紅翼の踊り子
翼を器用に動かしながら優雅に踊る女性を見つめながら、静かに口を開く。
何でいきなり翼が・・・?
フロウに目を向けると、先程までの表情は消えていた。
目を細め、彼女の観察して何かを理解したかのように呟く。
「あの指輪・・・恐らくは魔力を消す類いの物だね」
「魔力を消すって?」
「言葉通りさ。先程までは私も彼女が人間だと思い込んでいたが、あの指輪らしきものを外した瞬間から魔力を感知できる。あそこまで完全に魔力を消すとは・・・いやはや、恐れ入ったよ」
両手を上げて首を振る彼女から視線を外し、再び女性に視線を向ける。
力強くもどこか優しいその舞を見ながら、タレッセから聞い事を思い出す。
『灰の時代』に人間が過剰に魔力を摂取して亜人種が生まれた。
目の前の彼女・・・いや、当人ではなく親かもしれない。
しかし・・・彼女もまた、戦争の被害者なんだな。
「確か・・・バードマンだったか?」
「いや、違うね」
え?と、フロウに目を移す。
タレッセの話だと、確かバードマンだったはずじゃ・・・
「見たまえナナシ君。彼女には胸があるだろう?つまり彼女は雌・・・バードウーマンだ」
「・・・ん?」
「女性なのにバードマンって・・・ふふっ・・・くふふっ・・・。き、君のユーモアは・・・相変わらず底が知れない・・・ふふふっ・・・」
声を殺しつつも腹を抱えてフロウは笑っている。
相変わらず笑いのツボが分からない彼女に呆れて溜息を吐く・・・と
「あの・・・?」
「・・・え?」
聞き覚えの無い声に振り向き・・・顔が引きつる。
目の前には先程まで水辺で踊っていた女性。
彼女は一矢纏わぬ姿で首をかしげながらこちらを見つめていた。
暫く沈黙が続く・・・
女性は困った様に唸りながら、おずおずと尋ねる。
「あの・・・もしかして・・・その・・・見ちゃいました?」
どれの事だ?
心当たりがありすぎて答えが出てこない。
裸の事か?
翼の事か?
踊りの事か?
返答できずに悩んでいると、フロウが先に口を開く。
「あぁ、すまない。君の質問には答えが多すぎるから・・・とりあえず全部見たと言っておこうかな」
「え?全部?・・・全部って?」
「とりあえず服を着てはどうかな?話はそれからでも遅くは無いだろうさ」
「服・・・?あぁっ!?」
視線を下げてようやく自分の姿に気が付いたのか・・・女性は顔を真っ赤にして元居た場所に走り出していく。
「いや~、至近距離だと更に迫力があったね。眼福、眼福」
ケラケラと笑いながらフロウは女性を見続ける。
悪趣味だぞ。と、呆れた様に言い捨て、2人は彼女が来るのを待つことにした。
「さ、先程はどうも・・・す、すみませんでした・・・」
恥ずかしさと申し訳なさからか、彼女の顔は未だに紅潮している。
無理も無いだろうな。
そんな事を考えていると、横からフロウが耳打ちをして来る。
「ナナシ君、ナナシ君!彼女の姿・・・どう思う?」
「どう思うって・・・」
何かおかしいのか?
目の前に立つ女性を頭から足先まで何度も見るが、特別おかしなところは見当たらない。
どういう意味だ?と、尋ねる。
フロウは大きな溜息を吐き、呆れた様に首を振る。
「君ってやつは・・・。よく彼女の姿を見たまえ。布の面積に対して肌の露出が多すぎるじゃないか!?あれじゃあ、服を着てるなんて言わないだろう?下着で徘徊しているようなものじゃないか!?なんてけしからない格好しているんだ、全く」
「・・・お前だって全裸で過ごしてたじゃないか」
「いや、あれは夜だから許されるさ」
「夜も昼も変わんないだろ。そもそも、この人の服装はそういった民族的なやつなんじゃないのか?」
「どんな破廉恥な民族なんだい!?」
尚も騒ぎ続けるフロウを無視し、女性に向き直る。
「うるさくてすまない。さっきの言葉なんだが、何の事だったんだ?」
「・・・っえ?あっ・・・ええと、背中の・・・」
呆けていたのか、口ごもりながら彼女は上目遣いをする。
「見られちゃ駄目だったのか?・・・だとしたら、すまない」
「い、いえ!大丈夫です!警戒していなかった私が悪かったですから」
苦笑いを浮かべる彼女に1つ尋ねる。
「えっと・・・それがばれたら何らかの罰とかは・・・?」
「え?無いです無いです!そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。ただ、やっぱり人間の皆さんは亜人種が怖いみたいなので・・・それでですね」
「・・・そうだったのか」
分かってはいた。
世界の全てがあの村の様に優しい訳ではないと。
・・・駄目だ、しっかりしろ!
心に黒い陰が広がる。
それを振り払う様に大きく息を吐き出す。
ナナシの心境を察してか、代わりにフロウが尋ねる。
「しかし、君はどうしてこんな所に?集落が近くにあるのかい?」
「いえ、私は旅をしてまして」
「旅?それまたどうして?」
「事情は色々あるんですけど・・・私、ただいま踊りの修行中の身なんですよ。折角だからついでに世界を見て回りたいなぁって」
「それでこの島まで来たのかい?・・・今のこの島の状況は知っているのかい?」
僅かに目を細めるフロウに、彼女は悲しげな表情を見せる。
「・・・はい。帝国と戦争中・・・ですよね?だから、私はここに来たんです」
「何故だい?」
「少しでも・・・争いを忘れて、皆が笑顔になってくれる様に。踊りに来ました」
「・・・立派な心掛けだね」
照れ笑いを浮かべる彼女に提案する。
「私達はこれから王都に向かうが、君も一緒にどうかな?」
「え?で、でも・・・私は亜人種・・・ですよ?」
「・・・?だから何だい?構わないよね?ナナシ君?」
もちろんだ。と、頷くと、フロウは彼女に向き直る。
「君が亜人種なら、私は魔女だ。仲良くしようじゃないか」
「・・・えぇ!?魔女様!?え、あ、え、あ、そ、その、す、すみません!私無礼な事を!」
慌てふためく彼女を笑い飛ばし、フロウは手を差し出す。
「魔名は『不老』。呼び名は『フロウ』だ。あっちはナナシ君。君は?」
「パ、パルシィ・・・と申します」
「よろしく、パルシィ君」
パルシィと握手を交わしたフロウは満面の笑みを浮かべ、歩き出す。
横目でパルシィを見るフロウの瞳は・・・いつもとは違い、悲壮感が漂っていた。
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