美術室の君⑫ スカート、寒いよ
元担任の言動を文書で作成し、周世に渡す。
元担任の言動が罪になるかはわからないが、周世の痛みを思い知れと思う。
自分でゴールを決めるのと、他人から強制終了されるのは全く違う。
本当に胸糞悪い元担任だ。
1月。受験の為、周世が久しぶりにスカートを履いた。
周世のスカートは卒業したバレー部の先輩から譲ってもらい、調整したという。
厚手のタイツを履き、スカート姿の周世は
「スカート、めっちゃ寒いんですけど!!」
と朝から言っていた。
俺もそう思う。スカート、寒いよ。
女子も冬だけズボン着用がいいと思う。
女子の制服のズボンは製作中で、俺たちの卒業後には導入される。
ズボンを履くかどうかは、選択肢の一つが増えたと思ってくれればいい。
また、女子はネクタイかリボンか、どちらかを選択できる。これは来年度、つまり4月から導入予定だ。
スカートでのあまりの寒さに、お腹を冷やすな、タイツを履け、上掛けを使えと美術室の後輩達に伝えると、
「先輩、対策は私達の方が上手ですから」
「おかん」
「先輩、彼女さんが冬にミニスカート履いてきたらぜひ、そう言ってください」
と言われた。
周世が冬にスカートを履いてきたらあったかくしろと言い、掛け物を使ったり、なるべく室内で過ごすと思う。
都奈が同じ格好してきたら、寒くないのか?で終わると思う。その前に「寒いから、あったかいとこ行くわよ!外?サイテー」とか言いそう。
じゃあ着てくるなよと言ったら、「これだから」と反論するだろう。
周世と都奈の扱いが違うというのは、こういうことだと思う。
周世がスカートの時、リボンを渡し俺はネクタイでスカートを履く。
ここで、ズボンになったら二度とスカートが履けなくなりそう。
「小佐治、スカートでも大丈夫だと思う。だけど、めっちゃ傷に響く」
傷跡をテープで保護していても傷にさわるらしい。
「それならズボン履いとけよ。卒業式にスカート履けばいいだろ」
1月下旬になると自由登校になっていた。
俺は毎日登校して、図書室に行ったり美術室に行ったりしていた。
周世も毎日登校していた。
朝の4人のお菓子とお茶も続いていたが、クラスメイトは登校し、メイクが終わったら自動車学校へ行っていた。
「せっかくここまできたんだから、卒業までするわよ!」と言ってくれた。
進学が決まったら自動車学校に行ってもいいらしいが、俺は手が痺れたりするので、もうしばらくは様子見だ。
卒業式前日。
今日でお菓子作りもお終いかと思う。
リクエストを聞いたり、レシピ本1冊まるまる全部を作ったり。
楽しかったな。
今日はリクエストに応えて、カップケーキだ。
「明日からおやつがないわぇ」
と母が言った。
「また作るよ」
「そうじゃないのよ、楽しそうに作っていたから。渡す相手がいるっていいわよね」
そうだな。
結局、周世には告白せずに過ごしている。
受験が終わったのに、と思ったんだけど。
合格発表まではわからない。
「卒業まで色々とありがとう」
いきなり女装したり、絵を続けたり、本当に大変だったと思う。
両親には感謝するばかりだ。
「いいのよ、スカート似合ってたから。もうしないの?」
「しないよ」
「残念」
母はそう笑って言った。
卒業式当日の朝。
いつもの時間に、いつもの四人。
「さあさあ、今日こそは!周世先輩のヘアメイクを頑張りますよ!」
「メイク、どんな風にしようか1週間ぐらい考えてたわ」
相変わらず、楽しそうにしている。
「小佐治先輩はどうしましょうかね?編み込みにします?」
「俺?普通でいいよ」
「いいえ、小佐治先輩の普通と私達の普通は違うんです!」
どう違うんだ。
「じゃあ、おまかせで?」
「まかせください!」
最後なので、おまかせにする。
「この一年、すごく楽しかったです。先輩達、たまには学校に遊びに来てくださいね。文化祭でもなんでもいいですから」
ヘアセットが完了し、後輩がそう言った。
「部長をいきなり引き継いでもらったり、そのくせ俺は美術室に入り浸ったり。
でもあの絵が最後までできたのは、完成したのは、本当にみんなのおかげだと思う。
ありがとうね根野葉さん」
「こちらこそありがとうございました」
少し涙目で後輩が言った。
「丘さんもありがとう。本当にメイクがすごいよね」
と周世が言う。
「私もすごく楽しかったよ。根野葉さん、妹が一年でテニス部にいるの。もし何かあったら、いえ何もないと思うけど。
美術部とテニス部で接点がないと思うけど、よろしくね」
「はい!」
こうして、俺たちは卒業式を迎えた。
卒業式後、俺と育のネクタイ争奪戦は予想外だった。
4月から女子もネクタイが着けれるとのことで、次々と女子が、ネクタイをくださいと言われたのにはびっくりした。
とりあえず、俺のネクタイはお世話になった根野葉さんに、いる?と聞くと、「3本ないと争奪戦になります」と言われた。
二年生の美術部員は部長を含め3人だ。
ネクタイの予備は持ってないなぁと言うと、
「じゃあ、私はブレザーのボタンにします!」
「私はブレザーの袖のボタンにします!」
と言われ、上着とネクタイは二年生の美術部員に譲った。
「先輩、帰りは寒くないですか?」と聞かれ、
「卒業祝いです」
「編みました!」
と、シンプルなグレーのカーディガンをプレゼントしてくれた。
「最初、腹巻きしようか、レッグウォーマーにしようか悩んだんですけどね」部長が言う。
「カーディガンなら、こんな日に使えるでしょう?」
「たまには遊びに来てくださいね」
本当にお世話になった後輩達だ。
「ありがとう、本当にありがとう」
カーディガンはぴったりで、俺は泣きそうになった。




