君の名前を呼ぶ時④ さとみさんとちずるさんと明君と勇気君
「お母さん、守秘義務とか色々あるだろうけど、根野葉のお姉さんの件、よろしく!」
根野葉からメッセージが届いた。
根野葉のお姉さんが母の事務所にお世話になっているとのこと。
康一のお兄さんが根野葉のお姉さんに、母の事務所を紹介したとのこと。
母がたまたま私の斜め前にいて、
「はいはい」
笑顔でそう言った。
康一からもメッセージが届く。
「世間は狭いな」
本当だよ。
「さとみ、明日はバイト休み?」
母が聞いてくる。
「そうだけど何かあった?」
「明日、会食で遅くなるから戸締りしっかりしてね」
「はーい」
「康一君に連絡してるから」
「はやっ」
1人娘の私より、筋肉ムキムキで、礼儀正しく、真面目な康一に全幅の信頼を置いている父と母がすごいと思う。
康一とは大学も同じ、学科は違うけど、キャンバスは同じ。
「さとみ、帰る前にどこか寄りたいところあるか?夕食は何を食べたいか?」
康一は、高校を卒業してから都奈から、さとみと名前呼びになった。
私も育から康一呼び。
いつだったか、小佐治に康一と菊家が付き合っていると思われていた。
その頃は私たちは付き合っていたけど、告げずにいた。
高校を卒業して、小佐治と周世が付き合ってから、私達もやっと二人に言えた。
康一は筋肉ムキムキで態度も声もでかいけど、いつも優しく接してくれる。
「ご飯、うーん」
何食べようかな。
スマホがメッセージの通知を知らせる。
周世からだ。
なんだろう。
「都奈、いきなりでごめん、今日、時間ある?」
何か困ってるのかな?
康一にもスマホを見せる。
「何かあったのか?」
そう思うよね。
「康一と一緒で良ければ大丈夫だよ」
そう返信する。
「助かる、丘さんも一緒にいるんだけど、都奈にも確認したいことがある」
あら珍しい。
丘さんも一緒にいるんだ。
康一も「珍しいな、小佐治も呼んだほうがいいのか?」
「小佐治も呼んだ?」
「小佐治は実験であとから狂って」
ん???誤字、来るが狂って。
よっぽど焦ってるのかな。
待ち合わせは5つ先の駅近くのファミレス。
ここは小佐治と周世が通学している大学の最寄駅だ。
「ごめんねー、都奈さん、育君」
会うなり、手を合わせてごめんと告げる丘さん。
どうしたんだろう?
「学校はどうだ、大丈夫か?」
康一が心配している。
丘さんは成績は優秀だったのに、美容師の専門学校に進学した。
色々あるけど、本人が元気に過ごしていることが一番だ。
「授業は面白いんだけど、ちょっと、その、困ったことがあって」
「困ったこと?」
「私は聞いたけど、小佐治がなんていうかな‥」
少し髪が伸びてボブに近くなった周世が困った顔でそう言った。
小佐治がらみなの?
「遅れてごめん!」
髪を短く切った小佐治が到着した。
「小佐治、急なことで、ほんとごめんね」
「いいよ、何があった?」
「気を悪くしないで欲しいんだけど」
とりあえず、注文してドリンクバーから飲み物を各自持ってくる。
隣の席の男子が、最近毎日声をかけてくる。
たわない雑談から、実習の時のグループ時から。
あんまり関わりたくないタイプだったので、少し距離を置いていた。
ところが、だ。
「丘の高校は進学校だったんだろ?なんでここに来たんだ?」
「なんでって美容師になりたいからだけど」
「なにそれ、嫌味?」
「何がイヤミなの?私がこの学校に来て、何か迷惑かけた?かけてないよね。
むしろこっちがすごく迷惑なんだけど」
「いや、それは、言いすぎた」
会話はそれで終わったはずだけど。
その日の最後の授業、講師の都合により自習になった。
「ねえねえ、この問題わかる?」
といつもより突っかかってくる、かまってくる。
本当にうざい。
実習のグループも一緒だし嫌だなぁと思っていた。
だから必要最低限の会話で終わらせたかった。
「わからないなら、自分で調べて。私は集中したいから」
「はぁ、やっぱり、進学校はいうことが違うなぁ」
無視した。
本当にめんどくさいと思っていた。
「ねぇ、丘さんにちょっかいかけるのやめたら?見ててイラっとする」
と、隣の席の男子に声をかけてくれたのは、私の席の後ろの男子だった。
「丘さん、俺と席かわる?」
「ありがとう、助かる」
前後の席をかわってもらい、何事もなく終わった。
高校卒業してもこんなことあるんだなぁと思っていたら、席をかわってくれた男子が、
「丘さん、少し話があるんだけどいいかな?」
授業が終わった後に、近くのファーストフード店に入ることにした。
なんだろう、不快にさせたしなぁ、と思っていて緊張しながら席に着く。
「丘さんは、授業は真面目だし、実技もすごく一生懸命だと思う。
それとは別にちょっと気になることがあって」
「なに?」
「あのさ、丘さんの同級生で都奈さんって知ってる?」
「うん、知ってる」
「都奈さんとは塾が一緒で、その時にいた女子が、都奈さんとすごく親しそうで。
よかったら紹介してくれないか?
都奈さんに聞いたら、好きな人がいるから無理と聞いてたんだけど」
「どの女子かな?都奈さんに聞いたらわかるかな?」
「あ、名前はわかるよ。こさじって、都奈さんが呼んでた」
絶句した。
「え、こさじ?」
女子って言ったたよね、こさじって言ってたよね。
「背が高くてスタイルよくて髪がサラサラで、メイクも髪も綺麗にセットしてて。
遠目で見ても、目が離せなくて。
薄い茶色の髪は地毛なのか、染めているのか、どこのシャンプー使ってるのか聞きたいし」
少し頬を染めてそう言った。
マジかよ。
「あ、あの、ちょっと聞いてみるね」
「よろしくね。彼氏がいてもいいから、将来はカットモデルとかお願いしたいなぁ」
「う、うん」
速攻で小佐治に連絡した。小佐治と二人っきりだと周世に良くないから、周世の同席もお願いして、都奈さんにも連絡した。
「と、いうことなんだよね」
前半の云々は置いといて、小佐治を紹介して欲しいことだけを伝えた。
「紹介してって、和言君?」
以前、塾で一緒だった和言君が、小佐治を紹介して欲しいと言われたことがある。
女装してることは伝えていなかったし、小佐治は黙っていたら、背が高い美人にも見える。
「そうそう。心当たり、ある?」
ありまくりだ。
「もしかして、前に他校の男子が紹介してって言ったやつ?」
小佐治が聞いてくる。
「そうそれ。和言君、美容師の学校に行ったんだ」
卒業してから塾も辞めたし、そんな親しい人でもなかったから進学先は知らなかった。
「小佐治の女装が、なぁ」
康一が困った顔でいた。
「どうしたらいいのか、本当に困って」
丘さんが大きなため息をついてコーヒーを飲んだ。
「正直に打ち明けるしかないよね」
と、周世。
「それが一番なんだけど、事情もあるから、みんなに同席してもらえたら助かる。私でもあんまり上手く言えない」
「そう言えば根野葉さんも、どこのシャンプーを使ってるのか聞いていたな。使っていたシャンプーのメーカー、丘さんに送っておく」
小佐治がスマホに打ち込んでいく。
「小佐治、丘さん、ごめんね。私がもっとはっきり断っておけばよかった」
好きな人がいるから無理みたい、ごめんねって軽く流していたんだ。
「いや、大丈夫だよ。その彼が納得してくれたらいいね」
「明、何か文句言われたら、私も謝る」
周世が小佐治にそう言った。
「ちずる、大丈夫だ。なんとなくだけど、根野葉さんに似てるタイプかもしれない」
「ああ、髪とかメイクとか好きな感じの?根野葉も連れてきたほうがいいかな?」
丘さんがそう言う。
「どうかな、一度会ってみて大丈夫なら、根野葉さんに聞いてみよう」
そういうことで、後日またみんなで集まることにした。
なんであれ、みんなに会えるのは久しぶりで嬉しくて、楽しいひとときだった。
ある日の放課後、カラオケ店。
密談にはぴったりなこの場所で、
和言君は、悲鳴をあげていた。
カラオケ店にしてよかったと、康一も周世言う。
「根野葉さんは連れてこなくてもいいかもね」
と、小佐治。
「本当にありがとう!!助かりました!!」
ほっとした様子の丘さん。
「都奈さん、なんであの時に教えてくれなかったの」
グスグスと泣き出しそうになっている和言君。
「小佐治は老若男女にもてるから、いつものパターンかなって」
「そっか。人としてモテているんだな。丘さんもありがとう、心苦しかっただろうに、本当ごめん」
どこか納得したように和言君は丘さんに謝っていた。
「納得してくれて本当によかったよ。明日からも学校でよろしくね」
「こちらこそ。ちなみに、小佐治君の髪は丘さんが切ったの?」
「いや、無理だから美容室に行ってもらった」
「小佐治君の髪をいじれるくらい頑張りたいな」
ヘアアレンジを色々聞かれて真っ白になる根野葉が頭をよぎった。
根野葉を連れてこなくていいと言った小佐治は大正解だと思う。
ちなみに根野葉は大学に進学予定だ。
「丘さん、さおりって呼んでいいですか?」
「いいよ、勇気って呼んでいい?」
「もちろん」
丘さんと和言君が付き合ったと聞くのは、もうまもなくのこと。




