表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
16/91

紅翼の踊り子


 翼を器用に動かしながら優雅に踊る女性を見つめながら、静かに口を開く。

 何でいきなり翼が・・・?

 フロウに目を向けると、先程までの表情は消えていた。

 目を細め、彼女の観察して何かを理解したかのように呟く。


 「あの指輪・・・恐らくは魔力を消す類いの物だね」

 「魔力を消すって?」

 「言葉通りさ。先程までは私も彼女が人間だと思い込んでいたが、あの指輪らしきものを外した瞬間から魔力を感知できる。あそこまで完全に魔力を消すとは・・・いやはや、恐れ入ったよ」


 両手を上げて首を振る彼女から視線を外し、再び女性に視線を向ける。

 力強くもどこか優しいその舞を見ながら、タレッセから聞い事を思い出す。

 『灰の時代』に人間が過剰に魔力を摂取して亜人種が生まれた。

 目の前の彼女・・・いや、当人ではなく親かもしれない。

 しかし・・・彼女もまた、戦争の被害者なんだな。


 「確か・・・バードマンだったか?」

 「いや、違うね」


 え?と、フロウに目を移す。

 タレッセの話だと、確かバードマンだったはずじゃ・・・


 「見たまえナナシ君。彼女には胸があるだろう?つまり彼女は雌・・・バード()()()()だ」

 「・・・ん?」

 「女性なのにバードマンって・・・ふふっ・・・くふふっ・・・。き、君のユーモアは・・・相変わらず底が知れない・・・ふふふっ・・・」


 声を殺しつつも腹を抱えてフロウは笑っている。

 相変わらず笑いのツボが分からない彼女に呆れて溜息を吐く・・・と


 「あの・・・?」

 「・・・え?」

 

 聞き覚えの無い声に振り向き・・・顔が引きつる。

 目の前には先程まで水辺で踊っていた女性。

 彼女は一矢纏わぬ姿で首をかしげながらこちらを見つめていた。

 暫く沈黙が続く・・・

 女性は困った様に唸りながら、おずおずと尋ねる。


 「あの・・・もしかして・・・その・・・見ちゃいました?」


 どれの事だ?

 心当たりがありすぎて答えが出てこない。 

 裸の事か?

 翼の事か?

 踊りの事か?

 返答できずに悩んでいると、フロウが先に口を開く。


 「あぁ、すまない。君の質問には答えが多すぎるから・・・とりあえず全部見たと言っておこうかな」

 「え?全部?・・・全部って?」

 「とりあえず服を着てはどうかな?話はそれからでも遅くは無いだろうさ」

 「服・・・?あぁっ!?」


 視線を下げてようやく自分の姿に気が付いたのか・・・女性は顔を真っ赤にして元居た場所に走り出していく。

 

 「いや~、至近距離だと更に迫力があったね。眼福、眼福」


 ケラケラと笑いながらフロウは女性を見続ける。

 悪趣味だぞ。と、呆れた様に言い捨て、2人は彼女が来るのを待つことにした。




 「さ、先程はどうも・・・す、すみませんでした・・・」


 恥ずかしさと申し訳なさからか、彼女の顔は未だに紅潮している。

 無理も無いだろうな。

 そんな事を考えていると、横からフロウが耳打ちをして来る。


 「ナナシ君、ナナシ君!彼女の姿・・・どう思う?」

 「どう思うって・・・」


 何かおかしいのか?

 目の前に立つ女性を頭から足先まで何度も見るが、特別おかしなところは見当たらない。

 どういう意味だ?と、尋ねる。

 フロウは大きな溜息を吐き、呆れた様に首を振る。


 「君ってやつは・・・。よく彼女の姿を見たまえ。布の面積に対して肌の露出が多すぎるじゃないか!?あれじゃあ、服を着てるなんて言わないだろう?下着で徘徊しているようなものじゃないか!?なんてけしからない格好しているんだ、全く」

 「・・・お前だって全裸で過ごしてたじゃないか」

 「いや、あれは夜だから許されるさ」

 「夜も昼も変わんないだろ。そもそも、この人の服装はそういった民族的なやつなんじゃないのか?」

 「どんな破廉恥な民族なんだい!?」


 尚も騒ぎ続けるフロウを無視し、女性に向き直る。


 「うるさくてすまない。さっきの言葉なんだが、何の事だったんだ?」

 「・・・っえ?あっ・・・ええと、背中の・・・」


 呆けていたのか、口ごもりながら彼女は上目遣いをする。


 「見られちゃ駄目だったのか?・・・だとしたら、すまない」

 「い、いえ!大丈夫です!警戒していなかった私が悪かったですから」


 苦笑いを浮かべる彼女に1つ尋ねる。


 「えっと・・・それがばれたら何らかの罰とかは・・・?」

 「え?無いです無いです!そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。ただ、やっぱり人間の皆さんは亜人種が怖いみたいなので・・・それでですね」

 「・・・そうだったのか」

 

 分かってはいた。

 世界の全てがあの村の様に優しい訳ではないと。

 ・・・駄目だ、しっかりしろ!

 心に黒い陰が広がる。

 それを振り払う様に大きく息を吐き出す。

 ナナシの心境を察してか、代わりにフロウが尋ねる。


 「しかし、君はどうしてこんな所に?集落が近くにあるのかい?」

 「いえ、私は旅をしてまして」

 「旅?それまたどうして?」

 「事情は色々あるんですけど・・・私、ただいま踊りの修行中の身なんですよ。折角だからついでに世界を見て回りたいなぁって」

 「それでこの島まで来たのかい?・・・今のこの島の状況は知っているのかい?」

 

 僅かに目を細めるフロウに、彼女は悲しげな表情を見せる。


 「・・・はい。帝国と戦争中・・・ですよね?だから、私はここに来たんです」

 「何故だい?」

 「少しでも・・・争いを忘れて、皆が笑顔になってくれる様に。踊りに来ました」

 「・・・立派な心掛けだね」


 照れ笑いを浮かべる彼女に提案する。


 「私達はこれから王都に向かうが、君も一緒にどうかな?」

 「え?で、でも・・・私は亜人種・・・ですよ?」

 「・・・?だから何だい?構わないよね?ナナシ君?」

 

 もちろんだ。と、頷くと、フロウは彼女に向き直る。


 「君が亜人種なら、私は魔女だ。仲良くしようじゃないか」

 「・・・えぇ!?魔女様!?え、あ、え、あ、そ、その、す、すみません!私無礼な事を!」

 

 慌てふためく彼女を笑い飛ばし、フロウは手を差し出す。


 「魔名は『不老』。呼び名は『フロウ』だ。あっちはナナシ君。君は?」

 「パ、パルシィ・・・と申します」

 「よろしく、パルシィ君」


 パルシィと握手を交わしたフロウは満面の笑みを浮かべ、歩き出す。

 横目でパルシィを見るフロウの瞳は・・・いつもとは違い、悲壮感が漂っていた。

最後までお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、いいね・評価頂けたら幸いです。

評価は広告下の☆をタッチすれば出来ます。

続きが気になる方がいらっしゃいましたらブックマークをよろしくお願い致します。

皆様が読んでくれることが何よりの励みになりますので、至らぬ点もございますがこれからもよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ