奇跡の聖女:1-5
「す、すぐに運行を再開しますので、しばしお待ちください」
そう告げると車掌はそそくさと別の車両に行ってしまった。
乗客たちがざわめく。
皆、不安がっているようす。
「どうしちゃったんだろうね」
「列車が故障したのかもしれません」
ミアも不安そうな顔をしている。
彼女の気持ちを表すかのように、窓に映る荒野には雨が降りしきっている。
だだだだだだだ……。
窓のガラスを叩く絶え間ない雨音。
ミアは落ち着きなくきょろきょろと周囲を見渡している。
しばらくすると席を立った。
「ミアさま、どうされたのです?」
「列車を運転してる人たち困ってるのかもしれない。助けにいこうと思って」
「いくら聖女でも列車の修理には役立てないかと」
「でも、ここでじっとしていてもなにも変わらないもん」
どうしようかと悩むエリオ。
12歳の女の子が首を突っ込んでもじゃまもの扱いされるだけだろうとは思っていたが、列車が動かない原因を知りたいという好奇心もないわけではなかった。
「わかりました。助けにいきましょう」
客車を出たエリオとミアは狭い通路を歩き、運転室のある先頭車両までやってきた。
二人に気付いた車掌が慌てて二人を制する。
「い、いけませんお客さま! 席にお戻りください」
「なにか手伝えることありませんかっ?」
「気持ちだけで結構だよ、お嬢ちゃん」
ミアの言葉に苦笑いを浮かべる車掌。
やはり子供が遊びにきたとしか思われていなかった。
自分の扱いに納得のいかないらしいミアはふくれっ面になっていた。
「列車はいつごろ発車するのでしょうか」
エリオが尋ねる。
「もうしばらく。もうしばらくお待ちください」
先ほどと同様、車掌はあいまいな返事しかしなかった。
じれったくなったらしいミアがこう言う。
「わたし、聖女なんです! クリスタルにマナを注ぐ旅をしているんです!」
そう主張するも、車掌はやはり困った子供を見る目つきを変えなかった。
一般人からすれば当然の反応だった。
「お兄さんですか? この子を席に連れていってください」
「そうします。じゃまをしてすみませんでした」
「ちょっとエリオ!」
「戻りますよ『聖女』さま」
「もーっ」
半ば強引にミアを席に連れ戻した。
「聖女には聖女の、車掌には車掌の役割があるのです。今は待ちましょう」
「うーっ」
ミアは『はい』とも『いいえ』ともとれない返事をした。
ただ、ふてくされているのだけはわかった。
発車を待つ間に、ついに雨が上がった。
空にをふたをしていた灰色の雲の隙間から差し込む太陽の光が大地を照らしだす。
ミアが車窓を開けて身を乗り出す。
「あああーっ!」
そして大声を上げた。
驚いたエリオも窓から頭を出す。
彼女と同じ方向に目をやったとき、彼女が大声を出した理由がわかった。
「あれが原因だったのですね」