図書室の君⑩ 少し情けない
生きてた。
その報せに部長は口元に手をやり、よかったと呟いて涙をこぼしていた。
涙を本に落とさないように、慌ててハンカチで目尻を拭っていた。
二犬さんは、その場にしゃがみ込んでいた。
「大丈夫?立てる?」
声をかけると、立てますと、さっきの椅子に座ってもらう。
「さっき連絡があって、睡蓮を見に鎌倉に行っていたそうです。熱中症で、倒れていたところを保護されてようです」
「一人で行ってたの?」
ハンカチをしまいながら部長が言う。
「そこまでは。スケッチに熱中していたそうです」
周世先輩はどうした。
「周世先輩って小佐治先輩と同じ大学なの?」
とりあえず聞いてみる。
「同じ大学です、でも学部が違ってキャンパスも違うみたいです」
そうなんだ。
「無事でよかったです、本当によかったです。
落ち着いたら千日紅の押し花のことを聞いてみます」
無事で何より。ほっとしたところで、ニ犬さんは帰っていった。
押し花は部長がカウンターで預かるようにしておくとのことだった。
一年ぐらい押し花がされていたことにも気づかないなんて、少し情けない。
明日から何か挟まれたいないか、片っ端から本を見てみよう。
部長は帰宅し、今日はもう誰も図書室にはいない。
戸締りが終わって、カウンターで丘さんを待つ。
カウンターの呼び出しベルが目に入る。
ベルを手に取ると、ずっしり重い。
元々ハンドベルだったから音が甲高いのも納得する。
ベルの部分を見ると、からん、と音が鳴った。
ハンドル部分は木製で、小さく図書室と彫ってある。
ベルの部分は真鍮だ。
カラーハンドベルしか知らなかったから、真鍮のハンドベルがあるとは思わなかった。
小佐治先輩は器用な先輩だったんだなと思った。
ぎぃと入り口の扉が開いた。
丘さんが図書室に入ってきた。
目が合い、
「丘さん」
と、手招きする。
丘さんはカウンターまで来てくれた。
「丘さん、周世先輩が女子で、小佐治先輩が男子って知ってた?」
「知ってたけど?」
何を今更って。
そうだよなぁ。




