図書室の君㉑できるだろうか
好きな人に好きと伝えて、
朝から顔を見て、嬉しいと思う反面、顔が赤くなる。
心臓の鼓動も速い。
あまり教室でしゃべらないようにしていてよかった。
小佐治先輩は、周世先輩が自分の制服を身につけていてどんな気持ちだったんだろう。
独占欲だったのか。
いつもドキドキしていたのか。
気になるけど、多分、そういうことは表に出さずに接していたと思う。
何となくそんな気がする。
小佐治先輩は、周世先輩のどこが好きだったんだろうか。
気づいたら好きになっていたんだろうか。
あの二人が並んで座っている空間は、別空間だった。
ただいるだけで近寄りがたい。
今ならわかる、大切な、大事な時間だったんだ。
俺も大切に大事にしたい。
できるだろうか。
放課後、時間差で4階の美術室に向かう。
「こんにちは、根野葉先輩はいらっしゃいますか?」
丘さんは先に美術室に来ていた。
「愛上くん、来たわね。待ってた」
他の美術部員はいない。
「他の部員の方は?」
「今日は三年生だけね。他の部員、と言ってもあとの二人は準備室にいるわよ」
内扉で隣の準備室に3人で入っていく。
根野葉先輩がノックをする。
「入るよー」
「はーい」
「オッケーです」
準備室のテーブルには何冊かのスケッチブックとアルバムと、何点かのフォトフレーム。
「押し花の」
ピンクの千日紅の油絵が飾ってあった。
そして、
「これ」
丘さんが、手に取ったフォトフレーム。
卒業式の日の周世先輩と小佐治先輩。
周世先輩はスカートで、小佐治先輩はズボンで。
二人とも笑顔で写っていた。




