魔女の戦い
・・・今なんて言った?
本物の魔女の戦い?
そう言ったのか?
その発言が更にアレグリアの神経を逆撫でする。
自分の半分も生きていない小娘が何を言っている?
自分の半分の魔力も持たない小娘が何を言っている?
調子に乗るのも・・・大概にしろ!
怒りの形相で魔構式を展開する彼女とは対照的に、フロウは木の棒を振りながら口を開く。
「魔女との戦い方その一。単独での戦闘は避ける事。広範囲に攻撃できる魔女相手に人数の多さは関係ないと思われるが、その方が生き延びる可能性は上がるからね。その二。正面から無策に突っ込んではいけない。まぁ、これに関しては実際に悪い例を見せてあげよう」
言うや否や、フロウはアレグリアに向かって駆け出した。
この状況で!?何やって・・・!?
困惑するナナシの目の前で、アレグリアの放った魔法が直撃する。
「あっはっは!!無様ねぇ!大口叩いた割にはその―――」
高笑いを上げる彼女だったが、すぐに言葉を失う。
攻撃が当たったはずの魔女が何食わぬ顔で立っているのだから当然だろう。
また・・・!?
何で!?
確かに当たったはずなのに!
意味が分からず動揺するアレグリアを余所に、フロウは薄く笑いながらナナシに目を向ける。
「・・・とまぁ、こんな感じで狙い撃たれて終わりさ。そして、魔女との戦い方その三は少々頭を使う。魔女と戦う時は接近戦を心がける。簡単だろう?だが、一番難しい。無策に突っ込んでも今の様に接近する前に殺される。だから頭を使うんだ。相手の式や理の意味を理解しなくても、手の動きで判断すればいい。どんな魔法がどの様な手の動きで放たれるかを観察し続けるんだ。あ、その間は立ち止まっててはいけないよ?」
涼しげな顔でなんて無茶を言ってるんだ・・・コイツは・・・
ニコリと微笑むと、フロウはアレグリアの方に視線を向ける。
「さて・・・次は君の番だ。本物の魔女の戦いを見せてあげよう」
再びフロウはアレグリアに向かって走り出す。
すぐに魔構式を展開し、迎撃の準備を試みる。
(ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!!どんな魔法か知らないけど、いいわ!私の最高の魔法で吹き飛ばして―――)
だが、目の前のフロウはすでに魔法を放っていた。
速っ・・・!?
いつ魔構式を!?
焦る心を必死に落ち着かせつつ防御魔法に切り替え、展開する・・・が
正面に展開された魔力の壁を瞬時にブチ破り、光弾が向かって来るが・・・ギリギリで躱す。
何で・・・!?
今の魔法は・・・何なのよ!?
攻撃は簡単に防がれ、防御も簡単に破られる。
それに加えてあの女・・・
自然と怒りは消え去り・・・代わりに恐怖が身体を支配する。
「上手く避けたね。それに、咄嗟に防御魔法に切り替える判断力も悪くない」
木の棒で掌を叩きながら拍手をするフロウに、震える声を絞り出す。
「あんた・・・何なのよ!?何の魔法を使って・・・!」
「・・・?魔法?私は魔法をまだ使っていないよ?」
「・・・は?」
何を言っているんだ?
さっき攻撃を防いだ時も、防御魔法をブチ抜いた時も・・・使っていたじゃないか。
意味が分からず困惑していると、フロウは木の棒で地面に図を描く。
「私がやったのは自分の魔力を薄く前面に広げただけさ。投げつけたのも、ただの私の魔力だよ。魔女なら誰にでもできる芸当さ。何故そんなに不思議な顔をするんだい?」
「ただの・・・魔力・・・?」
あり得ない。
もちろん、魔力をただ飛ばす事は魔女ならば誰でもできる。
魔構式を出す事と何も変わらない。
だが・・・理を通していないただの魔力で、魔法を貫通させる事や防ぐ事など出来るわけが無い。
『灰の時代』の後・・・変異しなかった人間達もそれなりの魔力耐性は身についていた。
ただの魔力だと人間すらも簡単には殺せない。
それなのに・・・この女、何と言った?
ただの魔力で・・・私の魔法を・・・?
唖然とするアレグリアに、フロウはまるで教師の様に話始める。
「魔女同士の戦いは観察だよ。相手の性格や癖、魔法の種類、その他諸々。全てを把握して初めてスタートラインだ。最初は魔法は使わずに相手を見る時間だ。君は私に防がれた事に躍起になって、上位の魔法を唱えようとしたが、それは間違いだ。上位の魔法の構築には時間がかかる。多対一ならともかく、一対一の戦いだと隙が大きすぎる。上位の魔法を使う時は相手に十分な隙を作ってからの方がいい」
「・・・ふ」
「ふ?」
「ふざけるなぁぁぁぁ!!」
怒声と共に後方に飛び退き、すぐに魔法を放つ。
八又に分かれた魔法がフロウに襲い掛かるが・・・当然の如く、彼女は無傷。
「何でよ!何でよ!!何でよ!!!私の方が魔力は上なんだ!!何であんたは死なないのよ!!」
半狂乱で喚き散らすアレグリアを、フロウは苦笑いを浮かべる。
「確かにね。魔力量は君の方が遥かに私よりも上だ。君が上位の魔法を30発撃てると仮定した場合、私は・・・2発が限界かな」
「だったら「でも、それだけだ」
言葉を遮ったフロウの顔からは笑みが消えていた。
「君が私よりも勝っているのは、その無駄に多いだけの魔力量とほんの6ミリ程度大きいだけの胸くらいだ。それ以外で君が私よりも勝っている点は無い。魔法に対する理解も魔力の質も操作技術も戦闘経験も。そして何より―――殺してきた命の数が比べるに値しない」
その無機質な眼に・・・アレグリアは言葉を失った。
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