表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/60

美術室の君⑫ スカート、寒いよ

元担任の言動を文書で作成し、周世に渡す。

元担任の言動が罪になるかはわからないが、周世の痛みを思い知れと思う。

自分でゴールを決めるのと、他人から強制終了されるのは全く違う。


本当に胸糞悪い元担任だ。


1月。受験の為、周世が久しぶりにスカートを履いた。


周世のスカートは卒業したバレー部の先輩から譲ってもらい、調整したという。


厚手のタイツを履き、スカート姿の周世は

「スカート、めっちゃ寒いんですけど!!」

と朝から言っていた。


俺もそう思う。スカート、寒いよ。

女子も冬だけズボン着用がいいと思う。


女子の制服のズボンは製作中で、俺たちの卒業後には導入される。


ズボンを履くかどうかは、選択肢の一つが増えたと思ってくれればいい。


また、女子はネクタイかリボンか、どちらかを選択できる。これは来年度、つまり4月から導入予定だ。


スカートでのあまりの寒さに、お腹を冷やすな、タイツを履け、上掛けを使えと美術室の後輩達に伝えると、


「先輩、対策は私達の方が上手ですから」

「おかん」

「先輩、彼女さんが冬にミニスカート履いてきたらぜひ、そう言ってください」

と言われた。


周世が冬にスカートを履いてきたらあったかくしろと言い、掛け物を使ったり、なるべく室内で過ごすと思う。


都奈が同じ格好してきたら、寒くないのか?で終わると思う。その前に「寒いから、あったかいとこ行くわよ!外?サイテー」とか言いそう。

じゃあ着てくるなよと言ったら、「これだから」と反論するだろう。


周世と都奈の扱いが違うというのは、こういうことだと思う。


周世がスカートの時、リボンを渡し俺はネクタイでスカートを履く。


ここで、ズボンになったら二度とスカートが履けなくなりそう。


「小佐治、スカートでも大丈夫だと思う。だけど、めっちゃ傷に響く」


傷跡をテープで保護していても傷にさわるらしい。


「それならズボン履いとけよ。卒業式にスカート履けばいいだろ」


1月下旬になると自由登校になっていた。

俺は毎日登校して、図書室に行ったり美術室に行ったりしていた。


周世も毎日登校していた。

朝の4人のお菓子とお茶も続いていたが、クラスメイトは登校し、メイクが終わったら自動車学校へ行っていた。


「せっかくここまできたんだから、卒業までするわよ!」と言ってくれた。


進学が決まったら自動車学校に行ってもいいらしいが、俺は手が痺れたりするので、もうしばらくは様子見だ。


卒業式前日。


今日でお菓子作りもお終いかと思う。

リクエストを聞いたり、レシピ本1冊まるまる全部を作ったり。


楽しかったな。

今日はリクエストに応えて、カップケーキだ。


「明日からおやつがないわぇ」

と母が言った。


「また作るよ」


「そうじゃないのよ、楽しそうに作っていたから。渡す相手がいるっていいわよね」


そうだな。

結局、周世には告白せずに過ごしている。

受験が終わったのに、と思ったんだけど。

合格発表まではわからない。


「卒業まで色々とありがとう」


いきなり女装したり、絵を続けたり、本当に大変だったと思う。


両親には感謝するばかりだ。


「いいのよ、スカート似合ってたから。もうしないの?」


「しないよ」


「残念」

母はそう笑って言った。


卒業式当日の朝。


いつもの時間に、いつもの四人。


「さあさあ、今日こそは!周世先輩のヘアメイクを頑張りますよ!」


「メイク、どんな風にしようか1週間ぐらい考えてたわ」


相変わらず、楽しそうにしている。


「小佐治先輩はどうしましょうかね?編み込みにします?」


「俺?普通でいいよ」


「いいえ、小佐治先輩の普通と私達の普通は違うんです!」


どう違うんだ。


「じゃあ、おまかせで?」


「まかせください!」


最後なので、おまかせにする。


「この一年、すごく楽しかったです。先輩達、たまには学校に遊びに来てくださいね。文化祭でもなんでもいいですから」


ヘアセットが完了し、後輩がそう言った。


「部長をいきなり引き継いでもらったり、そのくせ俺は美術室に入り浸ったり。

でもあの絵が最後までできたのは、完成したのは、本当にみんなのおかげだと思う。

ありがとうね根野葉(ねのは)さん」


「こちらこそありがとうございました」


少し涙目で後輩が言った。


「丘さんもありがとう。本当にメイクがすごいよね」

と周世が言う。


「私もすごく楽しかったよ。根野葉さん、妹が一年でテニス部にいるの。もし何かあったら、いえ何もないと思うけど。

美術部とテニス部で接点がないと思うけど、よろしくね」


「はい!」


こうして、俺たちは卒業式を迎えた。


卒業式後、俺と育のネクタイ争奪戦は予想外だった。


4月から女子もネクタイが着けれるとのことで、次々と女子が、ネクタイをくださいと言われたのにはびっくりした。


とりあえず、俺のネクタイはお世話になった根野葉さんに、いる?と聞くと、「3本ないと争奪戦になります」と言われた。


二年生の美術部員は部長を含め3人だ。


ネクタイの予備は持ってないなぁと言うと、

「じゃあ、私はブレザーのボタンにします!」

「私はブレザーの袖のボタンにします!」


と言われ、上着とネクタイは二年生の美術部員に譲った。


「先輩、帰りは寒くないですか?」と聞かれ、

「卒業祝いです」

「編みました!」


と、シンプルなグレーのカーディガンをプレゼントしてくれた。


「最初、腹巻きしようか、レッグウォーマーにしようか悩んだんですけどね」部長が言う。


「カーディガンなら、こんな日に使えるでしょう?」


「たまには遊びに来てくださいね」


本当にお世話になった後輩達だ。


「ありがとう、本当にありがとう」


カーディガンはぴったりで、俺は泣きそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ