君の名前を呼ぶ時⑦ しおりさんと蓮君
昼休みに美術室に行くと、木材を手に持っていた火部君だけがいた。
「こんにちは」
「愛上か、こんにちはー」
「火部君、俺、菊家と同じクラスなんだよね。
何か作業する時は遠慮なく声をかけて」
火部君は、大きく目を見開いて、
「いいのか、助かる」
すごく嬉しそうに言った。
「うん、女子も入ったけど、他にも力仕事とか何かあれば言って。
俺は、その辺がよくわかんないから、指示出してくれた方が助かる」
「確かに、力仕事はどうしてもなぁ」
「一年生の時は小佐治先輩が付き添ってたんでしょう?あんまり力になれないと思うけど、よろしく」
「こちらこそ!じゃあ早速だけど、こっち持って」
火部君の作業を手伝う。
「「こんにちはー」」
しばらくすると、丘さんと湯良羅さんが美術室に入ってきた。
「こんにちは」
火部君は湯良羅さんが来て嬉しそうだ。
「湯良羅さん、こんにちは。丘さん、お疲れ」
こうして、昼休みは美術室で過ごすことになった。
放課後、図書室の施錠が終わり、丘さんと職員室へ向かう。
丘さんは昼は美術部、放課後はテニス部だ。
お昼に会ったから、帰りも待たなくていいよと言ったんだけど、なんでか待っていてくれる。
嬉しいけど、無理せずに。疲れた時は早めに帰宅するといルールにした。
今日の昼休みは、火部君の本棚を制作をしていた。
その向かい合わせの席に座って、湯良羅さんは手ぬぐいに、こぎん刺しをしていた。
いつか、剣道袴にこぎん刺しをしたいそうだ。
「美術部は絵だけじゃなくて自由に制作していい」
ということで、好きなものを作品に仕上げればいいそうだ。
俺は水彩。
最近はグラデーションが楽しい。
丘さんは彫刻。
木材を削ったりするのが楽しそうだ。
二犬さんは油絵。
作品に集中するので、小声でしか喋らないが、だんだんと出来上がる過程が面白い。
「丘さん、明日から夏休みだから、美術室でお昼を食べたりできるね」
「ほんとだね。暑いけど、ちょっと楽しみ」
「丘さんも、あまり無理しないでね」
「今のところ大丈夫!ありがとう」
午前中は補講があるが、明日からは夏休みだ。
補講をうけて、お昼ご飯をたべて、図書室の閉館までいる。
丘さんは週末だけテニス部、あとは自主練にあてるそうだ。
ところで気になることがひとつある。
ここは怒られる覚悟でおそるおそる聞いてみることにする。
「あのね、丘さん、今更なんだけど、怒らないで聞いてくれる?」
「内容にもよるけど、どうしたの?」
「丘さんの下の名前を教えてくれる?」
「えっ」
「ごめん、やっぱりびっくりするよね。
下の名前知らなくて」
「しおり、です」
小さい声で、顔を赤くして教えてくれた。
「しおりさん、俺は蓮です。蓮の花のれん。
よろしくね」
「えっと、こちらこそ、よろしくね、れ、蓮くん」
手を繋いで一緒に帰る。
美術室で火部君と湯良羅さんをみていたら、名前呼びがいいなと思っていた。
呼び捨てはまだできないけど、それでも、一緒に居てくれるのがうれしい。
繋いだ手のひらが、指先が、熱を持っていて、鼓動も速くなるけれど。
できれば、長く一緒にいれますように。
これで完結です。
ご覧いただき、ありがとうございました。
また、ブックマークや評価もありがとうございました。
大変な励みになりました。
重ねてお礼を申し上げます。
いつかまたお会いできれば幸いです。
<登場人物>
愛上 蓮 あいうえ れん 二年生
図書部と美術部の兼部
丘 おか しおり 二年生
硬式テニス部と美術部の兼部
丘 おか さおり
演劇部長→美容専門学校の一年生
菊家 進 きくけ すすむ 二年生
サッカー部 美術部も兼部していたが、サッカー部でレギュラー入りしたため美術部は退部する。
菊家 あゆみ 三年生
図書部長
小佐治 明 こさじ あきら
美術部長、生徒会文化部長→大学一年生
小佐治 透 とおる
大学四年生 弟とは異なる大学
周世 すせ ちずる
陸上部、生徒会運動部長→大学一年生
育 康一 そだち こういち
パソコン部、生徒会長→大学一年生
育 健一 そだち けんいち
社会人二年目
伝手 つて 二年生
生徒会長、茶道部
都奈とな さとみ
生徒会計、帰宅部→大学一年生
二犬 にいぬ 二年生
生徒会計、美術部
根野葉 ねのは ゆかり 三年生
美術部長
根野葉 ねのは あかり
社会人二年目
火部 万里 ひぶ ばんり 二年生
生徒会文化部長 サッカー部と美術部の兼部
辺誉 へんほま 二年生
生徒会運動部長 野球部
湯良羅 ゆよら まな 二年生
剣道部と美術部の兼部
和言 勇気 わごん ゆうき
美容専門学校の一年生




