表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
18/91

恨む権利


 「恨む・・・ですか?」


 意味が分からずに呆けるパルシィに頷き、フロウはナナシとの会話を思い出す。





 食事が終わり片づけをする2人から少し離れた場所で、ナナシは剣を振っていた。

 訓練の仕方など分からない。

 剣を振るだけで強くなれるとも思わない。

 だが、黙っている訳にはいかない。

 あの村の人達のような悲劇を二度と起こさない為にも、今できる自分の精一杯をやろう。

 無心で剣を振り続けるが・・・腹が鳴る。

 当然だ。

 ここ数日で草を食べる事に抵抗は無くなってきたが・・・流石に虫を食べる気は起きない。

 それも生きたままのだ。

 思えば最後に食事らしい食事をとったのはあの村に居た時だけ。

 フロウには慣れたものだが、まさかパルシィまで偏食と言うかゲテモノ好きというか・・・

 しかし―――喜々として虫やミミズを頬張る彼女の顔を思い出し、目を細める。


 「やぁやぁ、精が出ているじゃないか。ナナシ君」

 

 現れたフロウに軽く返事を返し、再び剣を振り続ける。


 「食事もとって無いのに頑張りすぎじゃないのかい?無理はいけないなぁ、無理は」

 

 あれを食事と呼べる感性が羨ましい。

 

 「お前・・・食ったのか?」

 「ん?あぁ、下に敷き詰めた草は食べたよ。流石の私も、調理していない虫を食べる勇気はないかな」


 その辺りは普通なんだな。

 一息ついてフロウに視線を向けると、彼女は近づき何かを手渡す。

 これは・・・干し肉?

 え?何これ?何でこんな物・・・

 呆然としていると、彼女は近場の岩に腰かける。


 「あの村で皆が用意していてくれた物だ。私達の為にね」

 「そうだったのか・・・」


 本当に・・・世話になってばかりだな。

 村人達に感謝をし、口に運ぶ。

 記憶の無い自分がこんな事を言うのも変だが・・・この干し肉は、これまでに食べたどんな物よりも美味かった。

 

 「ところで本題だが・・・いいかい?」


 本題?何だ?

 視線を彼女に向けると、その顔は普段とは違うものだった。


 「君は・・・パルシィ君の事をどう思う?」

 「え?どうって・・・?」


 意味が分からない。

 パルシィをどう思うかって・・・どういう意味でだ?

 女性としてという意味なのか、一緒に旅をする仲間としてなのか、それとも他の何かか・・・

 悩んでいると、彼女が再び口を開く。


 「彼女は人間とは違う。亜人種だ。君も見ただろう?背中には羽があり、虫も生で食べる。君はそんな彼女でも・・・普通の人間と同じように接することが出来るのかい?」

 

 そう言う事か。

 何故彼女がそんな質問をするのかは分からない。

 だが、答えは決まっている。


 「出来るだろ?何でそんなこと聞くんだ?」


 さらりと言うと、彼女は目を丸くした。


 「確かに、最初は驚いたけどさ・・・ただ食べるものが違うだけだろ?それに、羽があったって何か変わる訳でもないだろ。パルシィだって好きで亜人種に生まれた訳じゃ―――」


 そこまで言って理解した。

 亜人種は『灰の時代』・・・戦争で舞い上がった灰を吸収した人間のなれの果て。

 亜人種を作ったのは魔力を持った者達・・・寧ろ魔女である可能性が高い。

 フロウの表情がいつもと違うのは・・・そう言う事か?

 でも何でこいつがそんな事を気にするんだ?

 仮に魔女のせいでも、彼女に非がある訳じゃない。

 魔女・・・というよりも、戦争が全ての元凶だろう?

 珍しくしおらしい彼女にどう声をかけるべきか・・・

 悩んでいると、彼女の言葉を思い出す。


 『1人が悲しんでいたら、1人は笑えばいい。1人が立ち止まったら、1人が手を差し伸べればいい。人は互いに助け合い、導き合い、尊重し合うものだとは思わないかい?』


 ・・・ごもっともだな。

 未だに目を丸くしている彼女に尋ねる。


 「なぁ、フロウ。怖いのか?」

 「怖いって・・・何がだい?」

 「パルシィに恨まれてるんじゃないかって・・・思ってるんだろ?」

 「ははっ、何を言っているんだい。そんな事―――いや・・・そうだね。怖いんだよ、私は」

 

 必死に取り繕おうとする彼女だったが、ナナシの瞳を見て観念したように苦笑いを浮かべる。


 「あの娘はいい子だ。平和の為、苦しんでいる人や悲しんでいる人の為に行動できる、心の優しい娘だ。しかしね・・・人間は彼女を怖がっている。気味悪がっている。彼女自身・・・辛い目にもあって来たんじゃないのかな?その原因を作ったのは魔女だ。彼女には・・・魔女を恨む権利がある。だから怖いのさ・・・心優しい彼女に恨まれるのがね」

 

 弱々しく笑う彼女に歩み寄る。


 「本人に聞いたのか?」

 「え?・・・いやいや、聞けるわけ「聞いてないんだったら、お前がそう思い込んでるだけだろ?何でかは分からないけどさ、お前は恨まれて当然だと思ってるけど・・・違うだろ?」

 「違うって・・・?」

 「人の気持ちを勝手に決めるなって事だ。パルシィは誰かを恨むことを考えるよりも、目の前の人を笑顔にすることを考えてると思うぞ?」

 「・・・君のそれだって決めつけじゃないのかい?」


 それもそうか。と、ナナシは笑う。

 その笑顔を見て、ほんの僅かだがフロウの心が軽くなる。


 「仮にパルシィがお前を恨んでるんだったら、俺も一緒に恨まれてやるよ」

 「・・・は?君は何をっ―――全く、君という奴は」


 立ち上がるフロウをナナシは穏やかな瞳で見送る。


 「君が隣に居てくれてよかったよ、ナナシ君」

 「気にするなよ、フロウ」

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

評価は広告下の☆をタッチすれば出来ます。

続きが気になる方がいらっしゃいましたらブックマークをよろしくお願い致します。

皆様が読んでくれることが何よりの励みになりますので、至らぬ点もございますがこれからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ