静かな怒り
静まり返った村の中で、地面に落ちている花冠を拾い上げる。
無機質な眼で暫し見つめ・・・フロウは歩き出す。
地面には灰、灰、灰。
風に流された灰は夜空へと消えていく。
「・・・あら?貴方・・・ふふっ、また会ったわね」
「あぁ、そうだね」
タレッセの家の前に辿り着いたフロウに、1人の女性が声をかけた。
女性は穏やかな笑みを浮かべているが、フロウの視線はその顔には向いていない。
フロウの視線の先に映っているモノは・・・身体が所々灰化しているタレッセ。
まだ息はあるのだろう。
僅かに身体は動き、苦しそうに呼吸をしている。
その視線に気が付いたのか、女性は困った表情を見せて彼女を足蹴にする。
「あぁ、これ?気にしないで。もうすぐ死ぬから。それよりも・・・貴方、魔女よね?すっっっっごく魔力が少ないけど、まだ若いのかしら?」
「あぁ、今年で19になるよ」
通りで。と、女性は頷く。
「君も魔女なのかい?魔名は?」
「ええ、そうよ。だけど魔名はまだないから、アレグリアって呼んでちょうだい。それから」
瞬間―――顔の横を光弾が通り抜ける。
「年上には敬語を使った方がいいわよ?礼儀は大切にしなきゃ・・・ね?私は今年、94歳よ?」
先程までとは打って変わり、アレグリアの顔からは笑みが消えていた。
だが、フロウも表情を変えずに尋ねる。
「それはすまなかったね。それよりも、何故こんな事を?硬壁の魔女や村人達に何か恨みでもあったのかい?」
尚も言葉遣いが変わらぬことに目を細めるが、すぐに口元を緩めた。
「あっはは!貴方、度胸あるわね。気に入ったわ」
「気に入ってもらえてなによりだよ。それで?何故こんな事を?」
淡々と話すフロウを見つめ、アレグリアは喜々として話始めた。
「別に恨みなんてないわよ?これは私に与えられた仕事だもの」
「仕事?」
「そうよ?今、この国と帝国で戦争が起きているのは知っているわよね?軍艦を率いて何度か攻めては見たんだけど、結果は芳しくなくてね。何故だか分かる?」
「硬壁の魔女が全てを防いだ・・・かな?」
「正解。見た目によらず頭もいいのね、ますます気に入ったわ」
笑顔を向けるアレグリアに、フロウは尋ねる。
「何故、魔女が出てこないんだい?魔女同士が戦えば戦況は楽になると思うけど?」
「そう簡単にもいかないのよ。この国には魔女が2人・・・あ、貴方を除いてね?帝国にはもっと多くの魔女がいるけれど、こちらの担当は私のお母様だもの。他の魔女に手柄を取られたくないし、こんなゴミみたいな国を制圧するのにお母様直々に出向かれるなんてもっての外よ。だから私の初陣も兼ねて私が指揮を執っているの」
僅かにフロウの表情が変わる。
しかし、すぐに表情を戻し質問を続ける。
「なるほどね。大体分かったよ。だから君は硬壁の魔女を訪ねてきたんだね?寝返りの要請か・・・もしくは、手を出さないで欲しいと懇願でもしたのかい?」
「ふふっ、前者よ。こちら側に付いたら領土も金貨も好きなだけあげると言ったのに、断ったんだもの」
「・・・だろうね。だが、どうやって彼女を倒したんだい?見た感じ、彼女の方が魔力量はある様に見えるけど?」
「どうやったと思う?」
「そうだね・・・。真っ向から戦っても防がれていずれ不利になると思うから、村人を人質にでもとった・・・かな?」
「大正解よ。っく・・・くふっ、ふふふふふ」
突然笑い始めたアレグリアを、フロウは見つめ続ける。
「なにが可笑しいんだい?」
「何がって・・・ふふっ。硬壁に決まってるじゃない!最初は私の魔法を防ぎ続けていたのに・・・人間の小娘の首に刃物を突き付けたら・・・あっはっは!必死になってお願いしてきたのよ!?『止めて!その子には手を出さないで!』ってね!!これが笑わずにいられる魔女なんていないでしょ!?その小娘を灰にした時の硬壁の表情ときたら・・・うふっ、ふふふ。堪らなかったわ・・・」
アレグリアは恍惚の表情を浮かべ、未だにその余韻に浸っているようにも見える。
「・・・他の村人も君がやったのかい?」
「ん?そうよ?硬壁をいたぶってたら血相変えて襲い掛かってくるものだから、私も怖くて・・・つい・・・っう、っうぅ・・・」
目を手で覆い隠し、アレグリアはわざとらしく悲しげに振舞う。
しかし、その手の中の表情は・・・笑っていた。
狂気の笑みを浮かべ、泣き真似は徐々に笑いへと変わっていく。
「・・・う、うぅ・・・うひ、うひひひ・・・あーっはっはっは!!人間共を灰に変える度に、あの女・・・泣き喚くのよ!?『止めて!止めて』ってねぇ!!最初から私達に従っていれば・・・こんなゴミ共を見捨てていれば・・・死なずに済んだのにねぇ!!馬鹿な女だ!!」
静まり返った村の中に、アレグリアの笑い声だけが響き渡る。
「・・・最後に一つだけ教えてくれないかな?君の母君の魔名は何かな?」
「なぁに?士官でもする気?・・・まぁ、そこそこ頭はいいみたいだから教えてあげるわ。私のお母様の魔名は「フロウ!!」
アレグリアの言葉を遮り、ナナシが現れる。
「おい!フロウ!?どうなってるんだ!?村中、灰だら・・・け・・・」
一瞬で理解した。
村中の灰、横たわっているタレッセ、その彼女の目の前に立つ女。
そして―――フロウの手に持っている花冠。
気付いた時には、剣を振りかぶり駆け出していた。
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