君の名前を呼ぶ時⑤ まなさんと万里君
「部長、サッカー部に誘われたので、美術部の制作はお昼休みにしたいです、いいですか?」
そう言った一年生の火部君。
「それはいいけど大丈夫?無理しない程度に、怪我をしないでね」
「はい、失礼します」
わざわざ二年生の教室まで来てそう言った。
美術部の一年生は、火部君と二犬さんと、もう1人、幽霊部員というか名前だけ貸してくれた菊家君。
菊家君はサッカー部で、同じクラスの火部君をサッカー部に入れたかったけど、「美術部に入ってるから無理」と言われ、「じゃあ俺も入る」と入部してくれた。
菊家君は、壊滅的な、ある意味センスがすごくて、本人も、「これは無理かな」と、ガッカリしていたが、そのまま美術部に席を置いてくれた。
三年生は小佐治先輩を含めて3人
二年は私を含めて3人
一年生は3人
ギリギリの人数での活動だ。
ある日の昼休み。
美術室に行くと火部君が電話をしていた。
「頼むよ、まな。うん、それじゃあね」
通話が終わり制作に戻ろうとしていた。
火部君は一年生の中でも顔が良くて人気もあるから、周りにいつも人がいる。
だからこそ、美術室にいる時間が好きなのかなと勝手に思っている。
1人の時間、没頭する時間、ほっとする時間。
その空間はとても大事だ。
「火部君」
「あ、部長、こんにちは」
「こんにちは。火部くん、ノコギリとか使う時って誰かにいてもらったほうがいいんだけど、当てはある?」
「そうなんですか?」
「説明していなかった私が悪いんだけど、怪我した時に対処したりする人がいたらいいんだよね。
部員がいいんだけど、友達でもいいんだよ」
「あー」
同じクラスにいる菊家君がいないところを見て、1人で作業をしていたのだろう。
「難しいなら、私か誰か、あ、そうだ、小佐治先輩に頼んでみようか?」
「小佐治先輩のご迷惑でなければ助かります」
「うん、小佐治先輩に刃物使う時だけってお願いしておくね」
「よろしくお願いします」
火部君の性格上、例えば女子を連れ込んだりはしないと思う。
他の部員に迷惑をかけるようなことはしない。
それから火部君と小佐治先輩は時々、お昼休みに美術室にいるようになった。
文化祭の制作も無記名で出品するけどいいかな?と聞いて「もちろんです!」と笑顔で承諾してくれた。
あまり目立った行動はしたくないようだった。
三年生に進級し、美術部員は
三年生3人
二年生3人
一年生2人
二年生は生徒会もあるので、部長と副部長は一年生にお願いした。
ところがである。
「すいません部長、サッカー部のスタメンになったので兼部が難しいと思います」
困った顔で退部希望の菊家君が三年生の教室に来てそう言った。
スタメンになると昼休みもミーティングがあると思う。
兼部はむずかしいかもしれない。
「おめでとう、大丈夫よ。知らせてくれてありがとうね」
「すみません」
さて、部員はどうしよう。
小佐治先輩が卒業した後、火部君の刃物などを使う時には三年生の誰かがいるようにしていた。
今のところ特には問題がない。だけど、これからは受験生で、時間をとるの難しくなるかもしれない。
二犬さんも菊家君も火部君も誰かに声をかけてくれている。
私はダメ元で図書部の愛上君に声をかけてみた。
菊家君のことを話したら気を使わせてしまうから、彼のことは話さずに声をかけてみた。
すると、愛上君と丘さんが入部してくれた。
丘さんが入部すると、火部君の彼女の湯良羅さんが入ってくれた。
3人、部員が増えた!!
やった!!!!これで当分はしのげる!!!
「まな、マジでありがとう」
火部君がすごく嬉しそうな顔で言っている。
「万里暑苦しい、離して」
そう言う湯良羅さんは、はにかんでいる。
「美術室は避難場所」
愛上君はそう言った。
1人になったり、没頭したり、ほっとしたり。
誰かと一緒に過ごしたり。
少しでも、学校生活が楽しく過ごせますように。




