奇跡の聖女:1-1
長い髪の少女がクリスタルを見上げていた。
神殿の天井にも届くほどの巨大なクリスタル。
かつてクリスタルはまばゆく輝き、そこから生まれるマナで大地を潤していた。
しかし、少女の前にあるクリスタルに輝きは無く、曇り淀んでいる。
クリスタルから供給されるマナは極端に減ってしまい、大地は渇き、泉は枯れていった。
しばらくぼーっとクリスタルを見上げていた少女が決意を秘めた表情になった。
手のひらをそっとクリスタルの表面に重ねる。
すると、少女の輪郭が青い光を帯びだした。
「エリオどの。あの青い光は……」
「マナがミアさまからクリスタルに流れ込んでいるんです」
剣を携えた青年――エリオが年老いた町長にそう答えた。
青く可視化されるほど凝縮されたマナが、長い髪の少女――ミアからクリスタルに流れ込んでいく。
輝きを失っていたクリスタルがほのかに光りだす。
町長や他の大人たちが驚愕した面持ちで成り行きを見守っている。
ミアの従者であるエリオもただただ黙っていた。
まだ12歳でしかない少女が命を費やして使命を果たそうとしている。20歳になった自分ですら未熟だと痛感することが多いというのに。
僕はただ見守っていることしかできない。
彼女の守る剣と盾になると誓ったというのに。
この儀式をするとき、エリオはいつも自分の無力さを思い知らされるのだ。
どんどんマナがクリスタルに供給されていく。
徐々に光を取り戻していく。
クリスタルがよみがえりつつある。
――そのとき。
「ミアさま!」
ミアが足をふらつかせて倒れそうになったのを、エリオが抱きとめた。
儚いほど軽い。
エリオはそれが彼女の命の重さのような気がした。
「ミアさま、今日はここまでにしましょう。これ以上は身体が持ちません」
「だいじょぶ。へーきへーき。にへへ」
顔色は悪く、汗も流している。
にもかかわらずミアはけなげに笑ってみせた。
自力で立ち上がり、再びクリスタルに手を触れる。
クリスタルは貪欲にミアからマナを吸っていく。
ミアは苦痛に顔をゆがめながらも必死にマナを送っていた。
それが『聖女』としての使命だから。
いよいよ目も眩むほどクリスタルの輝きが強くなる。
そしてついにクリスタルは内側から爆発的な光を発した。
クリスタルから発する光が視界を白に染める。
まぶたをつらぬく痛いほどの光。
その光が続いたのは一瞬で、すぐに光は収まった。
おそるおそる目を開けるエリオ。
すると、目の前のクリスタルは完全に輝きを取り戻し、自らの力でゆっくりと回転していた。
町長や町の大人たちが歓喜の声を上げる。
「クリスタルが光を取り戻したぞ!」
「これで大地に緑がよみがえる!」
それからすぐに神殿に町の衛兵が駆けこんでくる。
「泉から水が湧き出てきたぞ! 井戸からも水が出てきた!」
「奇跡じゃ……」