図書室の君⑫ 素敵な先輩達だ
図書室の鍵を返却し、昇降口へ向かう。
「丘さんはお姉さんがいるの?」
「いるよ。二つ上。三年生の時、小佐治先輩と周世先輩と同じクラスだったよ」
「テニス部だったの?」
「違うよ、演劇部の部長してた」
演劇部は1階の視聴覚室で活動してる。
視聴覚室の上が図書室で、発声練習をしているのが窓を閉めていても聞こえていた。
「放課後に発声練習が聞こえるよね、早口すごくて尊敬する」
俺は早口は無理。
「演劇部はグラウンドでも発声練習をやってるよ。お姉ちゃんは、ヘアメイクとか衣装の担当だったんだけど、発声練習や腹筋やストレッチは部員全員がしてるよ」
「そうなんだ」
グラウンドでもしてるのか。
「たまに合唱部とか吹奏楽部と一緒にグランドで腹筋してたり、音を合わせたりしてるよ」
「それは知らなかった」
「空の下で発声と演奏ができて気持ちいいって言ってた」
「のびのびとしてそう」
「愛上君は?兄弟いるの?」
「いない。年が近い親戚もいないし」
「そうなんだ、うちはお姉ちゃんだけなんだけど、根野葉先輩と仲がいいって知らなかったな」
「演劇部と美術部だから色々と協力してたのかな?背景のセットとか?」
「そうかも!帰ったら聞いてみよ」
協力と言えば、
「図書部の部長が言ってたんだけど、図書室のカウンター前の荷物置きの机、小佐治先輩が廃材で作ったんだって」
「作ったの?!」
「あと、呼び出しベル。廃棄予定のハンドルベルを小佐治先輩が改良したらしいよ」
「あのベル、ハンドベルだったの???どうりで高くて大きな音がでるのも納得だわ。
小佐治先輩って器用な先輩だったのね」
「すごいよね」
靴に履き替えて、駅へと向かう。
今日は雨は降っていない。
「ところで、小佐治先輩が女装してたってなんで気づかなかったの?」
「元々を知らないし、俺が図書室で見ていた時はもうその格好だったからかな。話をする先輩でもないし」
「図書室ではお静かにってことね」
「そうそう」
「あの二人の雰囲気がすごく良くて、なんていうのかな?」
「わかるー。迂闊に近寄れない」
「だから遠目でしか見てなかったんだよ。
メイクとか髪型とか、違和感がなかったから」
あの二人の雰囲気は、威圧感があるわけでもなく、甘い雰囲気でもなく、なんだろうなぁ。
ただ隣に座って、お互いを信頼してる。
椅子を引いたり、松葉杖を持ってあげたり、ノートにお互いに何かを書いてたり。
スケッチしてる時の真剣な目、黙々と課題をこなしている手の動き。
二人とも別々のことを行なっているが、視線、手の動き、ページをめくる音、作業を中断する音。
動きと音で、作業の邪魔にならないように、相手のことを見ていた。
ある種の緊張感があったのだろうと思う。
自然体に見えて、そうではない。
不自然かと言われれば、当てはまらない。
信頼感がないと出せない雰囲気だと思う。
素敵な先輩達だ。
「素敵な先輩達だよね」
同じことを丘さんが言った。
「そうだな」
翌日、丘さんがネクタイを締めていた。
「彼氏できたの?」
「誰?」
と、朝からクラスメイトから聞かれていた。
恥ずかしい。
めっちゃ恥ずかしい。
ネクタイには名前は書いていない。
「詳しくは言えないけど、よかったらって貸してくれたよ」
それ以上何も言わず、ニコニコして対応していた。
すごい。
これがコミュ力!!さすがです!!!
尊敬してしまう。
放課後、図書室のカウンター。
「丘さん、ネクタイ上手だね」
「家に帰ってがんばって練習しました。
そうそうお姉ちゃんね、小佐治先輩のメイクを担当してたんだって!
根野葉先輩は、髪の毛担当。
毎日1時間くらい早く登校して、ヘアメイクして、小佐治先輩がおやつを、周世先輩がお茶入れてくれたんだって。
一年くらい続いてて、めっちゃ仲がいいじゃない!って言ったら、
小佐治先輩と周世先輩だからしたんだよって。
他にも話を聞いて、すごく納得した!
愛上君に言いたくて、言いたくて!やっと言えた!」
「そんな深い事情があったの?痴漢対策ってしか聞いてなくて」
「いやー、あれはブチ切れるわ」
丘さんが教えてくれた。




