美術室の君⑬ 特別
カーディガンを着て図書室へ向かう。
前日、周世と約束したのだ。
周世はいつもの席に座って待っていた。
「遅くなってごめん」
小声で周世に話す。
「いいよ。小佐治、上着とネクタイどうしたの?カーディガン似合ってる」
「美術部の後輩達にあげたら、卒業祝いでカーディガンをくれた」
「手編み?」
「そう」
「器用だね!すごい」
しばらくカーディガンを見ていた周世が背筋を伸ばす。
「改めて小佐治、この一年ありがとう。学校に来れたのは小佐治のおかげだと思う」
「俺も楽しかったよ」
本当に楽しかった。一緒に過ごせてよかった。
「同じ大学だったらよろしくね」
「こちらこそ」
自己採点では合格点には達していると思うと言っていたけども、発表まではわからない。
「小佐治、あの、ずっと聞こうと思ってたんだけど、好きな人いないの?好きな人から女装して幻滅されたとか、嫌な思いをさせたとか言われてない?」
「何を今更」
「本当?」
「周世は俺の女装、嫌じゃなかった?」
「全然、嫌じゃなかった。心強かった」
「じゃあいいんじゃない?」
「ならいいや」
あ、だめだ、伝わってない。
「あのな、周世。俺は周世だから女装してたよ」
「ええと?」
周世が聞き返す
「周世が学校来るのが少しでも辛くないように、女装だって、椅子作ったり、俺にできることなら、なんだってやる。だから、ええと」
うまく言えない。
本当は周世の大学の合否が決まってから言うつもりだった。
「小佐治の特別ってこと?」
特別。
扱いが違う、特別。
「うん、そうだね。周世は?」
「小佐治が私の特別なら嬉しい」
「嫌じゃない?」
「嫌じゃない」
お互いに、涙が溢れそうだ。
周世の目尻の涙を拭こうと手を出す。
「触れるの嫌じゃない?」
「小佐治なら嫌じゃない」
そうして、恐る恐る手を伸ばす。
やっと触れられた。
「嫌じゃないよ」
周世がそう言う。
ずっとずっと触れたかった。
指先から伝わる熱。
涙の感触。
気持ちがなければ不快と思われる行動も、苦痛と思われる行動も、
嫌じゃない。
そう言われただけで充分だ。
その後、周世の合格が決まったと知らせを受けた。




