図書室の君⑪ かわいいなぁと思ってしまった
ギィと、ドアの開ける音がした。
カウンターに居た俺と丘さんは入口に視線を向ける。
二犬さんと、もう一人、女子生徒が入ってきた。
「さっきはありがとう」
ニ犬さんが俺に向かって言う。
「いえいえ」
丘さんがいるので、小佐治先輩のことは言わない方がいいだろう。
「三年の美術部長の根野葉です」
美術部長だったのか。
「二年の愛上です」
根野葉先輩の視線が丘さんに向かう。
「すみません、私は図書部ではなくて、テニス部なんです。
愛上君と同じクラスと丘と言いいます」
根野葉先輩の目が見開く。
「おか、さん?」
「はい」
「お姉さん、美容師の学校に行ってる?」
「はい、そうです」
知り合いなのかな?
「そっかー、ふふ」
根野葉先輩がすごく嬉しそうな顔で笑っていた。
「丘先輩にはお世話になりました。よろしくお伝えください」
「わかりました」
丘さんのお姉さんとはお知り合いだったようだ。
「押し花をもらいにきたのですが」
根野葉先輩が俺に向かって言う。
「あ、はい、お待ちくださいね」
カウンターからトレーシングペーパーに包まれた千日紅を取り出す。
使っていないクリアファイルにいれてお渡しする。
「植物図鑑に挟まっていました。気づかずにすみませんと、お伝えできるでしょうか」
気づくのが早ければ、在学中にお渡しできたかもしれない。
「もちろんです、ありがとうございました」
根野葉先輩は嬉しそうに、柔らかな表情で、千日紅の押し花を見ていた。
「では、失礼します」
ニ犬さんと、根野葉先輩が退室した。
「根野葉先輩、ネクタイしていたね」
丘さんが言う。女子は4月からネクタイかリボンか選べるようになった。
「そうだね、それがどうしたの?」
丘さんはギョッとして俺を見ていた。
「知らないの?」
「何が?」
「彼氏ができたら彼氏のネクタイをつけるんだよ」
女子がネクタイしてきたら同じ学校に彼氏がいるってこと。
「えっ、そうなの?」
「一年生は知らないけど、二年、三年はそんな噂があるんだけど」
クラスにも何人かネクタイしている女子がいた。
全く気にも留めなかった。
「丘さんもネクタイ欲しい?」
思わずそう言ってしまった。
丘さんは一瞬で顔が赤くなり、
「愛上くんのなら、欲しい、です」
下を向いて、耳まで赤くなって応えてくれた。
その姿にかわいいなぁと思ってしまった。
「いいよ、家に予備があるからあげる」
ネクタイの予備なんていらないと思っていたが、母が「汚したり、ほつれたりするかもしれないでしょ」と入学前に買っていた。
ネクタイを解くと、丘さんが「いいの?」と言う。
「まだ彼氏じゃないけど、よかったら。嫌になったら言って」
ここ数日で、多分好きになっていると思う。
でもまだ言うのは恥ずかしい。
ネクタイを畳んで渡す。
「ありがとう」
丘さんは大事にネクタイを両手で握りしめた。
「ネクタイ、練習するね」
「うん。俺も最初は練習したよ」
ネクタイをつけてあげようかと言いたいけど、恥ずかしい。
顔も近くて、シャツも触れてしまうし、距離が近くなるから、まだ。
まだって。
俺も恥ずかしくなって顔を手のひらで覆う。
動悸と息切れがする。
多分、俺も顔が赤い。背中まで熱くなってきている。
「愛上君?」
「ネクタイつけてあげようかと言いたいけど、ちょっと恥ずかしいから、その、まだ」
無理、と言って、カウンターに顔を埋めてしまった。
丘さんは笑っていた。




