思いやる才能
「何?貴方・・・うるさいわよ?」
剣を振りかぶり向かって来るナナシに対し、アレグリアは面倒くさそうに呟き魔法を放つ。
転倒しながらもギリギリでそれを回避した彼に僅かに驚くが、すぐに追撃を仕掛ける。
地面が砕かれ巻き起こる土煙の中から、ナナシは何とか飛び出して再び武器を構える。
・・・あれも避ける?
随分と素早いのね。
感心した様子で視線を向けると、彼の元にフロウが歩み寄る。
「ナナシ君。君には『待っていろ』と伝えたはずだが?・・・まぁ、今はいいや。それよりも、君ではあの魔女には勝てないよ。命は粗末にするもんじゃない。ここは私に任せておきたまえ」
フロウが前に出るが―――その腕を掴み、前に出る。
話を聞いていなかったのか?
「ナナシ君。私の「わかってる」
言葉を遮られたフロウは視線を向ける。
わかってるのに勝てない勝負を挑む?
それはただの自殺と変わらない。
だが、視線の先のナナシの表情を見て・・・考えを改める。
彼には自殺する気など毛頭ない事に。
「確実に君は殺されるよ?それでもいいのかい?」
「・・・いいわけないだろ」
「だったら「でも・・・ただ平和に暮らしていただけの人達を殺したあいつに・・・優しかった皆を殺したあいつに!せめて一発当てないと・・・逃げれるわけないだろうが!!」
目に溜まった涙を拭い、叫び声をあげ・・・憎き魔女に向かって走り出す。
決死の覚悟のナナシとは対照的に、フロウは呆れた表情で溜息を吐き、アレグリアに至っては欠伸をしていた。
「あら?話は終わったの?じゃあ・・・死んでちょうだい」
突っ込んでくる彼に退屈そうな視線を向け、魔構式を展開する。
滑らかに指を滑らせ、ナナシに向かって―――弾き飛ばす。
先程の魔法よりも遥かに巨大・・・が、躱せない訳じゃない!
回避を試みるが・・・アレグリアの口角が上がる。
魔法は突如として八又に別れ、生き物の様にうねりながらナナシに襲い掛かる。
何だ!?
突然の出来事に驚愕したが、スピードは緩めない。
(絶対に・・・絶対に許してたまるか!!)
せめて一発・・・!
だが・・・思いだけでどうにかなる程、現実は甘くは無い。
一本の魔法は辛うじて回避はしたが、大きく体勢を崩す。
そんなナナシに対し、二本、三本・・・と次々に襲い掛かる。
全てが着弾し、辺りは静寂に包まれる。
「なぁに?あの人間?貴方の知り合い?」
「あぁ、ナナシ君だ。君も会っただろう?ほら、タレッセ君の家の前で」
その答えに考える素振りを見せるが・・・
「会ったかしら?ごめんなさいね。人間なんてどれも同じような顔だから分からないわ」
「彼が聞いたら悲しむよ?きっと」
あの時・・・アレグリアが反応したのはナナシでは無くフロウ。
僅かな魔力に反応し視線を向けたのは、彼の隣にいた魔女の方だった。
「それよりも貴方・・・さっきなんて言ったの?『私に任せろ』って聞こえたけど・・・聞き間違いよね?」
先程までとは違い、アレグリアは明らかな殺意を向けている。
しかし、そんな事はどこ吹く風。
フロウは表情一つ変えずに、アレグリアを見つめる。
「いや、安心したまえ。君の耳は正常だよ。それよりも、1つ聞きたい事があるんだが・・・いいかな?」
「・・・何?お母様の魔名?」
「いや、違うよ。私と君の胸、どっちが大きいと思う?」
「・・・は?」
自分の胸を見つめながら尋ねる彼女に・・・唖然とした。
この状況で何を言っているんだ?この女。
どっちの胸が大きいかだと?
正気か?
たった今、目の前で知り合いを殺された者の言葉とは到底思えない。
暫し呆然としていたが、込み上げてくる笑いを堪えきれずに大声で笑いだす。
ひとしきり笑い終えた後、涙を拭いながら答える。
「ふふっ・・・ふふふ。どっちがって・・・わ、私の方が大きでしょ?比べるまでも無いじゃない?」
「いやいや、私としてはこちらが勝ってると思うのだが。・・・だが確かに、よく見れば君の方が6ミリほど大きい・・・か?」
目を細め胸を見る彼女に再び笑いが込み上げてくる。
「貴方やっぱり度胸があるわね。ここで殺すのはちょっともったいないわ」
「それはどうも。あ、それから何度もすまないが・・・もう1つだけいいかな?」
「ええ、いいけど。今度はな「油断しすぎだよ」
瞬間―――アレグリアの顔面を衝撃が襲う。
不意を突かれた彼女は大きく後方に転がる。
何が起きた?
左頬が痛い。
何で目の前に空がある?
鼻から何かが流れてる。
状況が理解できずにいたが、首を動かし・・・理解した。
(何故・・・何故!!あの人間が生きてる!?)
視線の先には先ほど殺したはずのナナシの姿。
彼も相当ダメージを受けているようで、その場に膝をつき激しく息を切らしている。
人間に殴られた屈辱が、身体を突き動かす。
即座に立ち上がり、魔構式を展開する。
「よくも・・・よくもやってくれたわね!この薄汚いクズが!!なめるんじゃ・・・ないわよ!!」
即座に放たれた魔法は今度こそ直撃した・・・かに思えた。
煙が晴れると、そこには―――魔女。
いつの間に動いた!?
いや・・・それ以前にどうやって防いだ!?
混乱するアレグリアを余所に、フロウは横目でナナシを見ながら薄く笑う。
「ナナシ君。君は本当にいい子だね。僅かな期間しか共に過ごしていない村人の為に、本気で怒り涙を流せる人間はそう多くは無い。やはり君には・・・他者を思いやる才能がある」
「フロ「だが、勇気と無謀は違う。自分の実力を見誤って強大な力に挑むのはただの愚行さ」
言葉を遮られたナナシは目を伏せ、アレグリアは怒りを露わにしている。
「どうやって防いだかは知らないけど、あんたも同じよ!!なめやがって!私に挑んだ事を後悔させてやる!!」
興奮する彼女に、フロウは首をかしげて何かに気が付きハッとする。
「あぁ、すまない。さっきの言葉の後半はナナシ君に向けてでは無いんだ。君に向けてだよ。あまり自分の実力を過大評価するのは良くないと・・・お節介だったかな?」
「・・・は?」
その言葉で、アレグリアの中の何かが切れた。
激昂する彼女を余所に、フロウは足元に落ちている木の棒を拾い上げる。
「ナナシ君。いい子にはご褒美をあげよう。君に教えてあげるよ、魔女との戦い方を。・・・そして、そっちの自惚れが過ぎるたわけ者の悪い子には見せてあげよう。本物の魔女の戦いをね」
フロウの金色の瞳が―――闇の中で輝きを増す。
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