図書室の君⑦ 女装と男装
「行方不明ってどういうこと?」
部長が震える声で聞いていた。
二犬さんも「昨日、小佐治先輩のご家族から連絡がありました」と言い、ポタポタと涙が溢れていた。
とりあえず、部長と二犬さんにも近くの席に座ってもらい説明をしてもらう。
「昨日、小佐治先輩のご両親から帰宅していない、連絡がない、行き先は知らないかと学校に電話がありました。
火曜日から帰宅されていないそうです」
今日は木曜日だ。
「小佐治先輩はご実家から大学に通われていて、ご両親は友人や知り合いにも連絡をして、私は同じ美術部員で生徒会役員だったから何か知っているかとずいぶん聞かれました。
でも何も知らなくて。そんな時に先輩、図書室で美術便覧や図鑑を見ていたなと思って。
何かヒントになるんじゃないかなって。
それで今日、図書室に来たんです」
そして、押し花があったと。
「千日紅は正門の近くにあります。先輩は、見回りの時によく植物を拾ってきてスケッチしてました」
「そういうことならもう一度美術便覧を見てみましょうか。
何か違った目線で見るのもいいのかもしれない」
部長がそう言い、俺は全部の美術便覧を取り出し、机の上に載せていく。
「お願いします」
ニ犬さんはそう言って三人で美術便覧を見ていくことにした。
「愛上君、小佐治先輩ってどんなのを模写してたか覚えてる?」
「小佐治先輩は、小さなスケッチブックに主に植物を模写されていました。人物、建物、彫刻、風景は模写されていなかったと思います。たまに見かけていた色の見本帳は、図書室のものではなく個人のものだと思います」
そこまで言ってはっと気づいた。
「部長、俺が知ってる小佐治先輩って、四人掛けのテーブルに男子と並んで座っていた先輩ですよね?」
「違うよ?」
一瞬の間。
じゃあ、四人掛けの椅子に座っていたのは、誰だ?
小佐治先輩ってどの人だ?
「その四人掛けの椅子に並んで座って、男子の制服を着ていたのが周世先輩で、女子の制服を着ていたのが小佐治先輩」
あってるじゃないか。
「身体的に周世先輩は女子で、小佐治先輩は男子」
つまり、
「四人掛けの椅子に座って、足にギブスして、ズボンを履いていた生徒が女子の周世先輩で、模写していたのがスカート姿の男子の小佐治先輩」
四人掛けのテーブルを指差しながら部長が説明してくれた。
男子と並んでじゃなくて、女子と並んで座っていたのが小佐治先輩。
「女装と男装ですね」とニ犬さん。
なんで、そんなこと、してたんだ?
口に出していたらしい。
「先輩がギブスしてたんだけど、女子高生のギブス姿って電車で痴漢に遭いやすいらしいよ。
それでジャージで登下校しようとしたら、学校的にはダメだった。
登下校の時に何にかのトラブルがあったら学校名がわかるようにってことで。
そうすると、陸上部はもう引退したから学校名の入った陸上部のジャージは着れない、体育のジャージは学校名が入っていない、妥協して男子のズボン履いて登校。
うちはブレザーだからスカートをズボン変えればオッケー。
ついでに女子のリボンを男子のネクタイに、周世先輩は短い髪で背も高かったから違和感なし。
周世先輩、外で話す時は低い声だったらしいよ。
で、そのズボンとネクタイの主が小佐治先輩。
小佐治先輩、周世先輩のスカートが入ってびっくりしたらしくて、もうノリノリでスカート履いてくれたらしいよ」
「ちなみに来年度から女子のズボン用制服が販売されます」とニ犬さんが言っていた。
小佐治先輩、ロングヘアだったよね??
周世先輩ギブス取れてもずっとズボンだったよね???
ノリよくね?
違和感なかったんだけど。
卒業式はそこまで見ていなかった。
「ちなみに、卒業式はちゃんと戻してたよ」
ですよね。