ブレスネットの君⑦ 大事にする、浮気はもちろんしない
あれから。
先輩からのパワハラめいたメールや着信が続いていて、法律事務所に相談し、そのまま休職にしてもらった。
先輩は出向先でかなりの実績を残してたが
このメールがきっかけに元の会社に戻ってもらおうとした。
しかし、そのまま海外へ行ってもらうことにした。
とにかく、関わりたく無いのだ。
ほとぼりがつく頃にはあきらめているだろう。
奥さんとお幸せに。
在宅業務で引き継ぎをできるだけ行い、荷物は事務所の方が代わりに取りに行ってもらい、そのまま転職。
引っ越しも事務所の方が立ち会ってくれた。
やはり盗聴もあったようだ。
この件も含めて全部示談にしてもらい、慰謝料をもらうことにした。
友人達の連絡はそのままスルーにしておく。
先輩が海外に行ったタイミングで言えばいい。
今日は育君と食事だ。
「最近、見合いが来て面倒、うざい。
お前、彼女になって、お願い」
個室の居酒屋で頭を下げられた。
「見合い?」
現代でも、お見合いってあるんだなー。
「いや、そこじゃなくて。
大事にするから、結婚前提に付き合って下さい」
育君が頭を下げている。
「結婚前提」
「ダメか?大事にする、浮気はもちろんしない。
妹さんが「お婿は私がとるから安心してお嫁に行って」と言っていた。
気休めにしかならないかもしれないが、少しでも不安を減らすように努力する」
「あの子が、うん、わかった」
呆然としてしまった。
いつの間に育君とそんな話をしていたんだろう。
結婚前提のお付き合い。
「育君、私のこと好きなの?」
これはとても大事だ。
「大学のころから好きで、気づいた時にはもう彼氏がいて。俺も彼女を作ったりしたけど長続きしなくて。
どっかで、根野葉とは違うな、とか思っていたからだと思う」
真剣な顔で育君が言った。
「私は、ええと、育君のことは好きだけど、その、友達としてしか見てなくて、でも一緒にいるのは嫌いじゃなくて、むしろ楽しい」
「そうか、よかった」
「だけど、育君と同じように、今は好きってまだ言えないけど、大丈夫?」
「大丈夫だ。大事にする。これから先、嫌なこととかお互いに出てくると思うから、その度に話し合おう」
「わかった、よろしくね」
「気になってたんどけど、なんでアクセサリーは自分で買ってたんだ?彼氏にねだるもんじゃないのか?金属のアレルギーがあるのか?」
あえて誰がとは言わない育君の配慮に感謝する。
残念ながら私も先輩も金属のアレルギーはない。
「その、私が欲しいものと、贈りたいものが合致しなくて」
「センスがなかったのか」
「お店も適当だったし、今思えば大事にされていなかったのかな」
私は気に入ったデザインがあって、買うなら絶対これと決めていた。
先輩は「社会人だからってもっと安い店にしたら?」「もっと他のデザインにしたら」と言ったけど、少しゴテゴテしていて、私には似合わないと思った。
「そうか。婚約指輪とか色々あると思うから、その、一緒に選んで欲しい」
「いいの?」
「いきなり婚約指輪は重いか?普段使いもできる指輪がいいか?他のアクセサリーがいいか?」
慌てたように育君が言う。
「うれしいけど、転職したばかりだし、すぐ結婚していいのかな?」
「いいんじゃないか?ああ、でも親御さんに了解を得るのが先か」
育君は口は悪いけど優しい人だ。
「根野葉じゃなくて、あかりって呼んでいいか?」
「うん、いいよ。育君じゃなくて、健一君って呼んでいい?」
「もちろん」
健一君は顔を綻ばせていた。
そんな表情をみるのは初めてで。
すごく嬉しかった。
健一君と結婚。悪くは無いと思う。
この一年後、健一君と結婚することになった。




