その先(アレン視点)
デュラン視点と内容は同じです。
お好きな方をお読みください。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
眠っていたことに気付き身体を起こそうとすると、その身体を覆うデュランの腕と硬い胸板に気付く。
「起きたか?」
その腕の中から、デュランを見上げる
「はい。……夢じゃない?」
分かっているけれど確かめずには居られない。
「どうだろうな。まずは水を飲め。たくさん泣いたからな。」
そう言って優しく目元をなぞる指先。
そして僕を前に抱きかかえたままキッチンへ向かい、椅子に座らせてくれる。
そして差し出される水。
確かに喉が渇いていたらしい。
今日は早く帰ってきたためまだ夜は更けていない。
「何か食べるか?」
まだお腹は空いていない。
「じゃあ早いけど寝るか?疲れただろ?」
まだ寝たくない。一緒にいたい。
その不満が顔に出たらしい。
「言っただろ、ずっと目の届くところにいろって。」
揶揄うように笑うその顔は悪い大人の顔だ。
つまり色気がすごい。
「じゃあ、寝ます。」
ふっと微笑み、また僕を抱き上げる。
目が冴えてくるとその恥ずかしさに気付く。
「自分で歩けますよ?」
「今日は持ち歩きたい気分なんだ。楽しておけ。」
近くなった顔。隠さない色気。
毛布から吸い込んだ時とは比べ物にならないほど濃厚なデュランの匂い。
吸い込むたびに胸に充満する匂いに心臓がきゅんきゅんと、ドキドキと音を立てる。
同時に押し寄せる緊張で心はいっぱいいっぱいになる。
運ばれた先は、デュランの部屋。
灯りを付けすぐに気付く。
「お前もそのつもりだったか。」
サイドテーブルに置いた荷物を見てからにやりと更に深める悪い笑顔。
そのままバスルームへ向かい、置いてある椅子に座らされる。
洗面台から歯ブラシを2本持って戻るデュラン。一本は新品。
当たり前に毎日していることではあるけれど、他人が歯を磨く姿を見ることはあまりない。
そのせいか時々見える歯に、口内に、舌に、心臓はまたどきどきと音を立てる。
そしていつか絶対にデュランの歯を磨かせて貰おうと固く決意する。
この2年必死で勉強したんだ。
歯ぐきや歯は快感を感じることができるってその時に学んだんだ。
僕がそんなことを考えている隙に、歯磨きを終えたデュランが服を脱ぎ始める。
一緒に入ると言われたらどうしよう。
部屋で待ってろと追い出されたらどうしよう。
恥ずかしさと寂しさ、緊張と期待のどこに気持ちを落ち着けたらいいのかわからない。
それでも、ボタンを外す指先や少しずつ露わになってゆく胸元から目が離せない。
「なんだ、一緒に入らないのか?」
躊躇う僕に歩み寄り、顎を上向かせキスを軽く落とす。
「どうした?」
真っ赤になって固まる僕を椅子から抱え上げる。
硬直する僕に構わず更にキスで攻めてくる。
それは恥ずかしさをどこか遠くへと追いやる蕩けるような心地よさ。
「安心しろ、今日はキスしかしない。」
俺が上がるまで部屋で休んでろ、とわざわざソファまで運んでくれた。
放心している間にデュランがシャワー終え部屋に戻ってくる。
「生き返ったか?」
揶揄われたので、少しの反抗心から頬が膨らむ。
大丈夫だと頷く僕の隣に腰を下ろし、顔を覗き込んでくる。
頷いた時に少し顔を逸らしてしまったのが気に食わなかったのだろうか。
じっとこちらを覗き込んだままだ。
その視線に耐えきれずデュランの方へと向き直る。
やはり至近距離にあった顔と、絡んだ視線に思わず腰が引け背を反らすように少しだけ距離を取ってしまった。
ふっと頬を緩めるように笑い、片手が首筋に添えられる。
その手に引き寄せられ、近づく顔と顔。
キスだ、そう思いデュランの唇を見つめる。
自然に薄く開いてしまう唇。
それでもまだ触れない唇にもどかしくなり、つと目線を上げる。
じっとこちらを窺っていたらしい。
そこで、僕がキスを期待して待っていた姿をまじまじと見られていたことに気付く。
恥ずかしさで顔には熱が集まり、少しだけ泣きたい悔しい気持ちになる。
そんな表情の変化も全て思惑のうちだったらしく、微笑みが一層深まる。
悔しさで口を引き結んだ途端、唇に噛み付くようにキスをされる。
弄ばれていると分かって悔しいのに、すぐさまその唇を受け入れ縋ってしまう自分にさらに悔しくなる。
お腹に回された腕に、しがみついた胸元に体重を預ける。
腰はすでに抜けてしまっているし、息も苦しく熱い。
デュランの湿った吐息を取り込むたび、甘くなってゆく痺れ。
もっともっとと身体を擦り寄せる。
それに応えてくれるように背中を支える腕に力が込められる。
それが嬉しくてまた擦り寄る。
首筋に添えられていた手が離れ、背中を支えていた腕にぐっと力が入り、簡単に膝の上へと移動させられる。
どれだけ時間が経ったのだろう。
数分なのか、数十分なのか、朦朧とする意識では時間の経過さえ感じされない。
意識が途切れそうな時に聞こえた声。
「自分で洗えるか?」
その言葉に込められた意味は蕩けた脳でも瞬時に理解することができた。
何度も頷く僕を笑う。
「慣れたら洗ってやるからな。」
また揶揄うように笑って言いながら、僕をバスルームへ運んでくれた。
ようやっとシャワーを終え部屋に戻ると、デュランがテーブルに水を用意してくれていた。
デュランは既にベッドに上がり、ヘッドボードに凭れながら本を読んでいた。
「遅かったな。干からびないように水を飲めよ。」
言われた通りに水を飲み、悩む。
どちら側にしようか。
そう悩んでいるのもすぐに見抜かれ、左手でポンポンとベッドを叩き促される。
こういう手慣れているところもキスが上手いのも、魅力的に思えるけれどそれと同じくらい悔しくて腹立たしい。
それでもおずおずとベッドに上がれば、ぴとりと寄り添ってしまう自分に呆れる。
横になり、まだ本を読んでいるデュランを下から見上げる。
部屋の灯りが差し込んだ榛色もきれいだった。
ぴとりと寄り添ったそこから伝わる熱が心地よく、頭を撫でられるとたちまち視界は眩み、そのまま静かな眠りへと落ちていった。
これが夢じゃないのなら。
また明日は必要ない。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
お読みくださりありがとうございます。