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枯れゆく世界と旅立つ少女  作者: 帆立
奇跡の聖女
6/31

奇跡の聖女:1-6

 列車の行く手を阻むように、レールの上に大岩が乗っかっていた。

 付近には小高い丘がある。

 あそこから転がってきたのだろう。


「どうりで運行を再開できないはずです」


 大岩はかなり大きい。

 大人が数人がかりで押した程度ではびくともしないのは一目でわかった。


 これでは運転の再開は当分見込めないだろうとエリオは思った。

 最悪、列車から降りて最寄りの町まで歩いていくはめになるだろう。


 ミアは立ちはだかる大岩をじっと見つめている。

 そんな彼女を見てエリオは気付いた。彼女がなにを考えているかを。

 だからエリオは先回りしてこう言った。


「ミアさま。奇跡の力を使ってはいけません」


 しかし、ミアは黙ったまま答えない。

 短い沈黙の後、彼女はこう彼に問いかけた。


「エリオならどうする?」


 エリオを見つめ、続ける。


「エリオがわたしの立場だったら、みんなを助けられるのに知らんぷりする?」

「僕は……」


 エリオは言葉に詰まる。

 正直な返事をしてはならない。

 さもなくば、彼女に過酷を強いてしまう。


「わたしにできることがあるのなら、やらなくちゃ」

「ミアさま……」

「エリオ。ついてきてくれるよね?」


 ミアが車両の扉を開けて外に出る。

 エリオは彼女に続いた。

 レールに沿って走っていた二人は大岩の前で立ち止まった。


 目の前までくると大岩の大きさがよくわかる。

 エリオでさえ、首が痛くなるくらい顔を上げないとてっぺんを見られない。

 ミアが岩に手を触れる。


 ミアの輪郭に青い光――可視化されたマナが浮かぶ。

 手のひらから大岩にマナが流れ込んでいく。


 やはり止めるべきか。

 あるいは見届けるべきか。

 悩んだ末、エリオはミアの腕をつかんだ。


「わたしならへーき」


 ミアがにこりと微笑む。

 胸が苦しくなる、いたたまれない笑みだった。

 エリオは彼女の腕からそっと手を離した。


 マナを注がれ続けた大岩に異変が起きた。

 ガタガタと揺れだす。

 そこかしこに亀裂が走り、青い光がもれ出てくる。


 過剰なマナを注がれた大岩が内部から爆発して砕け散ったその瞬間、エリオはミアを抱きしめて飛び退き、飛散する岩のつぶてからかばった。

 レールに乗っていた大岩がこっぱみじんになったことにより、列車の運行は再開された。


「聖女さま、ありがとうございます。先ほどの無礼をお許しください」

「てへへっ。わたしにできることをしただけですから」


 車掌たちは先ほどの態度とはうってかわって恭しくミアに礼を述べたのだった。

 ミアとエリオは今、向かい合わせに座席に座り、流れる車窓の景色を眺めている。


「ミアさま。聖印を見せてください」

「いいよ」


 ミアが手のひらを広げる。

 じっと目をこらすエリオ。


 手のひらに描かれた、聖女のあかしである聖印。

 六角形の図柄から伸びている枝の数は――依然として三本。


 そのうちの一本は他の枝よりも短い気がするとエリオは思った。

 先ほどマナを消費したから短くなったのか。

 それともただの勘違いで、もとからこの長さだったのかもしれない。


 いずれにせよ、枝の数は減っていなくてエリオは安心した。

 ほっと胸をなでおろす。


「ミアさま。むやみに聖女の力を使うのはよしてください」

「わかった」


 うなずくミア。

 しかし、エリオは知っていた。

 彼女はいずれまた、他人のために聖女の力を使うだろうと。

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