必死
奇妙な夢から覚める。
俺の名は相模一義。かずよしなんて古めかしい名前なのは俺が親に捨てられて爺ちゃんと婆ちゃんに拾われ、名付けられたからだ。
二人はもう死んだが二人の遺したラーメン屋を必死に守っているのが俺だ。
もう十年も中卒で働いていれば社会の底辺としての自覚もあり、人生をどうでもいいと思っている部分もある。
だから夢のアイツの言葉に従った。
妙に現実感のある夢だったし、箱も実際にあったし、頼まれたし。
言い訳を並べ立てながら心で願うのは何か変わらないかな、という他力本願で最低の願望。
まともに経営できない店を守る為に資格を取ってバイトして許可を取ってバイトしてバイトして。
「疲れた」
箱を壁に押し付ける。
ガシャンガシャンガシャガシャガガガ
壁一面が機械的な何かに覆われていく、非現実な光景に脳が理解を拒絶した。
『パンパカパーン!これは未来に料理を送る装置、君が料理を入れれば君の時代の通貨が手に入る!試しに値段を設定して料理を入れて見よう!』
「餃子でいいか」
馬鹿にされていると理解したが、飯をやると約束したのは俺だ。俺は二人の育て親に約束は守れと教育されている。
「昨日作った余り物だ、100円で」
『ダメだね、それは【料理】だ。10万円だ!』
値段を設定しろといったのに勝手に変更される。
10万円なんてバイト代一ヶ月分だ、4皿あるから
ピロピロピロピロピーン!完売です。
皿を入れた所が変形して封筒が飛び出して来る。
マジで40万入ってやがる。
巫山戯た効果音と生々しい現金で混乱しまくる俺は、呆然と昨日の夢の奴らしい声を聞く。
『君の時代から6000年の未来に私達は生きている。宇宙を飛び回り、圧倒的な科学力を誇り、他の惑星で金銀財宝を手に入れる事など朝飯前だ。』
『だが問題点は存在する
ご飯が不味い!!!
というかエサだよ粉の塊だよアレは!飲み物は匂いと甘みか苦味、一口食べる度に感情が死んでいく!タイムマシンで過去に行って本当の【料理】を食べてから食事が苦痛でしかない!!』
『だから君という特異点を探した。未来から干渉しても問題無い、そして料理が上手い君を!何なら連れて帰りたいけど食材が無いから意味が無い。その代金は材料費上乗せの分高いと思ってくれればいい、通貨は使用しても問題無いようにしているから遠慮なく使ってね。』
『いきなり大金を持って不安かい?大丈夫!他の人間には君がなんらかの方法で正式に大金を受け取っていると認識する。少しズルだがこれで問題無い筈だ!』
「必死だな」
『必死だよ!!断られたら世を儚んで自殺する程度には!あんな餌食べたくない!!』
「わかったよ、容赦なく金を貰って大量に食材を買って食えない程送ってやる。覚悟しろ。」
『やったね!今日は記念日だ!!!』
こうして未来人と俺との関係は始まった。