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図書室の君⑥ 便覧はハンドブックに近い意味を持つ

本の返却作業をしていると、「愛上君、ちょっとこっちに来て」と小声で部長に呼ばれた。


呼ばれたのは美術便覧一覧の書架の前。


「大丈夫だと思うけど一応、便覧をめくってみて。

今度二犬さんがコピーする時に小佐治先輩のメモとか挟まれてるのかもしれないし」


「わかりました」


二人で便覧をパラパラめくる。


便覧は、物事や組織などを知るのに便利なように簡明に述べた書物で、ハンドブックに近い意味をもつ。


小佐治先輩は、便覧を手に取りメモをして模写をして、必要なら図鑑を広げて、また模写をしてという作業をしていたこともあった。


模写せずに図鑑や画集をみたりということもあったけど。


「小佐治先輩、なんで便覧とかみてたんですかね?」と小声で部長に聞いてみた。


「わからない。だけど、小佐治先輩っていろんな部の人達と仲が良くて。焼き物で器をつくって、華道部と茶道部でコラボしてたり、手芸部とコラボしてアクセサリー作ったり、布を作ったりとしてたよ」


「そうなんですか」

布を作るってなんだろう?糸から作るんだろうか?布を染めるんだろうか?

多彩な先輩だったんだな。

日曜日の農業アイドル番組が好きそう。


「生徒会を引退する前に美術部を引退したのよ。

もったいないってみんな言ってたんだけど、手の調子がよくないから作れないって言ってた」


「怪我してたんですか?」

「外傷じゃなくて手が痺れたりするんだって」


「でも模写してましたよね?」

「短時間なら大丈夫なんじゃないのかな?その辺はよくわからないけど。

前の図書部長が図書室で模写するのって許可がいるのかな?って担当教員に聞いていて、誰かなんのためにするのかっていう対応で、小佐治がリハビリ目的で模写したいそうですって言ってたら、あっさり許可が降りたよ」


小佐治先輩にそんな事情があったんだ。


「図書部は何かコラボしたんですか?」

「カウンター前の机。荷物置きにはいいでしょう?

美術室の破棄する古いイーゼルを分解して、長さを揃えて作ってくれた」


確かにバッグやちょっとした物を置くには、ちょうど良い高さと幅だ。

あれ手作りだったんだ。


「それと、呼び出しベル。

音楽室のハンドベル、古くて音程がズレるから破棄するのを呼び出しベルに改良してくれた」


カウンターに係員がいない時に鳴らすベルはハンドベルだったんだ。

なんかデカくて高い音が出ると思ったら。


「最初、入口のドアにつけようとしたんだけど、邪魔だしめっちゃうるさいから、呼び出しベルになったのよ」


「意外と高い音がでますよね」


「残りのベルも改良して文化祭のバザーで売ったらしいよ」


商魂たくましい。

絵を描くのが好きな先輩だと思っていたら、多彩あふれるDIY が好きな先輩だったようだ。


模写する時もたまに笑みを浮かべていたから、楽しそうに色んな物を作ってたのかな。


便覧には特に何もなかった。


念のために近くにあった図鑑も開いてみる。

部長は画集を開いていた。


よく植物の図鑑を見ていたと思う。

便覧と違って厚いので、近くの席に座ってパラパラめくっていくと、紙が挟まっていた。


「部長、これ」


一枚の薄い紙に包まれたのは、色褪せたピンク色の押し花だった。


「千日紅だね」


夏の花、花言葉は「永遠の恋」「色あせぬ恋」

図鑑のそのページに挟まれていた。


小佐治先輩が置いていったのだろうか。



他の図鑑や画集を確認したが、あったのは千日紅の押し花だけだった。


「部長どうします?小佐治先輩に連絡します?」

「そうね、まだ小佐治先輩のだとは決まってないけれど、一応連絡しておきましょうか。

小佐治先輩の連絡先だれかに聞いてみるね」


部長と図鑑や画集を片付けていると昨日のニ犬さんが図書室へ入ってきた。


同じ美術部なら先輩の連絡先を知ってるんじゃないかな?

部長も同じ考えで、お互いに頷いて部長がニ犬さんに声をかける。


「二犬さん、少しいい?」

「はい、なんでしょう?」


小佐治先輩が美術部を引退してから、図書室で美術便覧や図鑑、画集を見ていて時々模写をしていたこと。


植物図鑑に押し花があった事、押し花は小佐治先輩のかわからないので確認したい。


連絡先を知っているか、知っているなら連絡して欲しいと、そう伝えたところ、

二犬さんは顔色を悪くした。


泣きそうな声で、


「小佐治先輩、行方不明なんです」


そう言った。


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