奇跡の聖女:1-3
エリオがミアの手を握る。
「聖女の使命なんてどうでもいいではないですか。どこか小さな村で僕と暮らしませんか」
「へ? それって……」
ミアが目をぱちぱちさせて、ほっぺたを赤くする。
「結婚しよう――って意味?」
「結婚!?」
エリオは裏返った声を出してしまった。
真剣な雰囲気を台無しにする、とても間抜けな声だった。
「違うの?」
「す、すみません。そういう意図で言ったわけではありません」
恥ずかしくなったエリオはミアから視線をそらした。
「で、ですが、ミアさまさえよろしければ――」
「わたしー、まだ12歳なんですけどー」
「うぐ……」
「わたしは別にいいんだけどねっ」
「ええっ!?」
「ふふっ。エリオをからかうのって楽しい」
くすくす笑うミア。
からかわれてしまったエリオはばつが悪そうに頭をかいていた。
ミアのおかげですっかりなごやかな雰囲気になっていた。
エリオが「こほんっ」と咳ばらいする。
「ミアさまがこれからも聖女として旅を続けるというのなら僕もお供します。それが従者の役目ですから」
「ずっとずっといっしょにいてくれる?」
「この剣に誓います」
鞘から抜いた剣を頭上に掲げる。
銀の剣は月の青白い光を跳ね返していた。
ミアとエリオは三日滞在した後、町を発った。
再び旅立つ二人。
聖女として大陸をめぐり、枯れたクリスタルをよみがえらせる。
それが彼女たちの使命。
「エリオ。次はどこに行くの?」
「えっと、次はモーングレイヴという街ですね。かつては王都と並ぶほど繁栄していた街ですが、クリスタルが枯渇したことにより今は荒廃しています」
二人は列車に乗っていた。
乾いた大地に引かれたレールの上を列車は走っている。
がたん、がたんと揺れながら。
エリオは勅命が書かれた書状に目をやる。
そこにはミアがクリスタルの再生を受け持つ町の名前が書き連ねてある。
聖女は王国が管理しており、誰がどこのクリスタルを再生させるか決めているのだ。
この書状をくしゃくしゃに丸めて窓から捨てるなんてエリオにはかんたんにできる。
それをしないのはミアの目が希望に輝いているからだ。
「わたしたちの力でモーングレイヴの人たちを助けようね」
「……そうですね」
「わたしの力で困っている人たちを助けるんだ」
ミアは自分に宿った力を誇りに思っていた。
自身の物語の結末がどうなるかを知っていながら。
「ところでミアさま。食事にしませんか」
エリオが小さな編みカゴのふたを開ける。
中にはサンドイッチがぎっしりと詰まっていた。