奇跡の聖女:1-2
それから続けざまに町の人たちが神殿に現れ、大地に突然草花が芽吹いたことや、しなびていた作物が元気になったことなどを報告してきた。
「ありがとうございます、聖女さま。あなたさまのおかげで町は救われました」
「てへへー。どういたしまして」
ミアは照れくさそうにはにかんでいた。
聖女の力でクリスタルが輝きを取り戻し、大地に緑と水がよみがえったことで歓喜に沸く中、エリオだけが悲しげで、そしてくやしげな表情をしていた。
ミアがそんな彼の顔を覗き込んでくる。
「エリオ。わたし、やったよ」
「そう……ですね」
「みんなうれしそうでよかったね」
「……ミアさま」
「ん?」
「『聖印』を見せてください」
「うん。いいよ」
ミアが手のひらをエリオに見せる。
彼女の手のひらには白い色で描かれたような紋様があった。
中心にはクリスタルを思わせる六角形。
そこから三本『枝』が伸びている。
聖女のあかしである聖印だ。
前に見たときよりも一本減っている。
「残り三本……」
「そう、だね」
ミアが苦笑いする。
聖印の枝はクリスタルをよみがえらせる儀式をするたびに一本ずつ失われていく。
枝がすべて失われたとき――聖女としての役目が『終わる』のだ。
その夜は町を挙げて儀式の成功を祝福した。
町はお祭り騒ぎ。
町長の屋敷に招かれたミアとエリオは豪勢な食事を振舞われたのだった。
ミアは細い身体でおしとやかなお姫さまの風貌だが、肉料理が大好物。
つぎつぎと肉料理に食らいついて町長たちを驚かせた。
「ごちそうがいっぱいだね。おいしいね、エリオ」
「……はい」
「……エリオ」
ミアがエリオのほっぺたをつつく。
「そんな顔しちゃダメ。もっとよろこばないと」
「僕は素直によろこべません」
エリオは席を立ち、部屋を出ていった。
バルコニー。
手すりにもたれかかり、夜空を見上げていた。
そこにミアがやってくる。
「おこってるの?」
「少しだけ」
「どうして? エリオのイヤなことしちゃったのならごめんなさい」
「ミアさまは」
背を向けていたエリオがミアと向き合う。
「あと三回、これを続けたら死んでしまうのですよ」
「そうだね」
「ミアさまはそれでいいのですか」
「これが聖女の使命だから」
世界の活力のみなもとであるクリスタル。
それが枯渇しつつある世界。
世界の渇きを潤すのは聖印を宿して生まれた聖女のみ。
聖女は人々の希望だった。
人々の希望に聖女は応えなくてはならない。
たとえ、その命が尽きようとも。
「つらいならやめてもいいよ」
「それは僕のセリフです」