奇跡の聖女:1-4
「うわーっ。おいしそーっ」
ミアが目をきらきらさせる。
と思いきや、上目遣いでおずおずとエリオにこう尋ねてくる。
「マスタードは……」
「入っていません。ご安心ください」
それを聞いたミアはさっそくサンドイッチを手に取って食らいついた。
もぐもぐと口を動かす。
「おいしーっ! エリオ、一流シェフになれるよっ」
「光栄です」
次から次へとサンドイッチに食らいつくミア。
「そんなに慌てなくてもサンドイッチはたくさんありますよ」
「むむむー?」
ミアの口はエサを詰め込んだリスのほっぺたみたいに膨らんでいた。
エリオもサンドイッチを食べる。
まあまあだな。ハムをもう少し厚く切るべきだった。
そう心の中で自己評価した。
「エリオのお父さんって料理人だったの?」
「いえ、父は騎士です。我が家は騎士の家系ですから」
「ということはー、エリオって貴族なの?」
「一族にそれ相応の地位がなければ聖女の従者にはなれませんよ」
世間知らずの箱入り娘だな、とエリオは思った。
だが、それも仕方がない。
ミアの一家はもともと田舎に住む平民。娘のミアに聖印が現れたことにより父親が爵位を得て貴族に成りあがったという、聖女が生まれた家にありがちな経緯だ。
ミアが生まれたからこそ、彼女の家族は富と地位を得た。
逆に言えば、ミアは家族を人質に旅をさせられている。
本人はそれを理解していないようだが。
「窓の外の景色、ずーっと荒野だね」
世界中のクリスタルが輝きを失いだし、世界は枯れつつある。
聖女のおかげで多くの町は緑と水を取り戻しているが、町を一歩出れば延々と不毛なる荒野が続く。
滅びゆく世界で人間は、聖女の力によってかろうじて生きながらえているのだ。
聖女たちが命を代償にクリスタルにマナを注ぐのは、単なる一時しのぎなのではないか。
エリオはそう思わずにはいられなかった。
たん、たん……。
窓に水の粒が落ちてガラスを叩く。
雨が降ってきた。
雨は降りだすと一気に勢いを増し、またたく間に大雨になった。
容赦なく降り注ぐ雨が、乾いた大地を赤褐色に染めていく。
「雨が降ったら水がたまって枯れた泉ももとに戻るかな?」
「それはないでしょうね。大地に草木が生えていないかぎり、雨水は大地に染み込んでしまうでしょうから。水も大事ですが、土壌も重要なのです」
「そっか。そうかんたんにはいかないんだね」
「だからこそ、聖女の力が必要とされているのです」
「えへへっ。わたし、がんばらなきゃ」
――と、そのとき、視界が一瞬、白くなった。
続いて、ドーンというすさまじい落雷の音。
ミアが悲鳴を上げてうずくまる。
「雷が落ちてくるー!」
「列車には落ちませんから安心してください」
「どうしてわかるのよー」
「雷の光と音の時間差で距離がわかるんです。あれは遠いですよ」
「エリオがそう言うのなら……」
ミアはおそるおそる頭を上げた。
「あれ……?」
首をかしげるミア。
「なんだか列車の速度が……」
「遅くなってきていますね」
列車はゆっくりと速度を落としつつあった。
しばらくすると、ついに完全に停車してしまった。
「故障かな?」
「車掌に尋ねてみましょうか」
ミアとエリオが乗っている車両に車掌が現れる。
エリオはちょうど現れた車掌に停車した理由を尋ねた。