奇跡の聖女:1-7
夕刻、ミアとエリオを乗せた列車はモーングレイヴの駅に到着した。
かつて繁栄していただけあり、駅の規模は大きかった。
しかし、大きいだけだった。
駅の石畳はそこかしこが剥がれ、割れていて、天井は破れていて役に立たない。
壁のガラスは割れて風が吹き込んできている。
廃墟と見まがうばかりのありさまだった。
駅もひどいが町もひどい状態だった。
クリスタルから供給されるマナが極端に減ったことで大地が枯れて作物が実らなくなり、きれいな水もわかなくなり、人が住むには過酷な場所となっていた。
そのせいで裕福層は他の町に逃げ、行くあてのない貧しい者たちだけがモーングレイヴに残されていた。
クリスタルの力が弱まっている町はどこも似たようなありさまなのである。
王国は大陸中から聖印を宿して生まれた聖女を集めて管理し、王国に取って重要である町に重点的に聖女を送っているのだ。
モーングレイヴもまたその一つ。
モーングレイヴの町長の屋敷にて。
町長たちは聖女とその従者の来訪を心から歓迎してくれた。
「聖女さま、どうかモーングレイヴをお救いください」
「まかせてくださいっ」
ミアは満面の笑みで応えた。
町長と大人たちの表情が明るくなる。
それを見たミアはどこかほこらしげでうれしそうだった。
クリスタルにマナを供給するための代償をこの人たちは知っているのだろうか。
エリオは内心そんなことを考えていた。
その晩、ミアとエリオは前の町でもそうであったように、モーングレイヴの住人たちに手厚くもてなされた。
自分たちのその日の食事にも困っているにもかかわらず豪勢な食事が振舞われ、大きな個室まで用意してくれた。
「エリオとわたしの部屋は別々なの?」
「当然です」
「ベッド、二人くらいならいっしょに寝られるよ?」
くいくい、とミアが心細げにエリオの服の裾をひっぱる。
エリオは彼女の頭を優しくなでた。
絹のような繊細で、なめらかな手触り。
「でしたら、ミアさまが眠るまでそばにいます」
「やったーっ」
ミアはぴょんと飛び上がって、身体全体でよろこびを表現した。
ミアにあてがわれた部屋に入るエリオ。
部屋は広くて内装も豪華だが、掃除は行き届いてない。
長い間使われていないのが一目でわかった。
ただし、ベッドに関してはメイドがベッドメイキングをしたためきれいだった。
ベッドに寝転がるミア。
イスをもってきて彼女の横に腰かけるエリオ。
エリオは思わず息をのむ。
真っ白なベッドに横たわるミアは、聖女と呼ぶにふさわしいくらい美しかった。
まだ幼さを残しているが。
「エリオ。あなたの話をしてちょうだい」
「僕の話ですか」
「わたしの従者になる前、エリオはどんな生活をしてたの?」