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不老の魔女と名無しの旅人  作者: きりくま
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最初の出会い


 「ここは・・・?」


 鬱蒼とした森の中―――青年が呟く。

 僅かな木漏れ日、甲高い鳥の声、肌に纏わりつく嫌な湿気。

 鉛のように重い身体を起こし、周囲を見回す。

 一体何処だ?と、思い出そうとするが・・・何も思い出せない。

 この場にいる理由も、自分の名前も、容姿すらも。

 

 「俺は・・・誰だ?」


 再び声を出すが、答えが返ってくるわけでもない。

 途方に暮れ、視線を落とした時に気が付いた。

 自分の手に握られている物・・・剣に。

 何でこんな物を?と、自分の眼前まで運び食い入るように観察する。

 形状は何処にでもある一般的な物だが、その刀身はまるでガラス細工の様に美しい。

 記憶は無くともこれだけは分かる。


 (こんな高価そうな物・・・本当に俺のなのか?)


 そう思うのも当然だ。

 身に着けているのは剣とは対称的な薄汚れた革の鎧。

 ここまで不釣り合いな組み合わせはそうそうないが・・・幾つか考察する。

 自分は傭兵で、なけなしの金でこの剣を買ったのか?

 実はこの剣は先祖代々伝わる由緒正しい一品なのでは?

 自分の本当の正体は盗賊で、何処かの王宮から盗んできたのではないか?

 他にも幾つか考えるが、どうにもしっくりこない。

 頭を掻きながら再び周囲に目を配り、身体を起こした先にある道に気が付いた。

 いや、道・・・と呼んでもいいのだろうか?

 人が1人通れるような獣道。

 少し悩んだが、このまま黙っていても始まらない。

 自分の足はこの道に向かっていた。

 つまり・・・この先に行くはずだったのだろう。

 軽く息を吐き出すと直ぐに立ち上がり、青年は道なき道を歩きだした。




 進み続けて暫くすると、微かだが水の流れる音が聞こえる。

 丁度いい。と、乾いた喉を潤すべく、音を頼りに足を進める。

 小さな川に着き、喉を鳴らしながら水を飲み・・・水面に映る自分の顔を見る。

 歳は20代前半から半ばほどに見える。

 乱雑になった短くも長くも無い中途半端な髪に、色は・・・光の加減でよくは見えないが黒だろうか?

 これといって特徴のないどこにでもいそうな平凡な顔。

 これが自分の顔・・・。

 暫く呆けて見つめていたが、どうにもしっくりこない。

 顔を見たら何かを思い出すかと思ったが・・・。

 何も思い出すことは出来ずに肩を落とす。

 しかし、ここで黙っていても仕方ない。

 行く当てもない・・・水の流れに従えば、きっとなんとかなるだろう。

 青年は楽観的に考え、再び歩き始める。




 完全に考えが甘かった。

 水の流れに従い歩き続けてかなりの時間が経つにも拘らず、一向に景色が変わらない。

 徐々に日は沈み始め、辺りには暗闇が広がり始める。

 これは・・・非常にマズい。

 獣に襲われるか、餓死するか・・・最悪の未来しか見えない。

 何故、何も考えずに進んでしまったのか。

 自分の計画性の無さに呆れつつも歩き続けていると、開けた場所に出る。

 広い水場・・・川の終着地点だった。

 夕焼けが水面に反射し、美しい景色が広がる。

 何とか見晴らしのいい場所には出れたが、何の解決にも・・・瞬間、反射的に近場の草陰に身を顰める。

 気のせいか?いや・・・誰かが、何かがいる。

 獣じゃないだろうな。と、祈りながら静かに覗き込む。

 そこにいたのは・・・1人の少女。

 水浴びでもしているのだろうか?

 漆黒の長い黒髪、歳は・・・小柄な身体で20よりは若く見える。

 幼くも妖艶なその表情に、鼓動が僅かに早くなる。

 決して恋や下心によるものでは無い。

 胸の中にざらついた何かを感じる。

 俺はこの子を―――知っている。

 

 「女性の身体を見るのは初めてかい?別に構わないが・・・そんなにまじまじと見られると、流石にちょっと照れてしまうね」

 

 ―――え?

 気が付くと、目の前には先ほどの少女が立っていた。

 驚きの余り呼吸をするのを忘れそうになるが、少女は薄く笑いながら振り返る。


 「まぁ、久方ぶりの客人だ。裸で話すのは礼儀に欠けるね・・・ついてきたまえ」


 水を滴らせ歩く少女の呆然と眺めていると、背中に絵と文字の様な何かが見える。

 長い髪が邪魔をしてよく見えないが、自分の知っている文字ではなさそうだ。

 だが・・・どこかで見た事が・・・

 記憶が無いながらも必死に思い出そうとしていると、少女がこちらを見ている。


 「どうしたんだい?・・・あぁ、もしかして女性の家に入るのは初めてかい?なぁに大丈夫。捕って喰いはしないよ。ただ、少しお話がしたくてね」


 軽く手招きをし、少女は再び歩き出す。

 少し悩んだが、どの道この場に留まっても仕方がない。

 青年は意を決して少女の後を追いかける。






 暫く歩いた先に1軒の家が見える。

 家・・・と呼んでもいいのだろうか?

 木造のソレは外観はボロボロ、適当に打ちつけたであろう板の数々、強風が吹けばすぐにでも吹き飛びそうである。

 到底、人が住めるような代物には見えないが・・・少女は気にも留めずに中に入ていく。

 青年も後に続き中に入るが・・・そこは更に想像を絶するものだった。

 乱雑に散らばった本や衣類、天井に張り巡らされる蜘蛛の巣、埃まみれの床や机、我が物顔で歩き回るネズミたち。

 

 「・・・ここに住んでるのか?」

 「あぁ、そうだよ?あ、適当に座っててくれたまえ。今、飲み物と食べ物を用意しよう」

 

 散らばった衣類を適当に見繕いながら少女は上機嫌に鼻歌を歌っている。

 適当にって・・・外の方が遥かに綺麗だろ。

 心の中ではそんな事を思いつつも、何とか近場の物を寄せ椅子に座る。

 埃まみれの机の上には、皿を置いた形跡と大量の人形。

 流石にこれには恐怖を覚える。

 

 (住んでるのは分かったが・・・まさか1人なのか?家族は?)


 こんな異様な家に少女が1人で住んでいるとは考えられない。

 誰か他に住民が?

 部屋の中を見回していると、机の上に皿とグラスを置いた少女が対面に座る。

 

 「何か探し物かな?それとも・・・初めての女性の部屋に興奮でもしたのかい?見られて困る物は特にないが、なんだか照れてしまうね」


 頬に手を当て、少女は満更でもない様子で照れ笑いを浮かべる。

 この家その物が見られて困る物だと思うが・・・

 呆れながら出された皿を見て、思わず尋ねる。


 「・・・草?」

 「あぁ、草だよ」


 目の前の皿には緑色の草。

 グラスには濁った水。

 流石に聞き間違いか?と、もう一度尋ねる。


 「草?」

 「そうだね。ささっ、遠慮しないで食べたまえ」


 少女は瞳を輝かせて満面の笑みを浮かべる。

 

 (え?草って食えるのか?いや、食えるのもあるだろうけど・・・え?これ食うの?俺が?え?)


 自問自答を繰り返し、少女を見つめる。

 少女は期待に満ちた目で、足を揺らしながらその時を待っている。

 

 (えぇ・・・何でそんなに期待してるんだ?何も思い出せなくてもこれだけは分かるぞ?草は食うもんじゃないだろう・・・。いや、それとも何か?俺が知らないだけで、実は珍味とか?)


 数多の葛藤を得て、決断する。


 「・・・いただきます」


 意を決し、草を口に放り込む。

 無心で噛み続ける青年と、嬉しそうに笑う少女。

 2人の反応は対極だった。


 「どう!?どうだい!?美味しいかい!?」


 鼻息荒く身を乗り出す少女に答える。


 「・・・苦い」

 「・・・だろうねぇ。なるほど、苦いかぁ。ありがとう。参考になったよ」

 

 残念そうな表情を浮かべる少女に、青年は呆然とした。


 「え?君は食べてないのか?」

 「ん?当り前じゃないか。さっきその辺で取ってきて新鮮だから美味しいと思ったんだけど・・・違ったようだね」


 さも当然かの様に言い放つ少女を見つめていると、不意に大声で笑い始める。

 ひとしきり笑い終わった後・・・その表情が変わる。

 先程までとは違う―――不敵で妖艶な笑みを浮かべ、少女は口を開く。


 「さて、じゃあ本題のお話に・・・っと、その前に自己紹介がまだだったね。私は・・・」


 言葉を止め何かを考え、少女は僅かに笑う。


 「うん。私は『不老の魔女』だ。よろしくね。君の名前は?」


 不老の魔女はそう言うと、青年に向かって握手を求める。

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[良い点] 面白くなりそうな雰囲気 [一言] 不老の魔女にリゼロのエキドナ味を感じた 無理せず頑張って下さい
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