魔女と踊り子
「魔女様は・・・どうしてそう思うのですか?」
パルシィの言葉で我に返る。
未だに何も理解していない表情の彼女から目を逸らさない。
自分の考えを話したら、目の前の純粋な彼女はどんな表情をするのだろう?
だが、どんな答えが返ってこようと・・・自分の隣にはナナシがいてくれる。
それだけで僅かに心が軽くなる。
「君達亜人種を生み出した原因は魔女にある。だから、君達には魔女を恨む権利があると思わないかい?」
「どうしてですか?」
即答するパルシィに困惑した。
どうしてって・・・
本人を目の前にし、かなり話し辛いが・・・意を決して口を開く。
「君達亜人種は人間から迫害や差別をされているだろう?もしも君が人間のままだったら、こうはならなかったはずさ。外を出歩く時もその指輪で正体を隠さなければならないし、食事も気を付けなければならない。人間の中にも亜人種の味方をしてくれる者もいるだろうが、正直・・・快く思わない人間の方が多いと思う。ただ生きているだけで、何の罪もない君達がそういった仕打ちを受けるのは・・・不幸になっているのは、魔女のせいだと思わないかい?」
全てを話し終えると、パルシィはようやく理解したのか、あぁ。と、何度も頷く。
何かを悟ったようなその表情に思わず目を背ける。
どんな罵詈雑言を受ける覚悟はあったが・・・実際に面と向かって言われるとなると、いい気はしない。
「魔女様、こっちを見てください」
ばれないように息を吐き出し、意を決してその言葉に従う。
彼女の口からどのような言葉が出るものか・・・
しかし・・・それは杞憂に終わった。
当然だ。
視線を上げた先の彼女は―――踊っていた。
(・・・え?何で踊って・・・)
てっきり罵声を浴びるものだと思っていた為、面を食らった。
訳が分からずいたフロウだったが、次第にその気持ちは消えていく。
今ある感情はただ一つ―――美しい。
水際で優雅に舞う彼女を見て呆けていると、彼女は指輪に手をかける。
背中から翼が現れ、彼女は宙に浮きあがる。
地上とはまた違う、洗練された舞を上空で披露する彼女から目を離せない。
佳境に差し掛かった頃、彼女は目の前に魔構式を展開する。
舞に合わせて手を滑らせ、優しく弾く。
昇華された魔力は6つの炎の輪となり、上空に浮かび上がる。
その中を潜る様に飛翔を続けながら再び魔構式を展開。
昇華された魔力は今度は蛍火の様に夜空を彩っていく。
幻想的な光景に言葉が出ない。
「はぁ・・・はぁ・・・ど、どうでしたか?」
最後まで踊りきった彼女は地面に降り立ち、息を整えながら笑顔で尋ねてくる。
「自慢じゃないが私は美術的な感性が無いんだけど、これだけは断言できる。君の踊りは素晴らしいよ」
「本当ですか!?やった!」
小さくガッツポーズをしながら、彼女は満面の笑みを浮かべる。
最初に遠目で見た時は彼女の裸体にばかり目がいっていたが、今回は違う。
その一つ一つの繊細ながらも力強い舞に心を奪われた。
だが・・・腑に落ちない事がある。
「あの・・・パルシィ君?」
「はい?何でしょう?」
「どうして君は踊ったのかな?」
その質問に彼女は首をかしげる。
流石に困惑した。
自分がした質問は『魔女を恨んではいないのか』というものだ。
それなのに何故彼女は踊ったのだ?
答えになってはいないぞ?
この状況で聞くのは少々気が引けるが、しょうがない。
「もう一度だけ聞くよ?君は魔女を恨んではいないのかい?」
「恨む・・・?あぁ!そう言えばその話でしたね!ごめんなさい!」
頭を下げる彼女を見てさらに困惑した。
この娘・・・もしかして忘れていたのか?
「魔女様」
不意に呼ばれ顔を上げると、彼女は穏やかに笑っていた。
「私は魔女様を恨んでなんていませんよ?寧ろ、感謝しています」
「感謝?何故だい?」
「だって私、空を飛べるんです!」
「・・・え?あ、うん・・・そ、そうだね」
バードマンである以上・・・それはそうだろうし、さっきも飛んでいる所は見た。
意図が分からず唖然としていると、パルシィは続ける。
「踊る事は大好きですけど、空を飛ぶことも同じくらい好きなんです。人間のままだったら空を飛べないじゃないですか?だから、私は空を飛べるようにしてくれた魔女様にお礼を言いたかったんです!」
「いや、それは「それに・・・さっき魔女様は仰ってましたよね?『不幸になっている』って。私がそんなに不幸に見えましたか?」
そんな事は無い。
これまでに彼女が見せた表情は、どれも眩しいものばかりだった。
「確かに人間の皆さんには怖がられて、気持ち悪がられますけど・・・でも、中には私の踊りで笑顔になってくれる人もいるんですよ!?だから私はこの姿に生まれて嬉しいです!」
あぁ、この娘は本当に・・・優しいな。
自身の生まれを悲観する訳でもなく、全てを受け入れた上で前に進んでいる。
「それで魔女様「フロウだよ」
え?と、言葉を遮られたパルシィは視線を向ける。
「先にも言ったが、私はフロウだよ」
「い、いえ・・・しかし・・・」
歯切れの悪い彼女に優しく微笑む。
「私は君と友人として接したい。『魔女様』なんて他人行儀な呼び方はよしておくれよ」
「ゆう・・・じん・・・」
友人という言葉に彼女は暫し呆け、緊張気味に口を開く。
「で、では・・・フ、フロウ・・・様・・・」
「様はよしておくれよ。そうだな・・・フロウちゃんでどうかな?」
「い、いえ!そ、そんな!魔女様を「フロウちゃん」
むむむ。と、葛藤する彼女に思い出したかのように尋ねる。
「あぁ、そう言えば何でいきなり踊ったんだい?」
「え?あ、えっとですね・・・その・・・何だか悲しい顔をしていらしたみたいなので・・・」
その言葉に思わず笑みがこぼれた。
「パルシィ君、やはり君は・・・いい子だね」
「え?え?え?」
「そうだな、仲良くなった記念に私も虫を食べてみようかな。何かお勧めはあるかい?」
途端に笑みを浮かべて興奮気味に話し出す彼女を見て、フロウは再び微笑んだ。
水浴びを終えて帰ってきた2人を見て、ナナシが声をかけてくる。
「問題なかったみたいだな」
「あぁ、君のおかげだよ・・・ナナシ君」
そうか?と、首をかしげる彼に悪戯っぽく笑う。
「ところで・・・君も一緒に水浴びに来ればよかったじゃないか?それとも何かい?君はやはり覗く方が好きなのかい?」
「・・・言ってろ」
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