君の名前を呼ぶ時① 健一君と康一君
後日談です
「菊家さん、ちょっといい?」
昼休みに教室で根野葉さんに声をかけられた。
根野葉さんとはクラスが別。
どうしたのだろうか。
先日、後輩が美術部に入部したから何か迷惑をかけたのか、いや、あの子はそんな子じゃないはず。
「いいよ」
読みかけの本に栞を挟んで、机の上に置いて根野葉さんと廊下へ出る。
「どうしたの?愛上君が何かしたの?」
ひっそりとたずねる。
「違う違う。愛上君はよくやってくれてるし、他にも部員が2人増えたんだ」
「それはよかったね」
後輩絡みじゃなくてホッとする。
「こちらこそ、兼部の許可をありがとう。
別件なんだけど、菊家さんが育先輩といとこって聞いて」
「うん、そうだよ」
学校では育先輩と言っていたが、プライベートでは康一兄ちゃんと呼んでいた。
身内とはいえ、康一兄ちゃんはモテるのだ。
関わりも必要最低限にしていた。
「お姉ちゃんが育先輩のお兄さんと大学のゼミで一緒だったんだけど。
お姉ちゃんがトラブルに巻き込まれて、育先輩のお兄さんと都奈先輩のお母さんの事務所にお世話になっていて」
「えっ??????」
健一兄ちゃんの知り合いなの?
世間は狭い。
「トラブルは解決したんだけど、育先輩のお兄さんが時々お姉ちゃんに会いにくるんだよね。
良い人だと思うんだけど、その、えと、育先輩のお兄さんってどんな人?
二股かける人とかではないと思うけど、身内贔屓もあるかもしれないけど」
根野葉さんが言いにくそうに聞いてくる。
わかる、健一兄ちゃんは、態度もでかくて、口は悪いけど、
いい人なんだよね。
「健一兄ちゃんは、見た目はかっこいいけど、毒舌だけど、悪い人じゃないよ。
根野葉さんのお姉さんに会いにくるってことは、付き合っているの?」
「ううん、お姉ちゃんに聞いたんだけど、付き合ってないみたい。「いい友達持ったー」で終わってる」
「ああ、うん。まぁ、健一兄ちゃんにそれとなく聞いてみようか?」
「ううん、こういうのはほっとくのに限る。
でも、何かあったら相談していい?」
「もちろん、お姉さん、トラブルに巻き込まれて大変だったね」
「ちょうど、小佐治先輩の時とかぶっていたので、びっくりしたよ。
無事に解決してよかったー。
ごめんね、呼び出して。なかなか聞きにくくて」
「そうだよね、わかるわ」
小佐治先輩が行方不明の時とお姉さんのトラブルが重なってしまったのか。
根野葉さんも大変だったろうに。
健一兄ちゃん、見た目は本当にかっこいいんだけど、口を開けば毒舌で。
でも優しくて面倒見がいいのは知ってる。
この後、根野葉さんのお姉さんと健一兄ちゃんが結婚すると聞いた時はそんなに驚かなかった。




