君が守った
殺してきた命の数?
この目の前の女は何を言っているんだ?
確かに初陣と言ったが、この村に何人の人間がいたと思っている?
それに、人質を取ったとしても私は魔女を殺しかけているんだぞ?
それなのに・・・私がお前よりも・・・弱い・・・?
自分よりも遥かに魔力の低い魔女に馬鹿にされ、アレグリアの怒りは頂点に達した・・・はずだった。
だが、実際は違う。
目の前の魔女の金色の目を見ていると、呼吸を忘れる。
目の前の魔女の無機質な目を見ていると、心臓が握られている感覚に陥る。
目の前の魔女のその小さな身体が・・・途轍もなく巨大に見える。
「君は今回が初陣と言っていたね」
飛びかけていた意識が瞬時に戻る。
「何人殺したんだい?」
何を・・・言ってるんだ・・・?
殺した人間の数なんて―――
気が付くと、自分の身体は宙を舞っていた。
何?
何が起きた?
え?
当然の出来事に訳も分からず、受け身を取る事も無く頭から地面に落下する。
頭部に鈍い痛みが走るが、それどころではない。
腹部に響く焼けるような痛みは、頭部の痛みなど比ではない。
(これ・・・は・・・魔法?いや・・・ただの魔力・・・?じょ、冗談じゃ・・・)
今まで受けた事の無い衝撃に胃液を撒き散らしながら悶えていると・・・
「質問には早めに答えた方がいいと思うよ?あまり人を待たせるのは失礼だろう?」
自らを見下している魔女に向けて声を振り絞る。
「し、知らない・・・わよ・・・。ご、50人・・・くらい・・・」
「不正解。君が本当にこの村の住民全てを殺したのならば69人だ。奪った命の数くらいは覚えておきたまえ」
やれやれと首を振りながら背を向け離れていくフロウに、再び声を振り絞る。
「あ、あん・・・た・・・さっきは・・・私よりも・・・殺してきたって・・・言ったわよね・・・?じゃ、じゃあ・・・あんたは・・・何人殺した・・・のよ・・・?」
ピタリと立ち止まり、彼女は顔を半分だけ向ける。
「6万8852人だ。まぁ、今日で6万8853人になりそうだけどね」
「・・・は?」
最初は唖然としていたアレグリアだったが、徐々に怒りが込み上げる。
「そんな事・・・ある訳ないでしょうが!!そこまで大量に人間を殺したら―――」
そして・・・一つの仮説が頭を過る。
もしかして・・・この女・・・
・・・いや、あり得ない。
でも・・・そうだとしたら・・・
この馬鹿みたいな強さも・・・
全身の血の気が引いていく。
「そう言えば・・・君はさっき、こう言ってたね」
ビクリと反射的に身体が跳ねる。
「子供を人質にとった時、硬壁・・・いや、タレッセ君が『その子に手を出さないで』と懇願したのを笑わずにいられない魔女はいない・・・と」
ゆっくりとフロウが近づくと、アレグリアは後ろに後退する。
追いつかれ、目の前に佇む彼女に対して必死に口を動かす。
「ち、違っ・・・!あ、あれは「私は笑えなかったよ」
フロウは魔構式を展開し、即座に魔法を放つ。
光弾がアレグリアの上半身を吹き飛ばし・・・その場に残った下半身は灰と化していく。
しかし、そんな物には興味が無いと言わんばかりにフロウは足早にその場を後にする。
彼女が向かった先にいるのは・・・タレッセ。
瀕死の彼女の手を握り、優しく囁く。
「タレッセ君・・・大丈夫かい?」
「フ・・・ロウ・・・?み、皆・・・は・・・?む、村の・・・みん・・・な・・・は・・・?」
ナナシもタレッセの元に辿り着いたが、言葉が見つからない。
本当の事を伝えるべきか・・・
それとも・・・
「皆は無事だよ。安心したまえ。君が守ったんだ」
「・・・嘘が・・・へ、下手・・・ね・・・。でも・・・ありが・・・とう・・・」
困ったような表情を浮かべるフロウに、タレッセは最後の力を振り絞る。
「フロウ・・・聞いて・・・。近々・・・帝国が・・・攻めてくるわ・・・。王都に・・・シャルロット・・・つ、剣の魔女・・・がいるの・・・。その娘と一緒に・・・私達の・・・島を・・・村を・・・守って・・・」
「・・・あぁ、わかった。約束しよう。この花畑は絶対に守ると」
僅かに微笑み、タレッセはナナシに視線を向ける。
「ナナシ・・・皆の為に・・・怒ってくれて・・・泣いてくれて・・・ありがとう・・・。皆・・・あんたに・・・感謝して・・・たわ・・・」
「そんな事・・・俺は・・・」
「フロウ・・・ナナシ・・・貴方達と会えて・・・よか・・・った・・・」
それだけを言い残し・・・タレッセの身体は灰に変わる。
嗚咽を漏らすナナシとは対照的に、フロウは目の前の灰をじっと見つめていた。
「ナナシ君、少しいいかい。こっちへ」
村人達の埋葬が終わる頃には既に日は登りきっていた。
フロウの言葉に従いタレッセの家に入ると、そこにはタレッセが焼いたであろう焼き菓子がある。
「冷めてしまったが・・・美味しいよ」
差し出された焼き菓子を口に運ぶと、彼女も口に運ぶ。
「ナナシ君、私はこれから王都に向かうつもりだ。タレッセ君の最後の言葉・・・約束を果たさねばならないからね。君はどうする?」
「・・・答えは分かってるだろ?」
「本当に君は・・・いい子だね」
色とりどりの花を背に・・・2人は王都へ向けて歩き出す。
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