図書室の君⑨ 便覧はガイドブック
「睡蓮ですか?」
「早朝から開花するようです。今は大学生だから平日の朝早くなら行けそうじゃないですか?」
人混みが苦手な先輩なら土日なら朝早くでも行けそうだと思う。でも、平日ならなおさら人が少ないんじゃないかな。
「鎌倉かしら」部長が言う。
「鶴岡八幡宮の蓮がきれいだし、ここのミュージアムも新設されたみたい」便覧を指差す。
鎌倉は紫陽花も有名だ。この時期にぴったりかもしれない。
「ありえそうです、ご家族に言ってみます」
失礼しますと、二犬さんは図書室を出て行った。
便覧は先輩にとって行きたいとこリスト作りみたいな、ハンドブックではなくてガイドブックなのかもしれない。
「ほぼ一年女装されてたんですよね?根性あるなと思います」
「そうよね、男子からみたらそうでしょうね。でも、多分楽しんでだと思うよ」
多分そうなんだろうな。見てるだけの俺でも苦痛ではなさそうだった。
千日紅の押し花はどうしよう?
とりあえず便覧を見ながら他にも目ぼしいものはないかとみる。
この時期の植物、時間帯、行きたいところ、見たいところ。
この時期は早朝は睡蓮、夜は白粉花、イエライシャン、ヤコウボク。
白粉花は食器の絵付けにもあるから、焼き物、特に有田焼なども見ておくかもいいかもしれない。
茶道部にお茶碗、華道部には花瓶を作っていたようだから、焼き物の知識と技術はあると思う。
イエイライシャンと、ヤコウボクはどちらも香りが強い。
一般的には室内ではなく外で栽培されているようだ。
夕方や夜中でも入場できる美術館や庭園、公園も見ておく。
もうすぐ18時と言う時に二犬さんが図書室に息を切らせて入室してきた。
「先輩、見たかったそうです。鎌倉で」
「無事です、生きてます」