美術部室の君⑩ 扱い違った?
絵が完成した。
ソファーセットと千日紅。
好きなもの同士。
「小佐治先輩、油絵の額縁つくります?」
部長が聞いてきた。多分作る気満々なんだろうな。
「えーと、じゃあお願いしてもいいかな?」
「任せてください!色はシルバーとゴールドと木目どれがいいですか?」
「うーん。千日紅がピンクでソファーが薄いグリーンでしょう?テーブルは木目だし、テーブルに合わせた木目かな?ゴールドも捨てがたい」
「わかりました!とりあえずブラウン系とゴールド系のフレームをあわせてみますね!」
「石膏に色塗ってみる?」
「木彫りにする?そうするとモチーフが決まらないね」
後輩達がうんうん言っている。
「先輩、文化祭で展示してもいいですか?」
「展示はちょっと。描けるじゃないか!と難癖つけられたら困る」
「それは困りますね。じゃあ全員無記名で展示しますか?」
「「いいねそれ!」」
他の部員も賛同する。
迷惑にならないならお願いしよう。
「小佐治先輩は、最後の文化祭ですもんね。張り切っていきましょう」
最後の展示。
悔いはない。
この絵を完成したら周世に告白したいと思っていたけど、受験だし、落ち着いてたからでいいか。
周世と育は、どうなってるんだろう。
菊家とまだトライアングルなのか、聞くに聞けない。悩ましいところだ。
こういうの都奈が詳しいんだけど、聞いてみるかなぁ。
「都奈、ちょっと聞きたいんだけど」
昼休み、隣のクラスの都奈を呼び出す。
「小佐治、あたしもちょっと聞きたいんだけど。場所変えましょ」
そう言って、図書室近くの廊下に移動する。
「ねぇ、小佐治。いつまで女装するの?」
「冬まで。女子がタイツ履くようになってから」
「わかった。他校の男子に小佐治を紹介してって言われたんだけど?はぁ??ってなったんだけど」
「え、ごめん、断って」
なんだそれは。
「だよね。黙ってれば背が高い女子だよね。で、周世といつ付き合うの?」
「えっつつ?!」
「当事者同士だけよ、知らないの」
「いやまだ、告白もしてないんだけど」
「はああああ?????」
「いやだって受験だし、いっぱいいっぱいだろうし」
はーとため息をつかれる。
「わかった。で、小佐治の聞きたいことって何?」
「育と周世と菊家は、その、トライアングルな関係なのか???」
「はああああああああああ???」
本日二度目だ。
「なにが、どうして、そうなったの????」
都奈の顔が怖い。
「いや、周世の目線はいつも育だし、育と菊家はいい雰囲気だし」
慌てて言う。
「育と菊家はいとこ同士よ!」
いとこなんだ。
「そうなんだ」
「あとね、育に目が行くのは仕方ないわよ。あんな体格が良くて、声も態度もでかい男はどこにいても目立つ」
「言われてみれば」
「周世は怪我したり、受験でいっぱいいっぱいなのはわかるけど、落ち着いたらちゃんと気持ちの一つぐらいは伝えなさいよ」
「そんなに、わかりやすかった?」
「見てればわかるわよ。言ったでしょう、知らないのは当事者同士だけって」
恥ずかしい。
「恥ずかしくて死ねる」
力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまう。
「何言ってんのよ!生徒会時だって私と周世じゃ扱いが全然違ったじゃん!もう聞きたいことはない?」
「聞きたいことはないです、扱い違った?」
一年からの生徒会メンバーは俺と育と周世と都奈。
都奈は帰宅部、育はパソコン部だったから、生徒会の時間が作りやすかった。
周世は陸上部で大会前などは本当に大変そうだった。フォローしたり、なるべく話題を共有したりしていた。
扱いが違うというか、それぞれにやることの優先順位が違うからフォローしていただけだ。
立ち上がる。女子の近くでしゃがむのは良くない。
「違ったわよ。自覚ない?はーヤダヤダ。それと小佐治の元担任が辞職したよ。そのうち生徒にも報告するんじゃないかな?」
「そうなの?」
辞めたんだ。
「そう、だから卒業式には来ないから」
「来る予定だったの?」
「来る予定でした」
「へー」
なんで来る予定だったんだ?来なくていいのに。
「元担任が絡んでくるかもしれないから登下校とか気をつけてね。周世にも言っといて」
「わかった」
大事なことだ。伝えておこう。
「周世の足はまだ走れないけど順調って聞いた。だけど心配よね。なんであの担任、つっかかってきたの?」
「あの担任、陸上部の顧問だったんだけど、周世が走れないってなると手のひら返してきたんじゃないか?」
「それは知ってる。でもなんか違うのよねぇ」
違う?なんだろう?
周世も陸上しか心当たりがないという。
「加害者に何か関係あるのか?」
「いとこってきたけど?」
「だよなぁ」
事故の時、居眠り運転していた担任のいとこは、女性。いわゆるブラック企業にお勤めだったらしい。
赤信号を無視し、街路樹に車をぶつけ、その反動で歩行中の周世にぶつかったと聞いている。
本人は、怪我はなく、最初に誠意をみせていたが、時間が経つと少しずつ態度が変わったようだ。
それまで謝罪など誠意をみせていたのに、全く連絡がなく、周世の弁護士から連絡して渋々という感じだったらしい。
「周世の弁護士さんにも伝えてもらっておこう。調査とかもしてもらえるのかな?」
都奈が言った。
周世に伝え、登下校は気をつけてもらう。
周世のご両親も教師の態度に不信感があり、調査にも賛成していたとのことだ。
「周世、小佐治、これを渡しておく。スタンガンだと過剰防衛になるかもしれない。スプレーの使い方はわかるか?一度練習しよう」
と次の日、育が防犯用のスプレーを渡してくれた。
なるべく使わないように祈っておく。
文化祭も終わり、もうすぐ12月というこの時期。
周世から放課後、呼び出された。
「小佐治、都奈、育。元担任と加害者のいとこが捕まった」




