、魔女という言葉はどこかで聞いた気が・・・


 「握手は無し・・・か。まぁ、出会ったばかりだからね。それもいいだろう。これから徐々に仲を深めていこうじゃないか」


 気が付いた時には不老の魔女は手を下げており、頬杖を突きニコリと微笑む。

 握手くらいすればよかったか?

 若干の後悔を抱いていると、彼女は気にせずに続ける。


 「でも、折角こうして出会えたんだ。名前くらいは教えて欲しいな」

 「・・・分からない」

 「分からない?名前が?どうして?」


 キョトンとする彼女に、これまでの自分の事をできる限り説明する。

 思い出しながら歯切れ悪く言葉を発するが、徐々に魔女は飽きてきたのか・・・欠伸や皿の草を口に入れて苦々しい表情を浮かべたりしている。

 

 「なるほどねぇ・・・分かったよ」

 

 一通り話終わると共に聞こえたその言葉に驚いた。

 真剣に聞いているようには思えなかったし、殆ど自分の過去に関する事など言っていないにも拘らず、分ったのか?

 

 「だ、だったら教えてくれ!俺は誰なんだ!?」

 「え?知らないよ。君の事が分からないことが分かったんだ」


 ようやく希望を掴んだと思ったら・・・

 悪びれも無く無邪気に笑う彼女をみてムッとする。

 それを察したのか、彼女は再び提案する。


 「あ~・・・じゃあこうしようか。今度は私が君に質問する。それで君が答える。どうだい?」


 自分だけで考えるよりはマシか?と、その考えに同意すると、魔女は満足げな表情を浮かべる。

 魔女からの質問に答えて暫く・・・最後の質問が終わる頃には日はすでに落ち、夜空には3つの月と無数の星が輝いている。


 「大体わかったよ」

 「・・・本当か?」


 本当は喜びたいが、先の事もある。

 怪訝そうな表情で尋ねると、魔女は大きく頷いた。


 「あぁ、勿論。君のおかげで、外の状況が少しだが理解できた。感謝するよ」

 「・・・俺の事は?」

 「え?だから知らないよ。君自身が知らないことを、何百年もこの森にいる私が知る訳ないだろう?」


 やれやれと肩をすくめる魔女を見て、大きなため息をつく。

 期待した自分が馬鹿だった・・・。

 

 「だが妙な点は幾つかあるね」


 何がだ?と、視線を移すと、彼女は少し真剣な表情になっていた。


 「私の出した質問で君が答えたものは全て並の生活をする為の知識だ。大陸歴や通貨、食べ物や労働、時間の概念。一方で君は魔法や人間以外の種族の事は何も知らない様だ。無論、自分も事もね。君の記憶喪失は随分と極端な偏りがあるみたいだね」


 確かに彼女の言う通りだ。

 彼女の質問には時折、自分の知らない単語が混ざっていた。

 意味は分からない。

 だが、その単語1つを聞くたびに胸の中がざわつく。

 それにしても・・・この少女は何者なんだ?

 さっきの言葉では何百年もここにいると言っていたが・・・

 視線を移した先の魔女は、理由は分からないが先ほどよりも頬を紅潮させている。


 「あ~・・・君。ずっと気になっていたんだが、その剣は?少し確認してもいいかな?何かも手掛かりかもしれない」


 急かす様に魔女は手を伸ばす。

 理由は分からないが、この剣は誰にも渡したくはない。

 しかし・・・これで何かが分かるのなら。と、金色の瞳を輝かせている魔女に躊躇いつつも差し出す。

 ありがとう。と、礼を言いながら受け取った瞬間―――魔女の表情が変わった。

 直ぐに表情を戻し、食い入るように剣を観察し続ける。

 何故だろう・・・その様子を見ているだけで、呼吸が速くなり、頭に痛みが走る。


 「よくよく考えたら、私はこういった物に疎かった。よく分からないな・・・すまないね、返すよ」


 剣を受け取り、大きく息を吐く。 

 結局・・・何も分からずじまいか。

 青年が落胆していると、魔女は徐に服を脱ぎ始める。


 「・・・何してるんだ?」

 「ん?何って・・・寝る準備だよ。私は寝る時は裸なんだ。君はどうする?泊っていくかい?」

 

 どういう神経してるんだ・・・この子は。

 辺りは既に暗くなっており、土地勘も無い自分が歩き回るのは確かに危険すぎる。

 だが・・・得体の知れない羞恥心の欠片も無いような少女と一晩共にするのも、ある意味危険だ。


 「いや、俺はもう行くよ」

 「そうか、残念だよ。あぁ、そうだ・・・こうして出会えたんだ。折角だからプレゼントをあげよう」

 

 首をかしげる青年に、魔女は机の上の人形の1体を差し出す。

 

 「もし私に会いたいと思ったら、これを握りしめて思い切り叫んでくれ。言葉は・・・そうだな。『魔女さん大好き!!』と言うのはどうだろう?ちゃんと思いを込めなきゃ行ってあげないぞ?」

 「あ、あぁ・・・その時は・・・よろしく・・・」


 悪戯っぽく笑う魔女に、乾いた笑いを返す。

 もう2度と会う事は無いだろう。

 魔女の家を後にして、これからどうするか考えていると・・・不意に声が聞こえる。


 「ここから1211歩直進して右に588歩、そして左に607歩。君の歩幅だと大体それくらいじゃないかな?それで君が倒れていた場所に着くはずだ。そこから先は・・・まぁ、頑張りたまえ」

 

 振り返るとそこには、手をひらひらと振っている魔女の姿。

 全裸で無ければ格好いいのだが・・・

 その助言に感謝しつつ、青年は暗闇へと消えていく。






 魔女がいた森を抜け、近隣の村に着いた頃には1日が過ぎていた。

 何とか指示通りに動き最初の場所には順調に辿り着いたが、問題はここからだった。

 行く当ても無く彷徨っていると、偶然通りかかった村の住民に遭遇し・・・今に至る。

 

 「なんとか生きてる・・・か。けど、これからどうすれば・・・」


 幸運なことに、村人が好意で貸してくれた1室で天井を眺めながら呟く。

 ここに来る途中で村人とは様々な会話をしたが、残念ながら何かを思い出す事は無かった。

 だが、少し奇妙な事があった。

 村人は誰もあの森にいる魔女の事を知らない。

 それどころか、魔女という言葉を聞いた途端にあからさまに嫌な顔をしていた。

 あんな所に住んでいる1人の少女を知らないなどあるだろうか?

 それとも、自分が夢でも見ていたのか?

 いや・・・それは無い。

 懐に入れていた、くたびれた人形を取り出す。

 これを持っているという事は間違いなく魔女はいた。

 

 (会いたくなったら・・・『魔女さん大好き』・・・か)


 ふと、村人との会話を思い出す。

 近頃この辺りに野盗が現れる。

 あの魔女なら・・・何とかできないだろうか?

 ゴクリと唾を飲み込みこんで羞恥心を殺し、呟く。


 「ま、魔女さん・・・だ、大好・・・き・・・」


 特に何も起こる事も無く・・・部屋の中は静寂に包まれている。

 恥ずかしさが込み上げ、枕を顔に当て叫んでいると・・・何だ?外が騒がしい。

 胸騒ぎを覚え外に出ると、予感が当たってしまっていた。

 逃げ惑う村人達に襲い掛かる野盗達。

 彼らは笑い、大人達は殺され、子供達は捕まっていく。

 何で・・・こんな事・・・

 1人の村人が青年に逃げるように促すが・・・出来るわけが無い。

 鼓動が速くなるのを感じる。

 乾いた喉を潤す為に、ゴクリと唾を飲み込む。

 

 (剣を持っているのは・・・俺だけだ。俺が・・・俺が何とかしなきゃ・・・!)


 気が付くと・・・剣を握りしめ、野党の中央にいる人物に向かって走っていた。

 だが、無意味だ。

 剣を持ってはいるが、使った事など無い。

 いや・・・あるのかもしれないが、今の自分には扱えない。

 がむしゃらに振り回すが、それが当たるはずも無い。

 野党のリーダーと思われる人物に軽くあしらわれ、剣は宙を舞い、身体は地面に叩きつけられる。

 じわりと身体に痛みが広がる。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 村人達を助けたい。

 力を込めて立ち上がろうとするが、背中を踏みつけられ再び地面に伏せる。

 1人の野盗が剣を拾い上げて先ほどの自分の真似でもしているのだろうか・・・周囲から笑い声が巻き起こる。

 死が迫っているのを感じる。

 頭が痛い。

 上手く呼吸ができない。

 焦る気持ちの中、懐に違和感を感じ―――思い出す。

 あぁ、いいさ・・・笑いたければ笑えばいい。

 だったらもっと・・・笑わせてやる!

 懐のぬいぐるみを握りしめ・・・大声で叫ぶ。


 「魔女さんっ・・・大好きぃ!!」


 その言葉にその場にいる全員が唖然としていると、突然・・・目の前に円に囲まれた文字と図の様なものが現れ、光を放つ。

 閃光に目が眩み、騒めきがおこる中・・・聞き覚えのある声がした。


 「こんなにも早く呼ぶとはね。そんなに私が恋しいかい?」


 金色の瞳を輝かせた不老の魔女は―――不敵な笑みを浮かべている。

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