お皿の上は大自然
「そこで私は言ってやったんだ、『マッカラミッチじゃあるまいて!』と」
「あはっ・・・・あははははっ!!」
森の中にパルシィの笑い声が響き渡る。
「どうだい?中々に面白い話だろう?」
その質問に返事もせず、パルシィは腹を抱えて笑い続ける。
満足げな表情でフロウは頷く。
「うんうん、こんなにも素直に笑ってくれるとはね。話したかいがあったというものだよ。・・・それに比べて」
打って変わって、こちらに目を向けた彼女は呆れたような表情を浮かべている。
「ナナシ君・・・君はこんなにも面白い話なのに笑ってくれないのかい?」
「面白い話・・・なのか?」
そもそも『マッカラミッチ』って何だよ・・・
何が面白いかも分からずに呆然としていると、フロウはニヤリと笑う。
「仕方がない・・・奥の手を出そう」
「奥の手?」
「あぁ、その通りだ。私の特技で君は抱腹絶倒間違い無しだ」
余程自信があるのか、彼女は何度も頷く。
別に笑わなくてもいいんだが・・・
とりあえず好きなようにさせようと、『やってくれ』と促す。
返事を返した彼女は、わざとらしく咳払いをして・・・
「オレタチ、ニク、スキ。・・・どうだい?」
「・・・ん?何が「・・・っぷ!あはっ・・・あっはははははは!ちょ、ちょっと・・・だ、駄目です・・・ま、待って・・・!」
訳が分からず聞き返そうとしたが、再びのパルシィの笑いがそれを妨げる。
「うーん・・・私の特技の一つ、オークの物真似でも駄目か。ナナシ君、失礼だが・・・君に『喜』と『楽』はあるのかい?『怒』と『哀』しか見た事無いよ、私は」
「いや、あるだろ・・・そりゃあ」
眉をハの字にする彼女に溜息を吐く。
パルシィの笑い方から見て、多分似てはいるのだろうが・・・そもそも、オーク自体見た事が無い。
実物を知らない者に物真似をしたところで、反応に困るだけだ。
困惑するナナシと悩むフロウを余所に、森の中にはパルシィの笑い声だけが響き渡る。
日も落ち始め、3人は野営の準備をしていた。
役割をくじで決め、食事係はフロウとパルシィ。
フロウだけではない事に安堵の息を漏らす。
これまで何度か彼女に食事をやらせてみたが、出てくるものは毎度の如くその辺りに生えている草。
彼女曰く・・・『牛は草しか食べてないのにあんなに胸が大きいのだよ?だったら私も草を食べれば胸が大きくなるとは思わないかい?』との事。
人と牛を比べるなよ。と、内心呆れていた。
しかし、今回はパルシィもいる。
多分きっと恐らく・・・大丈夫だろう。
パッと見た感じ、その辺りにはキノコや小動物もいる。
狩りは無理でも、草は無い・・・と、信じたい。
そんな事を考えながら寝床の準備が終わると、パルシィが丁度良く現れる。
「ナナシさん、食事の準備が出来ましたよ」
「あぁ、ありがとう。今行くよ」
上機嫌で歩く彼女の後ろをついて行くと・・・フロウは既に座っている。
しかし、その彼女の表情はいつものものとは違う。
真顔でじっと皿を見つめているではないか。
何なんだ?
不思議に思いながらも座り、皿を見て・・・理解した。
「・・・これは?」
「はい!ご馳走ですよ!腕によりをかけて作りました!」
笑顔で答えるパルシィの顔を見ることが出来ない。
当然だ。
視線の先にある皿の中では、下に敷かれた草の上を大量のミミズと虫が蠢いていた。
(え?何これ?・・・え?ミミズと虫?草と・・・ミミズと虫?これが・・・食事?嘘だろ?嘘だよな?嘘であってくれ!)
嫌な汗が流れ落ちる中、パルシィが得意げに説明を始める。
「魔女様に何が食べたいか尋ねたら『君の好物で良いよ』って仰ってくれて・・・私の大好物ばかりでごめんなさい!でも、安心してください!ちゃんと生きの良いものを用意しました!鮮度も抜群です!それに見てください!魔女様の用意してくださった食材と私の用意した食材の色合いを!完璧な組み合わせじゃないですか!?まさにお皿の上は大自然!心ゆくまでご堪能ください!」
興奮し熱弁する彼女の言葉の半分も頭に入ってこない。
これを・・・食べろと?
チラリとフロウに視線を送る。
相変わらず彼女は真顔で皿を見つめ続けている。
そうだよな・・・流石のフロウもこれは・・・
いつもは常識はずれな彼女が今だけはまともに見える。
この状況をどう切り抜けるか考えていると、フロウが口を開いた。
「・・・もう少し黄色が欲しかったね。その辺りに黄色い花があったからそれも添えてみようか」
「・・・え?」
想像もしていなかった言葉に声を出すと、彼女は呆れた表情を見せる。
「やれやれ・・・ナナシ君。私も美的センスはあるとは言えないが、君は私よりも駄目なのかい?」
「いや・・・そういう事じゃ・・・」
「・・・確かに!流石です!魔女様!」
だろう?と、満足げな表情を浮かべるフロウ。
手放しで彼女を褒めるパルシィに目を向けると、彼女の口の端には蠢くミミズが見える。
次々と皿の上の物を口に運ぶ彼女を見て、気が遠くなる。
「・・・俺、実はあんまり腹減ってないんだ。パルシィ・・・良かったら俺の分も食べてくれ」
いいんですか!?と、喜ぶ彼女に・・・引きつった笑顔を返す事しかできなかった。
食事を終え、フロウとパルシィは近くの水場にいた。
上機嫌に水浴びをするパルシィにに対し、フロウは尋ねる。
「パルシィ君。君は魔女を・・・恨んではいないのかい?」
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