美術室の君⑥ 嫌なものを嫌とはっきり言って何が悪いんだ
加害者のいとこが被害者の担任だなんてと、周世の両親とPTAは抗議した。
もっと配慮があったのではないかと。
そこで学校側は加害者と担任の関係を初めて知ったのだ。
報告を怠ったと担任は減給、公私は区別すると言ったのにこれだ。
ゴールデンウィークが過ぎてから担任は休職した。
担任は学年主任が引き継いだ。
それでも周世はズボン、俺はスカート姿で過ごしていた。
「毎朝ヘアメイクが大変じゃないか?メイクも時間にかからなくなったし、髪も自分でアレンジできるようになったと思うんだけけど」
と言うと、
「先輩、めっちゃ楽しいので気にしないで下さいね。まだまだ試したい髪型がありますから」と、にっこりと微笑まれる。
「癒されるわー。たまに演劇部に来て着せ替えしましょうね」と、これまた、にっこりと微笑まれる。
朝早くの登校とヘアメイク、おやつとお茶の持参は日課になっていた。
美術部の後輩と周世は同じ駅だと互いに初めて知ったらしい。
演劇部の部長は学校の近所。
俺は周世達と反対方向の駅だけど、女装していても特に被害は今のところは無い。
「テスト期間はどうする?流石にやめとくか」
「そうですね。でもテストが終わったら絶対、絶対にやりましょうね」
念を押された。
「テスト期間中もお肌のお手入れしてね。周世は日焼け対策を続けなさいよ。夏のコスメも見に行きましょう」
こちらも念を押された。
放課後は周世と図書室に行く。
向かい側の椅子に周世は足を置くため、四人掛けのテーブルを二人で使っている。
俺は手を休める時間を作れと言われたので、便覧を見たり図鑑を見たりしていた。
いろんな分野の便覧があり、面白い。
スクショは禁止されているが、コピーは可能。
このページを印刷しましたと、申告するのが面倒なのでメモを取ったり模写をしていた。
手を休める時間なのに仕方ない。
15分だけ手を使って、後は休んでいた。
周世は主に問題集を解いていた。
周世は足の治療が優先になるため、授業を早退したり、休んだりしている。
塾にも通っていたが診察が長引き、塾の開始時間までに間に合わないこともあるそうだ。
塾では足を挙上することもできないので、オンライン授業に切り替えた。
学校にもオンラインにしてくれたら楽になるのにと何度か交渉したらしい。
実際にオンラインで授業を受けている生徒もいる。
だが結果は無理。頑張って登校しても、登校できるじゃないか、やればできるじゃないか、甘えだと受け取られたことに苦しみ、怒り、そしてキレた。
校長をすっとばして教育委員会へ連絡し、周世の事故を担当している弁護士にお願いして、教育系に力を入れている弁護士関係を紹介してもらい、他にも病院やカウンセラー、はては市役所の男女企画室、などなど第三者の目をどれだけ学校に向けれるか、事情を何度も何度も話すのは辛かっただろうと思われる。
周世は感情をあまり表面に出さないから、そんなことを思っていたなんて、と、学校側が驚いていた。
嫌なものを嫌とはっきり言って何が悪いんだ。
夏季休暇のため、更新は随時になります。




