竜とクリスタル:2-1
「ミアさまと出会う前、僕は――」
エリオは騎士の家系に生まれた貴族の子供だった。
三男で、兄が二人いる。
両親も兄たちもエリオに家族としての愛情をもって接してくれた。
文句のつけようのない、円満な家庭で不自由なく育った。
そしてエリオには剣の才能があった。
子供のころから類稀な剣術の才能の片鱗を見せており、剣の師の指導のもと、剣術をひたすら習ってきた。
貴族同士の剣術の手合わせでは無敗。
大人にも負けないエリオの評判は諸侯に広まっていった。
その才能を認められたエリオは20歳になった日、名誉ある巫女の従者に選ばれたのだ。
「従者に選ばれるのって、すごいことだったの?」
「従者としての役目を無事に果たせば、一族の一生の誉れになるでしょう」
「わ、わたしががんばらなくちゃいけないってこと!?」
目をまんまるに見開いて自分を指さすミア。
「そうですね。期待していますよ、聖女さま」
「う、うん……。エリオのためにがんばらなくちゃ……。せきにんじゅうだいだよ……」
従者としての役目を果たす。
それがなにを意味しているのかミアは深く考えていないようす。
エリオは罪悪感に胸がしめつけられた。
「はじめてわたしと出会ったとき、エリオはどう思った?」
「ミアさまとはじめて出会ったとき……」
二人の出会いは王都のクリスタルがある神殿。
そこでミアは自分の従者を待っていた。
クリスタルの前にちょこんと座っている彼女を見たとき、エリオは驚いた。
聖女と言われている少女は、年端もいかない小さな女の子だった。
華美な衣装で着飾っているものの、面立ちのあどけなさまでは隠せていない。
神聖な女性を想像していたエリオは、ミアの幼さに驚くばかりだった。
「き、きれいな女性だな、と」
「声でわかるよ。それ、うそでしょ」
ミアがジト目になる。
「どうせ『こんな子供が』って思ったんでしょ」
「すみません」
「いいもんいいもん。どうせわたしは子供ですよー」
ぷくっとほっぺたをふくらませるミア。
「でも、わたしは――」
ミアがいきなり真剣な表情になる。
さっきまでの落差のせいでエリオはどきっとしてしまう。
「エリオがやさしい人でうれしかった」
そのときの微笑みは、まさに聖女と呼ぶにふさわしかった。
「エリオ。わたしの従者になってくれてありがとう」
「い、いえ……」
エリオはどぎまぎしながらなんとか返事をした。
「ふわぁ」
ミアが大きなあくびをする。
まぶたが半分閉じた目をこする。
「わたしもう寝るね」
「おやすみなさい」
「おやすみー」