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図書室の君と美術室の君③ たまたまです

「褒められているのかな?」

小佐治先輩が苦笑していた。


「多分」

俺は再び紅茶をのむ。


「あー、もう、どうしようもないな」

先輩は髪をかきむしりソファーにのけぞった。


「今更ですから」


「そうだな、今更だな」


小佐治先輩は、大きなため息を一つ吐き、体を起こし、真っ直ぐに俺の方を見た。


「大体は愛上君が言った通りだよ。


丘のことは卒業間際に聞いたんだ、あんまりいい話じゃないけどって。


元担任って、どこで亡くなったか知ってるか?

学校の近く公園だって。その公園、丘が住んでいたマンションが見えるんだよ」


「それは、引越しを考えますね」


「まぁ、丘の妹さんには親御さんの仕事の都合でと言うことで引っ越しだったらしい」


「その妹さんと俺は付き合っています」


「えっ、テニス部の??」


「ご存じでしたか?」


「知ってる、たまに図書室にいたよね。

いつから付き合ってたの?」


「先月からですね」


「先月」


アオハルだなぁと小佐治先輩が言っていた。


あなた方のほうが波瀾万丈の青春あふれる高校生活たったと思うんですか。


「俺はね、小さい時の事故のせいで頭に傷が残って兄貴が気にしていて髪を伸ばしてだんだよね。

まさか、高校生活最後の一年、女装するとは思わなかったよ」


「小佐治先輩は、人として尊敬するって根野葉先輩が言っていました」


「人として尊敬」


「根野葉先輩も多分色んなことを感じでいたのだと思います。

でも、何も言わなかった」


「そうだよな、俺の頭に傷があるのも気づいても何も言わなかった」


「俺はもう、終わったことだから何も言いません。

ただ、先輩にはお身体をお大事にとしか言えません」


「充分だよ、俺が呼び出したのはね、どこまで気づいているのかなって。

だけど、ここまで気づいていたのにはびっくりしたよ」


「たまたまです」


本当はこの紅茶を飲むのだってすごく緊張した。

何か入ってるんじゃないかって。


でも、多分、小佐治先輩は何もしない。

何もできない。


それは


「育先輩の指示ですか?」


「何が?」


「俺に何もするなって」


「どうして?」


「いいえ、でも、俺でもそうしますから」


育先輩の目が行くのは都奈先輩の時だけ。


おれは在学中何もしなかった。

害がないと判断された。


それだけだ。

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