君の名前を呼ぶ時② あかりさんとゆかりさん
「根野葉先輩、何か最近、元気がないですよ、大丈夫ですか?」
昼休みの美術室。
新入部員の丘さんが心配そうに声をかけてきた。
「ああ、ええとそうじゃないの。お姉ちゃんと育先輩のお兄さんが、大学で同じゼミだったらしくて」
「育先輩ってお兄さんがいたんですか?」
「そうなの、あ、ムキムキじゃないのよ、写真見る?」
「ぜひ、みたいです」
スマホを操作してお姉ちゃんと育先輩のお兄さんのツーショットの写真を見せる。
「うわー、かっこいいですね。
根野葉先輩のお姉さんも素敵ですね。あれ?」
丘さんが不思議そうに言っていた。
「お姉さんはどこかで見たことあるような?」
え?
「お姉ちゃんの以前の勤務先が、学校の近くだっだからかな?」
「いやいや、そうじゃなくて、あっ、ブレスネット!」
「うん、お姉ちゃんのお気に入りなの」
左手のプラチナのブレスネットを丘さんが指差す。
「そうじゃなくて、いやそうでもなくて、愛上くーん」
丘さんが少し離れた先にいる愛上君を呼んだ。
どうした?
「どうかしたの?」
愛上君がこちらにくる。
「愛上くん、この方だよ、愛上君のICカードを拾った方!」
「ああ、そうなんだ。よくわかったね?」
「たまたま見てて。前から、ブレスレットが素敵だなって見ていて、覚えていた」
「そうなんだ、ええと、この方達は?」
「お姉ちゃんと育先輩のお兄さん」
「根野葉先輩のお姉さん?助かりましたとお伝えください」
「もちろん!」
お姉ちゃん、そんなことがあったんだ。
「育先輩にお兄さんがいたんですね、筋肉質じゃないんですね」
やっぱりそこよね。
「私も、初めて見た時に似てないと思ったんだけど、声とか似てるよ」
「へぇー」
菊家さんと話していて、気づいたことがある。
私とお姉ちゃんは2人姉妹だ。
お姉ちゃんがお嫁に行くなら、私がお婿をもらおう。
お姉ちゃんはお婿が欲しいと言っていたこともある。
今はわからないけれど。
育先輩のお兄さんと会う機会があれば言ってみよう。
そう思っていた翌週、その機会はすぐに訪れた。
お姉ちゃんが席を外した隙に、育先輩のお兄さんに伝えることにした。
「育先輩のお兄さん」
「何かな、妹ちゃん」
この人は私の名前を呼ばないので私も呼ばない。
多分、この人なりの線引きだと思う。
「お姉ちゃんと結婚するなら、婿は私がとります」
「えっっっっ」
珍しく、慌てていた。
「いや、それは助かる。でも肝心の彼女が気づいていないんだ」
「知っています、いい友達持ってよかったというくらいですから。
将来、お姉ちゃんが育先輩とお兄さんと結婚を考えるようになって、
お婿を取らないといけないとか、色々と言うようでしたらそうお伝えください」
「わかった、感謝する」
「でも私に将来、お婿が取れなかったらお見合いでもセッティングをしてください」
「善処しよう」
お姉ちゃんの結婚が決まった後。
「ゆかり、健一君に「お婿は私がとるから」って言ったの?」
「言ったよ。もし取れなかったらお見合いセッティグしてくれるって」
「お付き合いとか、好きな人はいないの?」
「いないなぁ」
「そっかぁ。わかった」
「うん、気にしないで。先は長いから」
お姉ちゃんがなんとも言えない表情をしたけど、気にしない。
今時、婿とか気にならない。
好きな人ができる、好きな人と側に居れる。
それでいいと思うから。




